home works update

『世っちゃんが幸せに生きてくれたら、私達親としてはそれでいいと思っていたんですよ』
『英雄でも凡人でも、勝っても負けても世一は世一ですし。結婚を考えてると言ってあの子を連れてきたときも、認める認めないどころか本気で喜びました』
『でも、もう世っちゃん達には、』



俺には、誰よりも幸せにしたい人がいる。
一緒に幸せに生きられればそれが最善なのだけれど、たとえそれが叶わないとしたら幸せなまま死んだっていいくらいに。

「真結、」
「んー?」
「このまま、真結だけといられたらいいのに」

彼女――真結には心配されたくないし、何より笑った顔が見たいから、普段はどれだけそのエゴが募っていてもなるべく平静を装うようにはしている。けれど彼女の身体に触れていたくて仕方なくて何時間も触れ合っていることもあったし、きつく抱きしめすぎて重いと言われてしまうこともあった。
俺が現役を引退しようが盗撮を続けるストーカーも、俺を次世代のモドリッチと呼んでもてはやし続けるマスコミも、はっきり言って真結以外は全員邪魔で。かつて俺の憧れたノエル・ノアが語った通り己の全てを費やし手に入れた世界一のストライカーの座にも、今では当時ほどの眩しさは感じなくなってしまった。
ただの俺のエゴだと言ってしまえばそれまでなのだけれど、好きな人には幸せであってほしいと願うことの何がおかしいというのだろう。

「よいちゃん、どうしたの?」
「なんでもないよ。俺は、真結が幸せならそれでいいんだから」

そんな本音を見せたら俺は嫌われてしまうだろうと、今までずっと押さえ込んできた。けれどこの行き場をなくした感情は、もう俺の中で蓋を突き破って溢れそうになっている。
はっきり言って、もう限界だ。
もういっそ、このまま2人で眠ってしまいたい。誰にも邪魔されず、幸せなままで時間を止めておきたいのだ――そう語る俺を見たら、ノアは軽蔑するに違いない。
けれど、もう。これだけが俺の最後の、最期のエゴなんだよ。

***

4月1日。今年も元チームメイトからの誕生日プレゼントやらストーカーからと思われるぬいぐるみやらがポストに届いていたけれど、俺が求めるものはそこにはない。
俺が望むのは、真結との永遠の幸せだけ。

「なあ、真結。食事にでも行くか?」

まずは彼女を食事へと連れ出すためにそう切り出してはみたけれど、外に出たら移動中に付き纏われるかもしれないだろう。ここなら警備もしっかりしているからとこのタワーマンションの中にあるレストランに誘えば、彼女は恐怖が解けたのか首を縦に振ってくれた。
本当は誰にも見せたくないけれど、俺の好きな水色のパーティードレスとライムグリーンのアクセサリーで着飾らせて。真結と2人で食べたレストランの食事は現役時代のワールドカップ優勝記念パーティーよりは豪華ではなかったけれど、元々そんなに豪華なものが好きというわけではない俺にとってはそれでも構わなかったし、何より玲王から好みを聞いているであろう店主がケーキの代わりに高級きんつばを2人分をサービスしてくれたのが嬉しかった。
食事を終えたあと、自室へと向かうエレベーターの中。俺は次の要望を切り出した。

「美味しかったねー、よいちゃん」
「だな。……真結、このあとさ、」
「んー?」
「俺さ、久々に……」

――真結と一緒に、風呂に入りたい。
その頼みを照れながらも快諾する彼女は、俺の思惑なんてまだ知らないのだろう。



脱衣所。真結の背中に手を回して、ドレスのファスナーを下ろしていく。
真結の身体は相変わらず白くて、細くて、柔らかくて。こんなにも綺麗だから俺のストーカーが嫉妬するのもわかるような気がしてしまうけれど、彼女以上の女性を俺は知らないし知りたくもない。

「真結、」
「んー?」

ブラホックに手をかけて、ショーツにも手をかけて。真結の身体から全てを取り払ってしまったあとは、自分の服も脱いでいく。ふたり浴室に入った頃には、あらかじめ浴槽に放り込んでいた入浴剤はすっかり湯の中で溶けていた。
バスチェアに彼女を座らせて、シャワーの温度を確認して。上から洗ったほうがいいというかつての父親の弁の通りゆっくりと髪を濡らしていき、シャンプーの泡を落としながら指先で地肌に触れると、真結は気持ち良さそうに目を細めた。
トリートメントをして、コンディショナーをつけて。いつもより丁寧に洗い終えると、今度はボディーソープを手に取ってスポンジで擦っていく。

「身体、洗うぞ」

首筋、鎖骨、腕。脇腹に、腰に、膝の裏に、爪先まで――最後だからと丁寧に、全部に泡を乗せるようにして。そのまま太腿に触れ秘部も優しく洗っていけば、真結は恥ずかしそうに身を捩った。
ああ、可愛い。艶かしい。早く抱きたい。今すぐめちゃくちゃにしてやりたい――そんな欲望をぐっと堪えて、身体中の泡をシャワーで流していく。そして綺麗さっぱり流し終わったところ、俺は無防備な彼女の太ももに吸いついた。

「ぁ……よいちゃ、」
「真結……」

ぢゅうっと音を立てて口づけて、舌を這わせて、甘噛みして。痕を残すように強く吸えば、真結の白い内ももには赤い花が咲いた。彼女が俺のものだということを証明するかのように、いくつも、いくつも。自分の身体を洗うことも忘れて、唇を押し当てる。
今日が最後だから。もうこの先は、ないから。だから俺は、彼女に俺の印を残したかった。真結の身体が俺だけのものだと示す、俺だけがつけられるキスマーク。

