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先程まで私を縛りつけていた縄の跡が残っている。明日あたりには消えるだろうと、お兄ちゃんは言っていた。
明日か…もしそれまでにおとーさんや従業員さんと会ったら縄の跡が見つかっちゃう――
どうやって説明しようか、と考える私。
もし、私のせいで親子の仲が拗れてしまったら…なんて事にならないように、慎重に。

『どうすればいいんだろ…』

そうしている内に、襖をこんこんと叩く音。噂をすれば何とやら――とは誰が言ったか。

『えっ…ど、うしたの?』
「お嬢ちゃんとこの饅頭、全員に配り終えたぞ」

おとーさんは、昨日渡した饅頭が入っていた箱を見せながら私にそう告げる。
なんだ――
私を怪しがってここに来たとか、そんなわけじゃないんだ。
少し安堵しつつも、彼の持つ箱の中身が気になり目を向ける。

『まだ中身……あるっぽいけど』
「ああ、酒が苦手な奴もいるからな」
『なるほど、それで余ったんだね』

よく見てみると、余っていたのは私がまだ試食していない酒入りの饅頭。
まあいいか、直接飲むわけじゃないし。法的には多分問題ない。
それに、元々は私の家のものだ。味を確認するという意味でも、一度食べてみたい――

「お嬢ちゃん……食べたいのか?」

私の意図に気づいたのか、彼は饅頭を手に取り私の目の前に来るようにテーブルの上に置く。
少し戸惑いつつもそれを受け取り、そっと包装を剥がす。

「余らせても安芸さんとこに失礼だから、構わんよ」
『ありがとう…いただきます』

剥がしていない部分を持ち、饅頭の上側を咥える。
私が食べたのと同じかと思い食べ進めていたら、身体はふわふわと熱に浮かされていく。

『ん…これ、なんか…身体、ぽかぽかする…っ』
「やっぱ…まずかったか?」

崩れ落ちる私を見かねたのか、彼は心配そうに顔を覗き込む。
そうか…こんな感覚になるんだ。
だから、お母さんはこれだけ試食させてくれなかったのか。

「お嬢ちゃん…寝てもいいんだぞ、」

彼のその言葉に甘えるように、私はゆっくりと布団の上に横たわる。

「お前さんには、まだ早すぎたかな…」
『うん、私には…刺激が、強すぎたんだね…っ、』

ここに来られるまでに何を考えていたかなんて――すっかり忘れてしまっていた。



酔いが回ったのか、布団に沈み動けない私の身体。
このまま、眠りに落ちてしまいそうだ。
寝てしまうと夕食が食べられなくなるため、何とか起き続ける。
そんな私を心配したらしく、おとーさんは私の頭を膝に載せそっと頭を撫でてきた。

『んー……おとーさぁん?』
「お嬢ちゃん…夕食、後にしてもいいんだぞ」

そう言ってくれるなら、後でもいいか。今すぐに夕食にしたいわけでもないし――
考えながら、ぱちりと目を閉じる。
体温が移ったのか、次第に布団の中も温まっていった。

『ん、ありがと…そうするね、』

そんな深く眠るわけじゃない。ただ、しばらくうとうとするだけ――

「じゃあ、また一時間くらい後に声かけるからな…」
『わかった……』
「昨日のことで疲れたんだろう。…おやすみ、お嬢ちゃん」
『んー、ふふ……ともみさぁん……』
「うん?…ああ、俺の言葉で思い出しちまったのか」

思わず口をついて出てきたのは、昨日私が使った彼への呼び名。意識なんてしていない――本当に、思い出してしまっただけ。

『昨日のことでなんて言うから…っ』
「…悪かったな、嬢ちゃん」

***
 
いつの間にか娘さんは寝落ちてしまっていた。
最初に寝てもいいと言ったのは俺だしな――と、膝に載るその体温を受け止める。
純粋に父と慕ってくれている娘さんを手にかける度に、背徳感に苛まれていく。

「…本当に可愛いんだよなぁ、お嬢ちゃんは……」

そりゃそうだ、人の――それも息子の彼女に添い寝しているんだ。いい事とは決して言えない。

「こんな可愛い子を彼女にした伸元が、羨ましくなるよ」

目の前で眠る娘さんの寝顔も、本当は伸元に向けられるべきもの。
わかっているのに、もっと彼女に触れたいと、いつかは独り占めしたいと望む自分がいる。

「…どうしたもんかな」

思えば昨日からずっと彼女のことを考えていた。
その度に苦しむのは俺自身。
それなのに、考えるのをやめられないのは一体何故なのだろうか。
ついさっき胸に過ぎった、息子への嫉妬だって。
酒に酔わせて自然とこういう流れに持ち込めた時の高揚感だって。
全部、全部親戚の娘さんに向けるようなものではないと、昨日の時点でわかっていた。
俺がこんな感情を抱いていることを伸元や娘さんが知ったら――この旅館にはいられても、愛すべき息子とその彼女の元にはきっともういられなくなる。
決してそうなりたくない、けれどこの感情が消せない。

「……すまねぇな、二人とも」

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