傷を埋めるための色

片想いし続けている相手がいる。元同級生の、轟燈矢くんだ。
燈矢くんは彼の父親であるエンデヴァーが使っていた山の修行場での火事に巻き込まれ、下顎の骨の一部だけを残し姿を消してしまった。どこかで生きているとは信じたいけれど、彼はもう死んでいるのだと思わなければ仕方がなかった。
復讐に走ろうと思ったこともあったが、エンデヴァーを襲ったところで燈矢くんは戻ってこないことなどとうにわかっている。諦めて受け入れる道しか、私には残されていないのだと。
それでも、こんな寂しい夜だ。叶わないとはわかっていても、彼に会いたいと心のどこかで思ってしまう。

「あーあ、会いたいな……会いたいよ……っ、」

永遠に届かないであろう彼を呼ぶでもなく、ひとり呟いてみる。

「とうやく……っ、」
「呼んだ?」

その声に導かれ、現れたのは待ち望んでいた燈矢くん本人――ではなく、少し前からどういうわけか私に絡んでくる窃野トウヤというヴィランだった。
指定ヴィラン団体・死穢八斎會の鉄砲玉として追われているはずの窃野が、こんなところに来て大丈夫なのだろうか。もしも声をかけた相手が私じゃなければ、すぐにヒーローあるいは警察に引き渡されていただろうに。

「……ごめんだけど、あんたじゃないの。火事に巻き込まれて、死んじゃった片想い相手」
「え、そいつ俺に似てたりする?」
「まあ、名前だけね」

似ているといえば、どちらかというと私だろう。この窃野という奴は恋人に裏切られて多額の借金を背負わされ、悲観の末に飛び降り自殺すら図ったのだ。ヒーローに助けられ一命を取り留めるも死ぬ事すらままならぬ世界に逆に絶望したところを、彼が『若頭』と呼ぶヴィラン――オーバーホール、といったか――に利用価値を見出され拾われた結果が今なのだとか。
燈矢くんに私を置いて死なれた私も、考えようによっては『裏切られた』形になるのかもしれない。けれど私は復讐に走ろうとはすれど、彼のいない世界に見切りをつけて自分も死んでしまおうというところまで至ることはなかった。

「で、お前はそこで復讐してやろうとか思わねえわけ?」
「思ったことはあるけど、やめちゃった。だって、そんなことしても燈矢くんが――彼が戻ってくるわけじゃないじゃん?」
「確かに、考えてみりゃそうかもな」
「そうそう。時間と『個性』の無駄だよ」

けれど、そうやって淡々とあしらおうとする私におとなしく相槌を打つだけでは済まないのが窃野だ。それどころか、そこにつけ込もうとしてくる辺り指定ヴィランの称号は伊達ではない。
私に元恋人の面影を見ているのか、それとも私が燈矢くんの名を口にするうちに自分のことだと勘違いしたのかは定かではないが、どうやらこいつは私に恋愛感情を抱いているようだった。やたらと私に絡んでくるのも、そう考えれば合点がいく。

「じゃあさ、俺にそいつへの未練を盗ませてくんね?」
「いや、無理だから」

ばーか。
いくらあんたの『個性』でも、私の燈矢くんへの未練は盗めないんだよ。
それこそ『個性』の無駄遣いだわ――なんて冗談を舌でも出して言ってみようとしたが、そんな態度をとること自体馬鹿らしいからやめた。

「ちぇ……」
「はいはい、残念でした〜」
「けどさ、失った分を埋めることくらいはさせてくれねえ?」
「……あんたに、それができたらね」

悲しいかな、片想い相手を失った心がそう簡単に埋まるとは思えない。それは恋人に裏切られて自殺を図った窃野自身が一番わかっていることだろう。
けれど、それが埋まるまでの間なら、こんな馬鹿みたいなやり取りに付き合ってやるのも悪くはないと――そんな風に考えてしまう私がどこかにいたのも、また事実なのであった。