「よいちゃん……よいちゃんは、身体洗わないの?」
「俺は後ででいいよ。先に入ってて」
「よいちゃんの誕生日なのに、」
「真結が先でいいの」

真結を先に浴槽に入れてやれば、彼女はふわふわとした足取りで浴槽の中に沈んでいった。
そうして俺も身体を洗い終えたあと、2人でゆっくり湯船に浸かる。向かい合って浸かっていると、先程まで抑えていたものがまた溢れ出してきて。真結の肩を抱き寄せて啄むようなキスを繰り返しているうちに、彼女は少しずつ蕩けていく。

「よいちゃん……?」
「真結、だめか?」
「んーん……しよ、よいちゃん……」

我慢できなくて、もう止まらなくなって。真結の胸の先端を唇で喰みながら片手をそろりと下腹部へ下ろしていけば、そこはもう充分すぎるほどに潤っていた。
まずは中指を一本だけ入れてみると、彼女は小さく声を上げた。

「ぁ……よい、ちゃぁ……ぁっ♡」

真結のナカは温かくて、柔らかい。風呂の湯に浸かりながらだから入れにくいかとも思ったのだがそんなことは全くなかったようで、少し動かせばすぐに奥へと誘われていった。
ゆっくりと指を動かしていれば、段々と水音が響き始める。同時に彼女の声も大きくなっていって、それに比例するようにして指を増やした。こんなにも反響するのは、浴室だからなのだろう。

「ぁ、あ……んぅ、ん……っ♡」
「ここ、好きだもんな。わかってるよ、」
「ん……すき……きもちぃの……♡」

何度も重ねた身体だ、真結のいいところなんて知り尽くしている。とびきり気持ち良くさせてあげようとそこばかりを攻め続けるたび、彼女はびくんと身体を跳ねさせた。
ああ、可愛い。艶めかしくて堪らない。早く挿れてしまいたい気持ちもあるけれど、でももう少し、もっと真結の可愛いところが見たい。最期なのだから、全部、全部目に焼き付けておきたい――そんなことを考えながらも指の動きは止めずにいれば、彼女の呼吸はどんどん荒くなっていった。

「よいちゃ……ぁ、ぁ、ぁぅ……ん〜〜〜っ!♡」

そして一際大きな声を上げて、真結は絶頂を迎えた。身体を痙攣させながら余韻に浸っている彼女を見て、俺の興奮は高まっていく一方だ。
浴槽の床に座り、その上に彼女を座らせ――いわゆる対面座位の体勢にすれば、彼女は俺の首に腕を回した。

「よい、ちゃぁ……っ♡」
「大丈夫だよ。そのまま力抜いて」

耳元で囁いてから腰を支えてやれば、真結はおずおずと腰を沈めて俺のものを呑み込んだ。全部入ったところで縋るように背中に手を回す彼女を宥めるように頭を撫でてから身体を揺さぶってやると、彼女はさらに腕の力を強めた。
何度も触った身体は今も柔らかくて、白くて、誰にも渡したくなくて。ずっと俺だけのものにしていたい。このまま時を止めてしまえたなら、どんなに良いだろうか。
ああ、そうだ。そのために――このまま、幸せなままで息を止めてしまうために、こうしているんだっけ。

「真結、好きだ…… もう、もう誰にも渡さない……」
「ぁ、わたし、も……っ、よいちゃ……ぁ♡すき、すきなの……んんっ♡」
「ん……真結、名前呼んで……いっぱい……っ、」
「よいちゃ、んん……っ♡」

名前を呼びあって、唇を奪って、舌を絡めて。何度も角度を変えて深く、深く。最期だから世一と呼んでもらおうか――なんて、そんなことは思ってすらいなかった。彼女のことだけを考えていたいのに、この期に及んでカイザーがちらつくだなんて堪ったものじゃない。
抱き合って上も下も繋がったまま、入浴剤を入れた故の滑りに足を導かれるまま。彼女の身体を引きずりこむようにそのまま底まで沈んで、互いの息さえ喰らいあって。苦しいとか痛いとかつらいだとか、そういう感覚は一切なかった。2人で溺れる風呂の中はただ心地よくて、温かくて、幸せで――このまま溺れてしまえたら、どんなに幸せになれるだろう。
酸素も、明日も、かつてあれほど焦がれた世界一のストライカーの座も、俺にとってはもういらない。真結との幸せ以外は、何も、何も。
そのために俺は俺の全部を費やすから、捧げるから。

「真結……っ、」
「ぁ……あ、よいちゃ、よい、ちゃ……ぁっ♡」

だから、ふたりで。

***

『――潔世一さんが、自宅の浴室で妻の一般女性と共に遺体で発見されました。この件ですが、ご遺族から以下のコメントを頂いています』
『ええ、はい……世っちゃんが幸せに生きてくれたら、私達親としてはそれでいいと思っていたんですよ』
『英雄でも凡人でも、勝っても負けても世一は世一ですし。結婚を考えてると言ってあの子を連れてきたときも、認める認めないどころか本気で喜びました』
『でも、もう世っちゃん達には――世っちゃんとあの子には、』

ああいう形でしか、幸せになる道がなかったんでしょうね。 2023.08.13