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親戚とはいえ、いきなりこのようなことをされては流石に理性が持つわけもなく、つい咎めるようなことを言ってしまった。
『お兄ちゃん…?』
一旦体を離し、ゆっくりと彼女を宥める。
「…すまない、いきなり怖がらせてしまったな」
『いいよ、ちょっと驚いちゃっただけ』
「なら、よかった。…これから言うこと、全部聞けるな?」
罪悪感がないわけではなかった。
妹のように甘えてくる彼女の好意に、つけ込むということ。目の前の無垢な少女を、この手で散らすということ。その意味は重々わかっていた。
――けれど、今の俺にはこうするしかなくて。
『…お兄ちゃんの為なら、』
「よしよし、偉いな穂香は。…じゃあ、」
――少しだけ。穂香を甘く蕩かすだけ。
――元はと言えば、煽ってくる彼女が悪いんだ。
そうやって、自分に言い訳して。
ふわりと穂香を抱き締めて、暗示するように囁く。
「――穂香。お兄ちゃんのことだけ、考えて」
『ん…お兄ちゃんのこと、だけ…』
「いい子…布団、行こうか」
彼女を抱え上げ、予め敷いてあった布団に下ろす。少しはだけてしまっている浴衣を脱がすことはまだできないが、かといって直す気にもなれない。
「そのまま、求めてご覧…」
『…お兄ちゃ…っ、』
そっと顔を近づけ、自分から軽く唇を合わせてくる穂香。口を開いてしまいたいという衝動に駆られながらも、あえて彼女にされるままにしていれば、すぐに離されてしまった。
――まだ、足りない。その顔を、もっと歪ませてやりたい。
彼女の唇を指で撫で、耳元でそっと命じる。
「…開けて」
『あ…』
再び開かれたそこを、今度は舌で塞いだ。
びくりと肩を震わせる彼女を他所に、さらに絡めていけば服の袖を掴んでくる。後頭部を手で押さえれば、ぽんぽんと苦しそうに背中を叩かれた。
「苦しいか、」
『…っは、少しだけ…っ』
「でも、気持ちいいんだろう…?」
『…うんっ…!』
左手で顎を掬えば、蕩けた顔で見つめてくる穂香。
そんな彼女をもっと見たくて、よしよしと髪を撫でれば気持ち良さそうに目を細めた。
***
「なら、いいんだ。…穂香、目隠ししようか」
ふわりと頭を撫でられるその感覚に酔っていると、彼は備品のタオルを取り、私の目を覆い隠す。
そして私を抱き締めて髪に触れ、耳元で囁いた。
「穂香は、お兄ちゃんに何されたいんだ?」
『それ、は…その、』
――何をされたいか。
答えは、とうに決まっている。
それを私が返す間も無く、彼は耳に口付けて甘噛みしてきた。
『ん…っ、』
「気持ちよさそう…だな、」
『うん…気持ちいよ、お兄ちゃん』
「よかった。…脱がすぞ」
少しはだけた浴衣の襟を更に広げ、露わになった首筋に歯を立てられる。彼は私の肌に痕をつけているのだろう。自分のものだと主張しているようなその行為に、背筋がぞくりとした。
そのまま落ち着かず足をばたつかせていると、さっきまで襟にあった手で押さえつけられた。
『ひゃ…お兄、ちゃっ…!』
「…どうした?お前はそんな悪い子だったか?」
『違う、悪い子じゃないもん…!』
――お兄ちゃんこそ、そんなに私を責めるような人だったっけ?
