熱いその手がうわべを焦がす
教室に甘い匂いが漂うのを感じる。どうやら、後ろの席に座る**くんから発せられているようだ。
熱に浮かされている彼女の赤らんだ顔にどこかで興奮を覚えながらも、それをどうにか抑え担任に彼女を保健室に向かわせることを打診する。
「先生、」
「どうしたの?」
「**くんを保健室に連れて行っても宜しいでしょうか?」
「確かに、体調が悪そう……ええ、行ってらっしゃい」
以前兄からうっすらとは聞いていたが、この世界には少数ではあれどオメガ性の人間というものがいるとのことだ。そして、今の状態を見るに**くんがそれに当たるらしい。
彼女の身体を考えればなるべく早くに、それこそレシプロバーストを使ってでも保健室に駆け込むべきだろう。けれど廊下で走るなど許されるわけがなく、それ以前に僕の方が彼女の匂いにあてられてくらくらしてしまい走れるような状態ではなかった。
「ごめんね……委員長だからって、迷惑かけちゃって……っ、」
「構わない。だから、もう少しだけ耐えていてくれるか?」
「うん……頑張る、ね……」
どうにか**くんの身体を支え保健室に運べば、事情を察したらしい保健医がすぐにベッドに通してくれた。幸い僕らと先生以外は誰もおらず、誰かに噂される心配はなかった。
オメガ性には今の状態になってしまう時期――いわゆる発情期があるものの、本来ならば10代後半で起こるもの故か彼女自身でも特に抑制剤の用意などはしていなかったようだ。発情期、と呼ぶからには**くんの欲を発散させてやらなければならないのだろう。
僕らには、いくらなんでも早すぎる行為だ。しかも由緒正しい聡明中の生徒である僕らがこのようなことを保健室でしているなど、学校の名に泥を塗るに等しいだろう。
けれど――例えそうだったとしても、目の前の彼女を一時的にでも救い出してやりたくて。
「――**くん、」
「っ……え、っ」
「今、楽にしてやるからな……っ、」
制服を脱がせてやる余裕などない僕は**くんの下着だけを下ろし、既に蕩けきった指を埋める。
一度もしたことのない行為故にこれで合っているのだろうかと不安にも思ったが、彼女が気持ちよさそうに顔を歪めている様子を見ればその不安は一瞬でかき消えていった。
「んん、っ……ぅ、」
「っ……痛かっただろうか、」
「ちがうの、もっと……っ、やく……てんやく……っ!」
途切れ途切れに紡がれたそれが僕の名前だということに気付くのに少し時間がかかってしまったのは、普段は苗字で呼ばれている故だろう。ぐちゃぐちゃと聞き慣れない粘着音も、今は不思議と不快感を覚えない。
その音と声に煽られるまま少しだけ奥を擦れば、彼女は満たされたらしく身体を震わせた。
***
これで済むものかと思ったが、どうやら発情期は約3ヶ月に1度来てしまうものらしい。事実、あれから3ヶ月ほど経った今、**くんは同様の発情状態になってしまっている。
すぐ気づけるようにその間は名前で呼ばせるという約束を取り付けたものの、周りからすれば『体調が悪そう』くらいにしか見えない以上気づいてやれるのはアルファである僕くらいのものだ。クラス委員であることもあってか、僕はすっかり彼女の世話係と化していた。
「**くん、」
「ん、なぁに?」
「今はまだこうして処理してやれるからいいが、高校に進学したらどうするつもりだ?」
確か、**くんの志望校は雄英ではなかったはずだ。
今でこそこの程度で済んでいるものの、もう少し彼女の年齢が上がれば当人の意思に関係なく手近なアルファやベータに欲情してしまうらしい。しかもそのときには挿入するまで満足できなくなるのだから、心が拒んだまま身体だけ開かされてしまうかもしれない。
もしそうなればどうするつもりだと身を案じる僕に、彼女は提案を投げかけてきた。
「じゃあ、番になればいいよ」
「**くん……意味をわかって言っているのか?」
行為の際にうなじを噛み番が成立すれば、フェロモンを放出しなくなるらしい。
けれど、一旦番になるとどちらかが死ぬまで解除されない以上は**くんの人生を背負うことと同義だ。その人生を預ける相手が、果たして僕でいいのだろうか。
「うん、わかってる。君がいいの」
「……考えておこう」
話し合いの末、とりあえず互いに進学後もう一度確認をとった上で正式に番になるということで了承してくれた。つまり、卒業までは番の件は保留のまま、僕は彼女の世話係に落ち着くことになるのだ。
それまで、互いに耐えられるだろうか――それだけが、今の僕の懸念事項だ。