マロウブルーにレモンを注ぐ

※R15
※カウンセラーパロ

***

好きだった人に、振られた。
直接じゃないけれど、そのような関係らしき誰かと一緒にいるところを見てしまったのだから、実質振られたようなもの。

落ち着かない。何をする気も起きない。食事は何日も喉を通らないし、友人からの連絡にもしばらく何も返していない。
それでも明細などが来ているのなら受け取らなければと、おもむろに郵便受けを漁っていると1枚の紙に目が留まった。

「…どこなのかな?」

それは、ある相談所の電話番号が書かれた紙だった。
午後のカウンセリングは予約制で、カウンセラーの慎導先生は1人しか診てくれないのだという。なんでも彼は『メンタルトレース』という技能を使うらしいのだが、それには危険を伴うためカウンセリングは1日1回にしているのだとか。
私は、そこを訪ねることにした。

***

予約した日の午後2時。待合室には私1人しかいない。

「**さん、どうぞー」

苗字を呼ばれて扉を開けると、向こう側の椅子に座っている人と目が合った。彼がカウンセラーの慎導先生で、一瞥しただけで人間心理をある程度分析できるほどの高い洞察力の持ち主なのだそうだ。
こちらも椅子に座ると、名札を掲げて彼は微笑む。

「**ちゃんだね、よろしくね」
「…はい、」
「今日はどうしたの?何があったか、言ってみて」
「好きだった人のことを忘れたいんです。もう何日も落ち着かなくて…」
「それで俺に相談しにきたんだね、」

ぼろぼろと泣きながら話す私を、先生は一瞥しながらメモを取っていく。
呼び方が下の名前に変わったことに少し驚きつつも、ふわりと優しげに微笑む彼に緊張の糸が解けた。

――この先生になら、全部話せるかもしれない。
――私の傷もその痛みも、全部癒してくれるかもしれない。

「んー…結構ずたずたにされてる。治療が必要みたいだね…でも、メンタルトレースは使わなくて良さそうだ」

先生は別の療法の方が良いと思ったらしく、私の目を見ることもなく席を立った。戻ってきた彼は、手に持っている水入りのグラスを机の上に置く。

「じゃあ、お薬処方しようか。これ、飲んでくれるかな」
「ここで…ですか?」
「うん、そう。ゆっくりでいいからね」

出されたそれを手に取り、中身を口に流し込む。これが、私に処方された薬なのだろう。
なぜ、この場で飲むことになったのだろう――少し気になってはいたが、飲み干してしまった以上はどうしようもない。

「よしよし、全部飲めたね…**ちゃんはいい子だ」
「いい、こ…?」
「そうだよ。じゃあ、別の部屋に移ろうか――すぐに忘れさせてあげるからね、」

ふわふわと髪を撫でる優しい手に安心していると、そう言って身体を抱え上げられる。
これから何が始まるのだろう、その期待と不安に胸が震えた。



別の部屋のソファーの上、背中を預けて座る。
慎導先生が内側から部屋の鍵を掛ける音と、先程までの優しい声とは違う低く響く声に、びくりと背中が跳ねた。

「…始めよっか」

彼は冷蔵庫の中から練乳を取り出し、右手の人差し指に垂らしていく。段々と白く染まり始める、先生の少し骨ばった美しい指。
目が離せずずっと見続けていると、少しして私の名前が呼ばれた。

「**ちゃん、あーん」
「えっ…?」
「大丈夫、痛くないからじっとしててね」

言われるがまま、口を開ける。抵抗するわけにもいかずそのままにしていると、先生の指が口内にゆっくり入ってきた。
先程飲まされた薬のせいか、少し敏感になってしまっている私の身体。
――これは治療なのに。こんなこと考えちゃいけないのに…

「ね、**ちゃん。それ…舐めてみよっか」

とん、と舌に触れる指。久しぶりの甘味に、脳が反応してしまう。けれどその指を穢すと思えば、躊躇う私もいて。
従うべきか、留まるべきか。私の天秤が揺らぎ、傾く。

「えっ、そんな…先生の指に、そんなことできません…っ、」
「ん…なんでかな?」
「先生の指、綺麗なのに…べたべたになんて…っ!」
「**ちゃん――して?」

先生は左手を私の頬に添え、顔を覗き込んできた。
熱を持った琥珀色の鋭い瞳に捉えられ、留まれなくなった私はおずおずと舌を這わせた。

「…っ………んっ、ぅ…」
「うん、そう…上手だね、いい子」

彼の右手の親指は私の顎を掬い、人差し指はざらりと私の舌を撫で…私の残り少ない理性を崩していく。
――だめになる。もう、これ以上崩しちゃだめ…!

「…ん、ぁ…だめですっ…せんせ…っ、」
「なぁに?」
「慎導、せんせぇ…っ!」
「どうしたの、**ちゃん…気持ちいいの?」

耳元でゆっくり問い質されるも、呂律が回らずあまり答えられない私。
そろそろ、これも終わるのだろうか――そう思い、口を離す。

「…まだだよ。じっとしててって言ったでしょ?」
「ん…………っ、あ…!」

頬に添わされていたはずの左手が今度は後頭部を押さえ、右手の人差し指は口の中を動き回る。それによって完全に力が抜け切り、ソファーにゆっくりと沈んでいく身体。
息が苦しくなったところで、ようやく両手が離された。

「…っ……はぁ…」
「よしよし、ようやく力が抜けたみたいだね…次、どうしようか」
「先生で、いっぱいにして…っ!」

私のことを見てもくれないあの人なんて、もうどうだっていい。
それよりも、今は先生のことだけ考えていたい。早く、その手で楽にしてほしい。

「ん、いいよ…全部塗り潰してあげるからね」

耳元でもう一度低く響く声が、私をゆるく縛り付ける。全てを飲み込むような快楽の中で、ゆっくり思考を手放した。