野薔薇の幕

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初めての女装デートから2ヶ月ほど経った今でも、俺は女装した状態で彼女である**と絡むことをやめられない。お嬢だのくのいちだのと呼ばれることはあれほど拒絶しておきながら、その実彼女とお揃いの――本来は姉が着る予定だったロリータ服を着た状態でなければ興奮できなくなってしまっているのだ。
あくまで女装していながら女性ではできようもないことをしているという矛盾が堪らないのであって、女装そのものに興奮しているのではないことははっきり言っておく。

「なあ、姉ちゃん。あのロリータ服、何円くらいだった?」
『あはは、豹馬ってばすっかり女装にハマった?私があの服あげたから?』
「ハマった……って、女装自体に思い入れがあるわけじゃねーよ!……でも、**とするときは女装じゃないとなんか興奮しなくなってきたかも」

事実、俺が持っている女物の服はあのロリータ服1着しかないし、女装で外を歩いたのだって姉に食べ歩きの写真を送ったあの1回だけだ。けれど、女装をするようになる前の行為がどんなふうに気持ちよかったのかすら覚えていないほどにはのめり込んでしまっている自覚はある。
そんな――姉のせいで新しい扉が開かれてしまったともいえる俺を、姉はあの服を着せて本当によかったと冗談めかして笑う。

『でもさ、豹馬。私もあの漫画とのコラボアイテムが欲しかっただけだったからあんまりロリ服全体に詳しいわけじゃないけど、ロリ服って結構高いよ?それに**ちゃんはともかくとして豹馬に合うサイズがあるかどうかも考えないと……』
「あー……あれ、結構高そうだったもんな、」
『あの服じゃないとダメなのか、それとも女の子の格好ならなんでもいいのか、**ちゃんと色々試してみたら?あっ、でもあの服を着て配信してお金稼ぐのも、アリかもね』

――あの服を元手に配信をして、スーパーチャットなどで金を稼ぐ。
そのあたりのビジネスには玲王が詳しそうだし、あいつや現役モデルでもある雪宮の伝手を辿れば本格的なスタジオでも借りられるだろうけれど、俺が女装していることを知られたら蜂楽あたりに揶揄われるに決まっている。そして、この姿の――白いロリータ服を着た彼女の姿も、本当は誰にも見せたくない。
けれどその羞恥と独占欲を天秤の同じ方の皿に載せてなお、この服を着て行為を続けるために配信をすることを渋々ながら選んでしまうあたり、もう俺は今までの自分に戻れなくなってしまっているのだろう。

「……じゃあ、その配信ってやつ教えてくれねーか?」
『おっ、豹馬ったらやる気出ちゃった?**ちゃんと相談して、OKもらえたら連絡してね』
「わかった」

俺は姉との電話を終え、撮影の件を確認するべく**へと電話をかけた。



結果的に**からのOKも取れた俺は、姉同伴でホテルで撮影することになった。俺と彼女の部屋と、姉の部屋、隣同士でそれぞれ一泊分。
撮影はそこそこ広めな俺の方の部屋ですることにして、2人分の荷物も見えないところに置いておく。

「義姉さん……!久しぶりです……!」
「あはは、久しぶり。豹馬と仲良くしてくれてるみたいで、ありがとね」

姉と**は元々俺抜きでも一緒に出かけるような関係で、女装デートも元々その2人がする予定だったのを姉側の服のサイズが合わなかったからという理由で俺が代わりに彼女としたものだ。俺と**のロリータ服姿を知っている数少ない人物のひとり、というよりはむしろ俺がロリータ服を着るきっかけを作ったそもそもの元凶だった。
そして俺と彼女以外で、唯一俺の女装癖――という言い方はいまいち腑に落ちないが――を知っている人物でもある。

「あっ、そういえば**ちゃんと最近2人で遊び行ってないや!豹馬ばっかり**ちゃん独り占めされても困るからね!?」
「いや、姉ちゃんのじゃなくて俺の彼女なんだけど……」

