大好きな君、大嫌いな僕

※夢主は五条さんが嫌いです
※五条さんはモブと付き合ってます
※夢主は幽霊です

***

真夏の夜、灯台の上。空には今日最後の花火が上がっている。
そんなところに座ったら危険だと人は言うけれど、幽霊である僕にはそんな言葉なんか関係ない。どうせ、まだ呪いではない僕のことなんか誰も見えないくせに。

『(…なんだ。あいつかよ…)』

僕がいる場所の下の砂浜を、2人組が通り過ぎていく。
普段の僕ならば、通り過ぎる人々に目を向けることなんかない。にもかかわらずそうしたのは、その2人組の片方が僕の元彼・五条悟だったからだ。あいつは同じくTシャツ姿の彼女さんと指を絡めている。

「(あー…これなら**のほうがよかったな…)」
「どうしたんですか?」
「…いや、何でもないよ。そうだ、ホテルに戻ったら甘いものでも買いに行く?」

おい、悟。
いつまで僕のことを引きずってんだよ、お前は。相変わらず何かを企んでいる顔をサングラスで隠した上で、本心を掴ませない言動を取っているつもりなんだろうけれど、こちとらお前の心なんか簡単に読めるんだよ。
今の彼女さんとどういう経緯で付き合っているのかは知らないし、どうだっていい。少なくとも、僕はお前と付き合うのなんて二度と御免だ。

そもそもの話として、僕はあいつのことが嫌いだ。
嫌いなら何故付き合っていたのか、って訊かれるかもしれない。本音を言えば、僕だってあいつと付き合いたくなんてなかった。けれど、残念なことにあいつは許嫁――正確に言えば元許嫁なのだ。親が僕とあいつとの縁を勝手に結んでしまったのだから仕方ない。
ちなみにあいつの親としては、五条の分家筋であれば誰でもよかったらしい。それならば、何故わざわざただの『窓』に過ぎない僕を選んだのか。あいつは『人』としては少なからず問題があるとはいえ『呪術師』としては名実ともに最強なのだから、好条件の結婚相手なんかすぐに見つかるだろうに。
ただ、あいつ自身は僕に好意を向けている。それが、唯一にして最大の問題だ。

「(**が今も生きていたら、**と来たかったな…)」
「悟さん…さっきから、なんか変ですよ?」
「そうかな。僕は普通だよ。…ただ、前の彼女のこと思い出しちゃってさ」

幽霊になってしまったのは、僕も少しだけ惜しかった。生きていればよかったと思うことは幾度かあった。
けれど、今の幽霊としての生活だって悪くない。食事も睡眠も必要ないし、人間の心が読めるようにもなった。何より、大嫌いなあいつと事実上死に別れることができた。そう簡単には断ち切られないこの縁を、僕は漸く断ち切ることができたのだ。

「そうなんですね…私じゃだめ、ってことですか?」
「そんな訳じゃないよ。君はあの子と違って呪術を扱えるし…何より、君は僕のことを好いてくれてるじゃないか」
「君『は』って…好かれてなかったんですか」
「まあ、彼女っていうか許嫁だったからね。無理やり付き合わされるんだから、嫌われたって仕方ないよ」

馬鹿かお前は。いや、馬鹿だったな。
お前には今隣を歩いている彼女がいるんだろう?それならば、もう既にこの世にはいない僕なんかに拘らなくたっていいじゃないか。いや、むしろ僕だけはやめてくれ。お前が自覚している通り、僕はお前という人間が心底嫌いなんだよ。生前扱えなかった呪具の代わりにマシュマロの集中豪雨を降らせてやりたいくらいには。
それともアレか?お前はツンデレが好きなのか?それは別にいいけれど、僕は素直になれないわけでも、意識されたくてわざとつれない態度を取っているわけでもない。勘違いしてもらっては困る。

「(やっぱり好きな奴と付き合いたかったな…家がアレだから仕方ないけど)」

おい。お前が今思っているの、僕がお前と付き合ってる時に思っていたことそのままだからな。好きでもない奴と付き合わされるのがどんなに嫌か、漸く身を以て知ったか。生前の僕も、今のお前と同じだったんだよ。

――そうだ。
同じだ。好意か嫌悪かは違えど、互いを引きずっている点で。
僕とあいつは、永遠にすれ違い続ける似た者同士なんだ。

「…悟、さん」

いつの間にかあいつは歩みを止め、彼女さんを灯台に寄りかからせる。
目を伏せる彼女さんの髪の毛を撫でている時も、唇を重ねたその瞬間も、あいつは僕の感触を思い出しているのだろう。

『(もうちょっとだけ、あいつらのことを見ててやるか)』

もしも何かの形で対面することになったとしたら、僕はまずあいつの顔に数回平手打ちを食らわせたあと、今見た全てを引き合いに出して揶揄ってやりたい。そう思いながら、僕ははしゃいでいる2人の光景を、ただ目のフィルムに焼き付け続けた。

BGM→真心ブラザーズ「Summer Nude」