02
ぬくもり
「もしもし、」
交際相手の二宮さんを探しに彼の隊の作戦室を訪ねるも、彼はいない。
隊員の犬飼くん曰く、元隊員である鳩原さんの失踪に深く関わっていたとされる人――確か、雨取麟児といったか――の調査のために、その妹である玉狛の雨取さんを訪ねていたらしい。
まだ、彼は鳩原さんのことを引きずっているのだろう。
外では『作り笑いが顔に張りついた冴えない女』などと評しておきながら、今でも失踪の真相を個人的に探るくらいには思い入れがあるようだ。
そりゃそうだ、鳩原さんは彼が大好きな『才能のある人間』だ。人が撃てないとはいえ、ボーダーの現役戦闘員の中でも上位に入るトリオン量と技術を持っている。ユズルくんからも、上位2人を差し置いて狙撃の腕は一番だったと称されているほどだ。
「はいはい、どうせ私は鳩原さんと違って才能のない人間ですよー……」
あんなに引きずられるくらいなら、惰性で私の告白を受け入れることなんかせずに彼女だけを追いかけてそのまま向こう側に行ってしまってくれていた方がよかった。尤も彼が本当にこちら側の世界を離れることを考えればそれはそれで寂しくなるけれど、そうでもしてくれなければきっと私は楽になれない。
いくら二宮さんが引きずっていようとも彼女はもうこちらの世界にいないのだし、第一今彼と付き合っているのは私なのに。
いっそ、彼のことを嫌いになってしまえれば。
そうすれば、楽になれるのだろうか。
彼の言葉だけでなく気持ちごと私に向けられるという叶わない理想を、きっぱりと諦めてしまえるのだろうか。
代わりだとしても、付き合えているだけで幸せなのか。
代わりなのならば、いっそ別れてしまえば幸せになれるのか。
どちらなのかは、私にもわからない。
けれど。
鳩原さんの代わりでしかないというのが現実だとして、やはり気持ちよく受け入れられるものではなかった。
「そんなにあの子のことが好きなら、あの子と付き合えばいいじゃない……!」
気づかないうちに口から出ていたのは、紛れもない本音だった。
とはいえ、ここには犬飼くんも辻くんも氷見さんも、もちろん件の二宮さんもいない。
だから、誰にも聞こえていない――はず、だった。
「……で、誰が誰のことを好きだって?」
それを覆したのは、今ここにいないはずの彼で。
「二宮さん?なんで、ここに……?」
「調査が終わったからな、戻ってきたんだ。……それより、さっきのは何だ?」
嘘。
聞かれてしまっていた、だなんて――
「そ、その……二宮さん、本当は鳩原さんのことがまだ好きだったんじゃないかっ て……」
「……は?」
「だって……貴方は口を開けばいつも『鳩原を』とか『鳩原が』とかって……!」
どうせ聞かれていたのならば仕方ないと、私は怒りとも泣き言ともつかないそれを彼にぶつける。
話し終える前に泣き出してしまい嗚咽が混ざりかけたところで、彼は慰めるように頭を撫でてくれた。
「鳩原に妬いたんだな……そんな思いさせて、悪かった」
「っ、え……」
「**が鳩原のことで思い悩んでることも、それが俺を好きでいてくれている故だということも、全部わかってる。……だから、誤解を解かせてほしい」
そうやって切り出した彼は、鳩原さんのことは確かに気にしているがあくまでも『元部下』としてでありそれ以外の感情を挟んで見てはいないこと、今好いているのは私だけであることを語ってくれた。
あれだけ望んでいたはずのそれらを最初は信じられずにいたが、それを思い知らせてやるとばかりに抱き締められれば疑いようもなかった。
何よりも、その温もりが証明していた。
「……これで、わかっただろ?」
「っ……は、はい、」
――結局、私は鳩原さんの代わりなのではないか。
先程までは、その疑念を受け入れるべき現実としか思っていなかった。
けれど、それはあくまでも私の杞憂でしかなかった。
二宮さんは、最初からちゃんと私だけを見てくれていたのだ。彼から向けられる言葉も感情も全部、私だけのものだったのだ。
「**。もう、誤解は解けたか?」
「はい、おかげで安心しました……っ、」
もう、大丈夫。
私はもう、鳩原さんのことで悩まなくていい。
だって。
今、私はこの上ない温もりを手に入れたのだから――
prev next
← site top