01

ざわめき


「**ー!」

昼休み。
手を振りながら後ろから私を呼ぶクリーム色の髪の少年がいた。何を隠そう、彼がご存知弾バカこと出水公平である。

「なにさ」
「お前の弁当からおかず貰っていーい?」
「……は?」

聞けば今日彼は弁当を忘れてしまい、しかもそれを持ってきたものと思っていたため予備の何かを買うこともしなかったらしい。最初は米屋を頼ろうとしたそうだが、米屋は米屋で防衛任務があり、その都合上学校を早退していたから頼れなかったとのことだ。
前の席から後ろを向いて彼の前に弁当を持っていくというのは少々体勢的にきついが、それでも落とさないように気をつけながら彼の机に弁当を置いて蓋を開ける。

「おっ、エビフライあるじゃん!分けて!分けて!」
「それもう渡すこと前提で言ってない?」

彼とてボーダーにいない時は普通の男子高校生な訳で、好物を見れば嬉しくもなるしはしゃぐのも無理はない。しかも今日に限ってエビフライだのコロッケだのそういう揚げ物ばかりを弁当箱に詰めてきてしまったものだから、私の弁当が彼に半分以上取られてしまうことは容易に想像できる。

「しょうがないなー……ちゃんと私の分残してよ?」
「わーかってるって!」

とは言ったものの、箸は一膳しかないので私がなんらかの形で出水に渡さないといけない。仕方がないので狐色の衣に包まれた海老を二本の箸で挟み、開いている彼の口に運ぶ。

「……って、結局こうなるんじゃん!」

さくり――と、彼の歯で衣ごと噛み砕く音が聞こえる。
目の前の天才は私の言葉を聞き流した上でさも当然のことであるかのごとく咀嚼し、飲み下し、そして返事でもなんでもないことを言った。

「お前んとこのエビフライうめーな!誰が作ったんだよ?」

チルドのエビフライなのだから、美味しくて当たり前だろう。ついでに隣に並んだコロッケも同じくチルドのものだし、みかんに至っては缶詰のシロップ漬けにされたものだ。

「冷凍食品だけど?」
「あー……チルドかあ。**の手作りだと思ったのにー」
「……まさか、手作りだと思ったの?」

まあ、彼もあくまで冗談で言っているのだろう。
もし米屋がここにいたら、もっと騒がしくなるのではないだろうか……と、今ここにいないクラスメイトに軽く思いを馳せる。

「冗談冗談。……あっ、でも」
「でも?」

深く突っ込む気はないが、少しだけ気になって聞いてみる。と、

「――それ、本当にしちゃう?」

思いがけない返答。
彼のために手作りのエビフライやコロッケを揚げる光景が浮かび、それに慌てて消しゴムをかけた。
自分の分のエビフライを落としそうになったが、なんとか受け止める。

「すっ……」

するわけないじゃん!……なんて、すぐに返せなかったのは何故だろうか。
それはきっと、

「する?ならその時言えよー」
「……いっ、いつかね!いつか!」

それを本当にしようとしている自分が、どこかにいるからなのだろう。
騒めく胸を抑えつつ、残りの分を口に運んだ。

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