03
よわむし
鼠色の空から降る幾千もの雨粒が、窓を叩き、硝子の上で弾け、涙のように流れ落ちていく。
こんな日は、第一次大規模侵攻のことを思い出す。
「尋く〜ん……」
「ん?眠れないの?」
隣にいる尋くんを伺わずにはいられない、そんな自分が小心者であることは自覚している。だからこそボーダー隊員の彼にはいつも守ってもらっているし、今日もこうやって私のわがままで添い寝してもらっているのだ。
弟の秀高くんですら今の年齢では尋くんにこんな子供じみた甘え方なんてしないだろうに、彼と同い年の私は何をやっているんだろう。
情けないな、ほんと。
「うん……雨の日はどうしても、ね……」
こんな弱虫な私、本当は誰にも見せたくなかった。
けれど恋人の尋くんにだけはそれを見せてもいいと、そう思えたから私は彼を頼っていられる。
「そっか、」
「心配させてごめんね……」
「いいよ。**ちゃんの気持ち、わかるから」
私の身体を覗き込むように、枕元に座ってきた。
添い寝といっても、一緒に寝そべったりはしない。したらもっと安心するのだろうけれど、そうするにはいささか布団が狭すぎる。
「雨の日って、どうしても気分沈んじゃうもんね」
気分が沈む、なんて話じゃない。
ゲートが開いて、幾千もの黒い雨が降って、近界民が攻めてくる――そんな記憶が蘇って、どうしても不安に身体を震わせてしまうのだ。幸い私は大事な人を失うことはなかったし、今はもうボーダーが守ってくれることはわかっているはずなのに、その光景ばかりが脳の底にへばりついて洗い流れてくれない。
どうせその記憶ごと雨で流してくれれば、どんなによかっただろうか。
「そうなの……」
「だよね。もし近界民が襲ってきたら……とか、思ってる?」
「……っ、」
不安の正体はちゃんとわかっている、けれど改めて言葉にして突きつけられると涙が溢れて止まらなくなって。
身体を起こして尋くんの膝に顔を埋めれば、彼の服がどんどん私の涙で濡れていくのがわかった。咽び泣く私の頭がよしよしと撫でられた、かと思えばその手は降りて私の肩へと移る。
「もう……不安になるのもわかるけど、顔上げて?」
「……ひろ、くん?」
「もしそうなったら、その時はゾエさんが君を庇ってあげる」
――大丈夫、ゾエさんはこう見えて元A級だよ。
そう笑ってみせる尋くんはいつも隣にいるときの彼と同じ顔で、けれどどこか戦っているときのような強さを瞳に宿していた。
すぐ彼に頼ってしまうような弱い私とは正反対の、芯のある強さ。
「……ほんとに?」
「本当だよ?彼女くらい守れなくてどうするの」
そうやって、尋くんが再び私の頭を撫でるものだから。
「うぅっ……ごめんね、ひろくん……っ、」
弱虫で泣き虫な私はまた、守られてしまうのだった。
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