(ベルベットの夜空)

イルミネーションが煌めく駅前で、秀くんと待ち合わせをする。
本当は例年通り家族で過ごしたかったのだが、私に防衛任務やランク戦がある都合上予定の合う日がなかったので、家族には許可を取った上で今年は恋人である彼と過ごすことにしたのだ。

「……遅いわね、」

A級隊員の秀くんは、B級の私よりも難度の高い任務を任されている。それ故、こうやって私に暇ができてしまうのはよくあることだ。
加えてこの人混みの中、彼は私を見つけられるのだろうか。

不安に思いながらも待ち続けていると、知らない青年に声をかけられた。

「君、確かボーダーの子だよね」
「そうですけど……だから、なんだって言うんですか」
「クリぼっちってやつ?それとも誰か待ってるの?」

取材か何かかと思ったが、どうやら私個人に対するナンパのようだ。
そりゃそうだ。取材だとしたら根付さんを通すだろうし、それに対象になるとすればまず先に広報部隊である嵐山隊あたりだろう。

「……待ち合わせです」

こんな奴に、いつまでも付き合っているのも馬鹿らしい。
さっさと会話を切り上げてしまおうと適当にあしらっている、と。

「すまない、遅くなった」

後ろから、聞き慣れた彼の声が――

「秀くん!」
「なんだ〜、彼氏持ちかあ」

振り向くや否や、ふわりと赤いマフラーが私の首に巻かれる。
驚いている私と周りとを余所に、秀くんは私の手を引きながらビルの方へと走っていった。

「そういえば早織、さっき声をかけられていただろう」
「……ええ、相手にする気なんてないけど」
「知ってる。元々お前は人目を惹くからな。もっと早くに来ればよかった」

そう語る彼は、まるで自分に責任があるかのような口振りだ。
彼もわりと顔が整っている方でそれなりに人目を惹くのだが、自分のことよりも私が誰かにとられないかが心配らしい。

「痕をつけておこうとも思ったんだが……コートを着るとどうしても隠れてしまうからな」
「あ、痕……って、秀くんってばそんなこと考えてたの?」

かと思えば、突拍子もないことを言い始める。
それに驚いていると、彼は誤魔化すようにぽんぽんと私の頭を撫でた。

「いや、何でもない。……もう行こう」

***

ビルのエレベーターに乗り、夜景が見えるらしい洋食店に行く。着いた先で記名ししばらく待っていると、15分くらいして私達の順番が来た。
店員に「2名様でお待ちの三輪様」と呼ばれて一瞬背中が跳ねるが、いずれお前も同じ姓を名乗ることになるのだから慣れておけと言われてしまえば何も言い返せない――いや、向こうだったら別姓にもできたのだろうが、ここが日本で私達が日本国籍を持っている以上は仕方ないのかもしれない。

「ジンジャーエールとハンバーグにしようかしら。秀くんは?」
「そうだな……コーヒーと、欧風カレーで」

決まったところで店員を呼び、注文する。
隣の客がボーダーだか何だかと騒いでいたが、まあそれはどうでもいい。換装していない限りは私達だって普通の高校生なのだから、それらしいクリスマスを過ごしたって別にとやかく言うことではないだろう。

そんなことよりも、時間が取れる限りは秀くんと話していたい。
隊としての級は違うが学校でのクラスが同じなので、話したいことは大方学校で話しているのだが、それでも足りないのだ。
先に来た飲み物を飲みながら、適当に駄弁っていると。

「ご注文のハンバーグと、欧風カレーです〜」

30分くらいして、頼んだメニューが来た。
今年も、あともう少しだ。ボーダーにいる以上来年もこうやって過ごせるという保証はないが、それでもいい。
秀くんの側に私がいて、私の側に秀くんがいる。それでいい。

 


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