思い出の中にないものは、

てんやくんの部屋。
彼が入浴中であることをいいことに、ヒーロー関連の書籍が並ぶ本棚に紛れた一冊のアルバムを取り出す。私立聡明中学校と金色の文字が光る表紙を開けば、すっかり癖のついてしまったそれはすぐに彼と私がいたクラスのページを出してきた。

「あ、いた。あの頃のてんやくん」

当然ながら大半がクラス写真である以上彼個人をピックアップしたものは少ないが、彼が写っているという事実だけで私には充分だった。
修学旅行のとき、旅行先で撮った写真。
体育祭のとき、クラスのプラカードを誰かに持ってもらいながら撮った写真。
合唱祭のとき、会場をバックに撮った写真。
このときはまだ苗字にくん付けで呼ばれていたっけな――なんて思い返しながら夢中で眺めていれば、他でもない彼が私を呼ぶ声で現実へと引き戻された。

「……**?」

いつの間に、風呂から上がっていたのだろう。
そう疑問符を浮かべる私をよそに、彼は呆れた様子で私に問うた。

「全く、君はまたアルバムを見ていたのか?」

彼が私に問うているのは、当然同じものを学校からもらっているのになぜわざわざ彼の分を開いて読むのかということではない。それくらい、私にだって声のトーンでわかる。
そして、当然とばかりに続けられたのは私の想定通りの問いだった。

「……あの頃の僕が、そんなにいいかい?」
「そんな、」

確かにあの頃から彼は真面目で責任感が強く、だからこそ魅力的な人物であることに変わりはない。けれどただのクラスメイトの1人としてしか接してくれなかった当時の彼と比べれば、私という個人にちゃんと向き合い側にいてくれる今の彼の方がいいに決まっている。
少なくとも苗字にくん付けで呼ばれるよりは、今のように名前を呼び捨てされた方が格段に嬉しい。

「っ……そんなこと、ないよ?」
「本当か?」
「うん、ほんと。今じゃなきゃ、こうやって私の側にいてくれないでしょ?」
「それならいいんだが……」

そう言ってもなおも納得のいってなさそうな彼を巻き込む形で、彼がいつも寝ている青いベッドへと倒れ込む。
決してこれが目的だった訳ではないが、過去の自分に妬く彼を隅々まで味わうにはやはりこうしなければ物足りないというものだ。

「あの頃にできなかったこと、いっぱいしよ?」

先程まで眺めていたアルバムは、ベッドから落ちたはずみで閉じられていた。