記憶の中の“お兄ちゃん”はそんなんじゃなかった、はず。
唇を離して、私を見下ろす彼。それが私の知る“お兄ちゃん”とは思えず軽く瞬きをしても、目の前の景色は変わることがなくて。
けれど今の彼も悪くないと思えてしまうのは、何故なのか。
「そうか…じゃあ、そのままいい子にしててな?」
囁いて、彼は上半身に右手を回す。
もう片方の手で膝裏を抱え、私を仰向けの形にした。
『ん…っ、』
「嫌になったらすぐ言ってくれ、」
『いい、の…?』
「お前を傷つけたくて、こうしてるんじゃないんだから…」
彼の唇は首筋から胸元へと移り、そのまま吸いついてきた。
だらりと布団に体重を預け、その感触を受け止める。
驚きはすれど嫌とは感じないし、傷つくわけでもない。それもそうだ。
――元々、私が望んだことなのだから。
『嫌じゃないよ、お兄ちゃんだもん…』
「それならよかった、」
『うん、だからさ…続き、して?』
壊れ物でも扱うようにゆるゆると進められるそれが、次第にもどかしく思えていく。
躊躇わなくてもいいのに。
もっと、ひどくしても構わないのに。
私が壊れ物だったとしても、彼にならいっそ壊されてしまいたいとすら考えてしまうのに。
彼の服の袖をぎゅっと引き、強請ってみる。
「続き?」
『うん、もっと触ってほしいの、』
「そうか…お前も、まだ足りないのか」
お前“も”、ということは彼も満ち足りていなかったのだろう。
位置を変えて幾つも痕をつけられ、その度にぴくりと私の身体が跳ねた。
『…っ、あ!』
「確かに…まだ足りなそうな顔、してる」
『痕、いっぱい…っ!』
「服着れば隠れるから…な?」
吸い付かれる感触がなくなったかと思えば、今度は痕の部分に舌が這わされる。
生暖かいそれでぬるりと舐め上げられる度に、びちゃびちゃと耳に響く水音と共に肌が濡れていく。
「ん…少し、つけすぎたか」
困ったように言いながら、顔から口を離される。
その唇が次はどこに触れるのか――思考を張り巡らせる間も無く、それは唇に触れてきた。
理性と本能の間で揺らいでいるのか、それとも単に照れ隠しなのか。いきなりされる深い口付けは、ゆっくりと私の脳を麻痺させる。
『んっ、はぁ…っ』
「よしよし…」
そのまま首元へと手を回され、私が覆い被さるような体制にされる。私からも腕を彼の首に回し、互いで互いを縛りつける形になった。
せっかく互いが休みの時に久し振りに会えたのだから、今日ぐらいこうやって甘えたって構わないだろう。
お兄ちゃん、お兄ちゃん――思考回路が、どんどん焼き切れていく。
「穂香の気が済むまで、付き合ってやるから。…ずっとは無理だが、今日と明日はこの旅館に泊まるんだろう?」
『うん…っ、』
「だから…な、穂香?」
目隠しのタオルを解かれ、突然開けた視界に少し戸惑ってしまう。その間に手は首に回され――彼の上から動けないままの私。
『なーに…?』
「お兄ちゃんのものに、なってくれないか…?」
言われなくとも、そうなったつもりでいた。
頷けば、仕上げとばかりに再び首筋に歯を立てられる。
「ん…本当に、お前は可愛いな…」
痕まみれの私を映す、翡翠色の彼の瞳に射止められる。顔がぎりぎりまで私に近づいて、互いの額がこつんと合わさった。
「ずっと、お前をどんな目で見ていたか…気づいてないわけじゃないよな?」
***
考えてみれば、穂香に出逢ってしまったのがそもそもの始まりだったのかもしれない。
――「ほら、伸元。安芸さんとこの穂香ちゃんだ、挨拶しなさい」
――「ん…宜しく、」
ぎこちなく頭を下げる俺と、満面の笑顔で『お兄ちゃん!』と呼ぶ彼女。
この頃はまだ、普通の親戚として上手くやれていた。きっと、これからもそうできるとばかり思っていた。
けれど、穂香が高校に上がったくらいのある日――俺は気づいてしまった。心のどこかで、彼女を『妹』として扱えなくなっている自分がいるのだ。
それからの俺はしばらく穂香の顔もまともに見れなかった。
自分を兄のように慕ってくれる彼女の前でそんな態度をとってはいけないと頭ではわかっていたのに、目を合わせることができないのだ。
理性とは裏腹に彼女への情念は増していき、抑えられなくなっていく。それをこんな方法でしか制御できない俺は、親戚としても『お兄ちゃん』としても失格なのだろう。
――ああ、もう。
「どこで間違えたんだ、俺は…!」
すると、先程からうとうとと眠っていた穂香が起きた――というか俺が起こしてしまったらしく慌てて口を閉じた。
『大丈夫ー……お兄ちゃんは間違ってない、からー…』
「…穂香?」
『私、ちゃんと知ってる……』
彼女の言葉は、あくまでも寝言なのだろう。けれど、少なくとも彼女が俺を許してくれているという事実にほっとした。
ここに来る過程で疲れが溜まったのか、それとも俺のせいなのか。今度は深く眠り始める彼女に、そっと布団をかけてやる。
「お嬢ちゃん、は…寝ちまってんのかな、」
扉の向こうから声がする。
親父だ。穂香の様子を見にきたのだろうか。
「伸元、そろそろ受付代わってくれ」
彼女の寝姿を見届けて、俺は立ち上がり部屋を出た。
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