ホワイトアウト
私の幼馴染――優くんこと雪宮剣優くんは、高校に入学後のある日からずっと視神経の病気に苛まれている。
病気が判明して以降はモデル活動と試合とで忙しい日々の合間を縫って治療に励んでいたし、一時は保留したものの彼を入札したチームからの好条件でのメディカルオファーも受けた。けれど遅らせられることはできこそすれ根治は不可能とされるその病気は、夢を返してくれという彼の慟哭を嘲笑うかのようにいとも容易く視界も選手生命も全て奪っていって。
優くんが完全に視力を失ってしまった現在は彼と共にアパレルブランドを立ち上げた御影さんの伝手でバリアフリーマンションの一室に2人で住みながら、彼女兼介助者として側で彼を支える日々だ。
「優くん、」
こう呼ぶようになってから、何年経つだろう。確か初めて会った頃から、こう呼んでいたような気がする。そのままだと幼い頃の私には堅すぎて呼びづらくて、けれど剣ちゃんと呼ぶよりは優くんと呼んだ方が彼の雰囲気には合っている気がして。
私も知っている友達のお姉さんが初恋でしかもその彼女が彼のおでこにキスをしたと知ったときは人並みにやきもちも焼いていたことを覚えている。それでも最終的にこうやって私を選んでくれたから、結果的には問題ないのだけれど。
「どうかした?」
「何か困ったことないかな、って。何もないならいいんだけど」
「ん、今は大丈夫かな。ありがとう」
専門の資格は取っていないけれど、目の前に熱くなっている食器やケトルがあるときは彼が火傷しないよう触らないでほしいと伝えるし、外に出掛ける際は段差があったりもするから必要に応じて手引きだってする。今まで視えていた景色が何も視えなくなってしまったつらさやそれが原因で生じる不便さは私には計り知れないものだと思うし、何より彼は見守ってくれる人が好きだと言っていたから、私も常々そうあろうと努めているのだ。
けれど、どうにもそれが彼からしてみれば行き過ぎてしまうこともあるようで。
「それよりさ、**ちゃん」
「優くん……?」
「最近の**ちゃん、ちょっと俺に遠慮してない?」
遠慮なんてそんなつもりはないし、むしろ遠慮どころか触れ合いたいときは確認をとりながらもこちらから抱きしめたりキスをしたりもする。ただ彼女として、当たり前に彼を支えているだけ――そう答えようとしたけれど、反論する間もなく矢継ぎ早に言い返されてしまって言葉を飲み込む。
普段は柔和だけれど、一度こうと決めたら譲らない――頑固なところもある彼だから、こうなった彼は私が何を言ったところで納得してくれないだろう。
「俺の目が視えなくなってから、**ちゃんはずっとそうだよね」
「そ……そんなこと、ある、かな……?」
「わかるよ、それくらい。どれだけ一緒にいたと思ってるの?……**ちゃんの目には、今の俺はどう映ってる?」
「それ、は……」
今も昔も、優くんは優くんだ。
そうはっきり言い切ろうとして言い淀んでしまったところで、ふと自分がどんな態度で優くんに接してきたかを思い知らされる。
優くんを手助けしてあげなければ、支えてあげなければ――そんな想いが強くなってしまうあまり、いつの間にか彼女というよりは介助者として接してしまっていたのかもしれない。彼はきっと、それを怒っているのだろう。
「いつも介助してもらってることはありがたいし、**ちゃんのそういう見守ってくれるところに惹かれたのだって事実だよ」
「あ……」
「でもさ、**ちゃんは仕事で俺と付き合ってるんじゃないんだよね?」
ざら、と彼が確認するようにベッドの上を撫で、そこがベッドであることを確認したのか私の腕を引き押し倒す。突然の出来事に驚き声をあげそうになったものの、それは彼の唇によってぎこちなくも塞がれてしまい叶わなかった。
幸い夕食も風呂も終え部屋の電気も消した頃とはいえ、カーテンの隙間からは月明かりが漏れていて完全な暗闇ではない。けれど彼には、もう関係ないことなのだろう。
「優くん、怒って、る……?」
「ちょっとね。――ね、昔みたいに接してよ。幼馴染だし、何より恋人なんだからさ」
「う……うん」
改めて言われると恥ずかしいものがあるけれど、優くんの言う通りだ。それに彼も昔のように接してほしいと言っているわけだし、彼が望んでいるであろうことが――介助者ではできないことがしたいのは私も一緒だ。
恐る恐る目の前の彼の首に手を回して、抱き寄せながら口づけをした。
