03

てつなぎ


今日はボーダーの予定はないが、もっと大事な予定がある。それは将棋をするでもなく落語を見に行くでもなく、恋人の**と会うことだ。
この間俺が見つけた揚げ春巻きが美味しいと噂のうどん屋に彼女も興味を示し、せっかくならば二人でランチデートしようと提案されたのだ。

ただ、彼女はとんでもない方向音痴だった。

「なあ、今どこにおんねん」
『あー……ごめん、今駅への道訊いてるとこ』
「**、また迷子になってるん?そやさかい、家でにしよう言うたのに」

待ち合わせ場所である駅前に先に着いた俺は、いつものように彼女に電話をかける。
俺は**が迷わないようにとちょくちょく俺か彼女の家でのデートを勧めているのに、親が許してくれないからと結局は外出することになってしまう。それでどこかで待ち合わせをするも、道に迷った彼女が少々遅れて到着するというのがいつものパターンだ。
今日もそう。5分前だというのに、彼女が現れる気配が全くしない。

『あと10分くらいで着くから……!』
「わかった。俺はその間、スマホの将棋アプリでもやってるなぁ」

急いでいるらしい**から用件を聞いたのち、電話を切る。
そうしてスマホで15分ほど将棋を指していると、ようやく後ろから彼女の生声が聞こえてきた。

「ごめん敏志くん!また道に迷っちゃって……」
「全然ええで。ほな行こ?」

彼女の手を取り、うどん屋への道を歩く。
人通りが少ない路地だから、はぐれる確率は減るだろう。何より、こうして手を繋いでいるのだ。
どちらかが振りほどきでもしない限り、迷う心配はない。

「確か、この店……だったかな」
「ちゃうちゃう、その隣の店や。早う入ろ?」

店の場所を隣と間違える彼女にツッコミを入れつつも、こっちだと手を引きうどん屋に入る。幸い客は並んでおらず、すぐに入ることができた。
席に通され、注文をする。

「俺、うどんの揚げ春巻き載せで。**は?」
「じゃあ私もそれにするわ。それ食べに来たんだもんね」

10分ほどして、注文したそれらが来た。
想像したより早く来たことに少し驚きもしたが、嬉しさの方が断然上回っている。
そりゃそうだ。好物のうどんの上に、好物の春巻き。それを大好きな**と食べるのだ。イコさんの言う「マグロのカツの丼がウマくないわけがない」とはこのような意味なのだろうか。

「ほな、食べよか。いただきます」


 
お目当てのうどんは想像と違わない美味さで、彼女と来た甲斐があったというものだ。けれど、ランチだけで解散してしまうのはあまりにももったいない。
次に行く場所もまだ決まらないまま、彼女の手を引く。

「次、どこ行く?」
「次か……ほな、あのショッピングモールに行こか」
「いいね!」

マリオが勧めてくれた店があるショッピングモールの方角を指差し訊けば、**はすぐにノってくれた。ただ、あの辺はうどん屋と違って人が多い。彼女が人混みに紛れ、はぐれてしまう可能性はかなりある。
俺はまた、**の手を握った。

「**、」
「敏志くん?」
「――俺から、離れんといてや」

顔が熱くなるのが、自分でもわかる。
あくまでもはぐれたら困るからという意味だが、捉えようによってはプロポーズか何かに聞こえてしまう言葉だったからだろう。

「……へ?」
「そ、その……はぐれると困るさかいって意味や!早よ行くで!」

照れをごまかすように、彼女の手を強く引いて。
人混みの中、ふたりショッピングモールへと走り出した。

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