そんな会話をしつつもう着慣れたロリータ服に着替えて**のもとに向かえば、ベッドの上には既に俺とお揃いのロリータ服を着た状態の彼女が座っていた。今のところは姉が買ってきてくれたタピオカドリンクだのデザートだの、俺や彼女が好きな甘いものを食べながらただ雑談をするだけの予定だ。
俺の名前は最初はそのまま苗字から取って『千』をフランス語に訳しただけの『みる』にする予定だったけれど、それではさすがに玲王あたりに気づかれるだろうからと好物のかりんとう饅頭から取って『かりん』にした。ちなみに**の方は、白い服を着ているから『ましろ』という名前だ。あまり隠す必要がないから本名でいいというのが彼女の意見だったけれど、不特定多数に彼女の姿が晒されるのは百歩譲って許せるとして、名前が呼ばれるのはどうにも許せなかった。

「**ちゃん、もうちょっと距離縮めれる?」
「あ……はい、ちょっと照れますけど……豹馬くん、足痛くない?」
「俺は大丈夫だ、ありがとな。ほら……」

姉のスマホが設置されたスタンドの前。普段よりも少しだけ濃いめの化粧を施した俺と**は、まずはサムネイルの撮影をする。
いつも通り彼女と向かい合わせで、俺の膝の間に彼女の足が入るような体勢で。ご丁寧に薔薇の花びらが散らされたベッドの上に座り、あの漫画のワンシーンのようにぎゅっと身を寄せ合った。
やがて鳴り響く、カシャリと軽いシャッター音。

「はい、撮り終わったよ。……**ちゃんも豹馬も可愛い……!」
「ありがとうございます……っ!」
「ったく、恥ずいんだけど……」
「**ちゃんも豹馬も、本当にあの漫画から抜け出てきたみたい!これはバズり間違いなしだよ!」

興奮気味に言う姉ちゃんの言葉を聞きつつ一度トイレ休憩を挟んだのち、2人でアプリを立ち上げたスマホの画面に映るように、いつも通り**と向かい合わせでベッドの上に座る。
横顔だけを見せるスタイルならあまり顔バレもしないだろうし、彼女には気づかれないように俺の顔だけ見ていてもらうことにした。甘いものなどはカメラに映らない冷蔵庫にしまってあり、姉に適宜出してもらう形になっている。

「なあ、**。本当は姉ちゃんとこれ着て、姉ちゃんと出かけて、姉ちゃんとこんなふうに絡むんだったろ」
「……そう、だけど、」
「今だけは、俺を姉ちゃんだと思っていいよ」

本当は俺だけを見ていてほしくて、だから姉と重ねられるのはどこか釈然としなくて。けれどこの配信だと俺も女性という設定で通すつもりだから、仕方なく姉さんと呼んでもらうことにしている。
もちろん撮影が終われば今まで通り豹馬くんと呼んでもらうけれど、こうしておけば姉に嫉妬することもないはずだ。

「じゃあ、スイッチ押すねー」
「ん。……始めるぞ」

その声で、幕が上がる。
本来俺以外触れられない――触れさせたくない**の姿だけれど、彼女とロリータ服プレイを続けていくためだ。画面の向こうの奴らにも、ほんの少しだけ見せてやる。
フリルと、レースと、リボンの花園。俺以外は一生触れることすら叶わない、硝子越しの2人の世界を。

***

自己紹介、らしいものはしなかった。一応サムネイルや概要欄に2人の名前は載っているし聞かれたことには答えるつもりでいるが、視聴者と話すというよりは2人の世界を魅せる動画だからそれで問題はないだろう。
実際何も問題はなかったらしく、視聴者は基本的には傍観者に徹してくれているようだ。事実、自動で読み上げられる視聴者からのコメントも、ほとんどが俺と**の様子を見守るものだった。

「ほら、あーん」
『えっ何?百合カップルの配信?リアルにそういう関係なのかな?』
『うわっ、赤い子も白い子もめちゃくちゃ可愛い……!』
『あ、確かその服漫画のやつだよね?地毛?』

