ひた向きな呪い

「てんやくん、」

同棲中の彼と私は、共にシチューを好んでいる。
とはいえクリームシチューを好む私とビーフシチューを好む彼の間だから初めは衝突するかとも思ったが、 結局互いが互いに譲り合うのを繰り返した結果交代になった。もちろん彼がプロヒーローとして凶悪なヴィランを捕まえたり、怪我して退院したりとかの日はビーフにしている。
ではどんなときにクリームが優先されるかというと、それは私が落ち込んだときだ。

「わがままでごめんね、」
「いや、構わない。元々そういう約束だっただろ、」
「あはは……それもそっか、」

こうやって共に夕食を摂るような、彼との平和な日常がずっと続けばいい――そう思う度に、この日常を失うことへの恐怖もついて回る。
実際彼のお兄さんがヒーロー生命を絶たれたこともあり他人事と思うことができない私は、いつも心のどこかで彼を失うことを恐れているのだ。

「……先程から君は少し落ち込んでいるようだな。どうかしたか?」
「その、てんやく……っ、なんでもないの、」
「なんでもないわけないだろ、」

彼を失ってしまうのではないか――そう思ってしまったなんて、本人を前に言えるわけがない。
けれど彼本人から「教えてくれ」と言われてしまえば、正直に答えるしかなかった。

「**……?」
「だって、プロヒーローでしょ?いつかこんな日常が送れなくなっちゃったら、どうしようって……」

ぼろぼろと涙が溢れて、止まらなくなっていく。
彼はそんな私の目元を左手でそっと拭い、それから右手で私の手を握ってくれた。

「……ならないさ。絶対に、させない」
「っ…………てん、やくん……っ、」
「だから、君はそうやって笑っていてくれ」

その言葉で、少しだけ元気を取り戻した。彼はそんな私を見て安心したのか、気を取り直して食べようと食卓に皿を並べる。
結局その温かさに触れてまた泣いてしまったのは、別の話だ。