とりあえず俺の地元の抹茶が使われているというクリームあんみつをスプーンで一口掬って、**の口に運ぶ。ぱくり、と小さな口を開けてそれを頬張る彼女に美味しいかと問えば、こくりと小さく首を縦に振った。
本当は女性同士ではなく男の俺と女の彼女なのだけれど、実のカップルであることには間違いはない。俺が甘いものが好きなのも、この赤い髪が地毛なのも本当のことだし、この服で絡み合っているのもいつも通りのことだ。性別と名前以外、偽りはなかった。

「ひ……姉さんって、本当こういうの好きだよね」
「ああ。コンビニでも普段あんこ系の買っちゃうしなー」
『姉さん呼びなのかー……確かにかりんちゃんって姐さんな感じあるわ』
『かりんちゃんもましろちゃんも可愛い〜』

流れるコメントに目を通しつつ、ときには質問にも答えながら、いつも通りに絡んでいく。
スーパーチャット――というのだろうか、赤い背景のコメントをくれる人からのリクエストに応える形で彼女の指や唇についているクリームを舐めとったり、苺をまるでポッキーゲームのポッキーのように俺と彼女の両側から咥えて最後にキスをしてみたり。たまに姉からフリップで飛んでくる指示に従いつつ、2人きりの時間を楽しんでいた。
けれど、ふと質問でもスパチャでもないのに見過ごせないようなコメントが目について。

『ましろちゃん彼女に欲しい』
『いやwwwましろちゃんはかりんちゃんみたいな美人しか釣り合わないからwww』
『俺らが一切眼中にないのがいいんだろ?』
「あー……うん、そう。お――私のだから」

俺の、と勢い余って言いそうになるも、慌てて一人称だけを直す。
そうだよ。ましろは――**は、俺のもん。俺以外、誰も釣り合うはずがない。釣り合う奴が万が一いたとしても、俺がそいつら全員ぶち抜いてやる。
ぐい、と彼女の身体を――もちろん顔は映らないように横向きのままで――引き寄せ、視聴者に向けて微笑んでみせた。

『ひえ、かりん姐さんイケメンすぎる……!』
『こりゃ立ち入れないわな〜』

画面の向こうの彼らには悪いし、配信しておいて今更な話だけれど、俺は本気で言っている。
**は、俺のものだ。男だろうが女だろうが関係ない、誰にも渡さないし譲らない、例えそれが俺の姉であっても。今こうやって画面越しの不特定多数に姿だけは見せてやっているけれど、触っていいのも絡んでいいのも俺だけなのだ。
ちらりと**を見遣れば彼女は少しだけ顔を赤らめてこちらを見ていて、目が合った瞬間嬉しそうにへにゃりと笑った。

「ああ、そうだよ。2人の世界、だもんな?」

画面の向こうにも聞こえるように**の耳元で囁けば、恥ずかしそうにしながらもこくりと小さく首肯する。
結局2時間ほどスイーツを食べたり、タピオカドリンクを飲んだりしながらいちゃついて。最後は2人揃って、手を振りながら幕を下ろした。



配信終了後、姉が興奮気味に感想を述べてくる。

「お疲れ様〜!さっきの配信、めっちゃ伸びてる!」
「あー、そういえば結構見てる人いるみたいだったな……」
「スパチャも結構来てたみたいだし、これなら2人分のロリ服も買えると思う!」

1日でこれだけ稼げるとは思わなかったけれど、それくらい先程の動画は好評だったようだ。ちなみに、投げ銭された分のお金は姉の口座に振り込まれるらしい。
メイクを落として、パニエとドロワーズを脱いで。後処理を終えてゆっくりしていると、姉が機材を抱えて部屋を出るところだった。

「豹馬達さ、夕食どうするの?」
「あー……考えてねえわ。このあとコンビニとかで買うつもりでいたし……」
「じゃあさ、この辺りに美味しいご飯もののお店あるから、行ってきたら?豹馬の好きな明太子も、一本丸々出してくれるよ」
「サンキュ。**にも訊いてみるわ」

配信に夢中になっていて気づかなかったけれど、いつもなら夕食を摂っているはずの時間になっていた。姉が部屋を出て行ったのと入れ違いでトイレから戻ってきた**に夕食について訊けば、彼女も俺と同じで特に何も考えていなかったらしい。
夕食を食べに行くなら着替えなければいけないのだろうけれど、なんだか着替えてしまうのが惜しくなってしまって。もう、いっそ――このまま、彼女と絡み合ってしまいたいような気がして。

「どうする?飯行く?それとも……このまま、続きしたい?」
「え……?」
「あの配信で何度か『豹馬くん』って言いかけたの、知ってんだよ。――もういいよ、『**』」

名前を呼びながら**の手を握って問えば、彼女がゆっくりとその手を強く握り返してきた。
正真正銘、2人だけの世界。甘い香りに包まれながら向かい合って、どちらからともなく唇を重ねた。

***

「……んっ、ぁ、ふ……ぅ、あっ、やら……♡」

ジャンパースカートの下に手を入れて、ショーツの上をなぞるように指を這わせていけば、**はぴくりと肩を跳ねさせて小さく喘ぐ。画面の前の誰も知らない――姉すら見ることはできない、俺だけが知っている彼女の姿。
やがてショーツを脱がせてしまえば、既にそこは潤っていて。彼女の細い脚の間に身体を沈めて、蜜を溢す場所に舌を差し入れた。

「ひ、や……ッ!?だめ、やら、ひょーまく……♡」
「**、こうされるの好きだろ?ほら、」

わざとらしく音を響かせて溢れる蜜を吸い上げれば、**は更に声を上げて乱れていく。もっと気持ちよくさせたくて、ぷっくりと膨らんで存在を主張している秘芽を甘噛みすれば、**はひと際大きな声で鳴いた。
そのままちゅうっと強く吸ってやると彼女は呆気なく果ててしまったようで、ぐったりと身体を弛緩させていて。

「はは、本当に可愛い……」

この乱れた姿を知っているのは、知っていいのは俺だけだ。
とうに蕩けきった表情を浮かべる**のそこに、今度はぐちゅりという水音とともに指を埋め込んだ。そのまま弱いところを責め立てればナカはきゅうきゅうと締まり、そのまま弱いところを刺激し続けると彼女は背を大きく仰け反らせて達した。

「ひゃ、あ……♡あぁ……!ふあ、あ……ッ!イっちゃ……〜〜〜〜〜♡」

同時に膣内が激しく収縮し、俺の指に蜜が絡みつく。こんなに快楽に溺れているというのに、それでも**はまだ足りないと言うように俺の首に腕を回してくるのだ。
――もっと、もっと欲しい。
そう瞳で訴えてくる彼女を前に、今更我慢できるはずもなくて。熱を持った場所にゴムを纏わせて、彼女の身体を持ち上げ――いつも通り、向かい合うように膝の上に座らせた。

「……ほら、」

先端を入口にあてがってやれば、あとは**が腰を落とすだけだ。そのまま躊躇なく腰を沈める**のナカにずぶずぶと呑み込まれるまま根元まで全て収まったところで、どちらからともなく唇を重ね合わせた。
彼女の唇で引かれ解けたリボンを合図にゆるく突き上げてやれば、彼女もそれに合わせるようにして動き始める。次第に激しくなる抽挿に、お互い限界を迎えようとしていた。

「ひょーま、く……!ふ、あ、あ……!あ、あ……〜〜〜〜〜〜っ♡」
「っ、は……」

最奥を突き上げた瞬間、**の身体がびくりと震えて絶頂を迎える。それと同時にぎゅうっと締めつけられて、俺は薄い膜の中に欲を放った。
しばらく余韻に浸っていたけれど、そろそろ空腹が限界だ。どうやら彼女も同じだったらしく、2人でロリータ服からチェックインしたときに着ていた服に着替え、先程姉の言っていたご飯ものの店に行く支度を始めた。

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晴天のじゃじゃ馬