***
優くんの目が視えなくなってからは私の方から脱ぐことが多くなっているけれど、今回ばかりはそうはいかなかったようで。確認も兼ねてなのだろうゆっくりと服と下着を脱がされて、やがて外気に晒された肌の感覚に身震いしそうになる。
赤く染まっているであろう顔も、全て露わになった身体も、今の彼には視えていないと知っている。だからといってこちらの恥ずかしさが軽減されるだとかそういう話はなく、寧ろ見えないからこそ余計に羞恥心が増してしまっている気がする。
「嫌だったら、俺の身体を叩くなりなんなりして合図してね。じゃないと止められないと思うから」
「う、ん……」
「もしかしたら変なところに指とか入っちゃうかもしれないし、痛かったりしたらすぐ言って」
「わかっ、た」
こうして逐一確認をとってくれるのは有難いことだ。けれどその分、緊張も増してしまう。
初めてではないはずなのに、何故か今日は異様に鼓動が早い。優くんはどうなのだろうと視線を向けるも、表情を見る限りは普段と変わらないように見えた。
「ん、じゃあ触るよ」
「いいよ……ぅん……ッ♡」
宣言通りに彼の手が胸に触れ、反射的にびくりと肩が跳ねる。そのまま確かめるように揉みしだかれ、時折先端を引っ掻かれれば、その度に小さく声が出てしまうのを抑えられない。
次第に快感から芯を持ち始めた突起の片方を引っ掻かれながら、もう片方をを口に含まれ舌先で転がされたり甘噛みされたりして、ぞくりと背筋が震えてしまう。
「相変わらず、可愛い声出すね」
「ぁ……ゆうく、っ♡」
「今の**ちゃん、たぶんとっても可愛い表情してるんだろうな……もう視えなくなっちゃったのがすごく残念だよ」
息を整える間もなく、次は秘部へと手が伸ばされる。既にそこは充分すぎるほど潤っていたようで、触れられただけで粘着質な音が鳴ってしまったことに頬が熱くなる。視界が遮られているときはその分他の五感が冴えるとどこかで聞いたことがあるけれど、もしもそれが本当ならば今のもばっちり優くんに聞かれているのだろう。
親指で花芯を押し潰すように捏ねられればすぐに達してしまいそうになり思わず優くんの腕を掴んでしまったけれど、それをどうやら私が嫌がっていると思ったらしい彼は手の動きを止めた。
「ごめん、痛かった?」
「そんなこと、」
「ちゃんと言って。俺、**ちゃんの嫌なことは絶対したくないんだ」
「優くん……っ、そ、その……大丈夫、ちゃんと気持ちいい、から……っ♡」
だから、もっと――そう言い切る前に再び動き出した手に、私は呆気なく果てさせられてしまった。
付き合い出したときから何度も重ねてきた身体だ、口では覚えていないふうに配慮を口にするけれど、彼の手は、脳は、今まで触った私の好きなところを全て覚えてくれているのだろう。事実、的確に与えられる刺激に、私の身体はすぐに反応を示してしまっている。
「**ちゃんって本当に感度良いよね。俺がちょっと触るだけでもビクビクしちゃうし……」
「ひゃ、ぁ……ッ!ゆ、ゆう、く……っも……かわってな、っぁ、♡」
「そうだよ、変わらないよ。言ったでしょ?」
そう告げると同時に花芯をぐり、と強く押し込まれ、絶頂を迎えた身体は小刻みに痙攣を繰り返す。それでも優くんは止まってくれなくて、余韻に浸ることも許されず骨張って少しかさついた手で再び与えられる快楽に私は声をあげることしかできなかった。
すっかり蕩けきっているであろう膣内へ二本の指が挿入され、ばらばらと動かされる度に響く水音に耳までも犯されているようだ。
「ゆ、っく……ま、待って、まだイッて、ぅ……っから……ッ♡」
「知ってるよ。ほら、もうこんなにどろどろになってる……」
優くんの口元が弧を描いたような気がした。それがどういう意味なのか理解する前に中のざらついた箇所を強く擦られて、視界が真っ白に染まっていく。
もう何度達したのかわからない、それなのに優くんは執拗にそこばかりを攻め立ててきて、過ぎる快楽に生理的な涙が溢れてくる。もうどんな顔をしようと彼には見られることはない、そうわかっていても酷い顔をしてしまっていることには変わらないだろう。
「も、そこ、ばっか……やめ……♡おかしくな、っちゃう、から……ぁ……っ♡」
「**ちゃんはここが好きだもんね。もっと……もっと声聞かせて?」
ぐずぐずに溶け切った中から指を引き抜くと、今度は三本纏めて突き入れられ激しく抜き挿しを繰り返される。それと同時に親指で陰核を弄ばれればひとたまりもなかった。迫り来る感覚から逃れようと身を捩るも当然許されるわけがなく、結局されるがままになってしまう。
やがて一番感じるところを容赦なく攻め立てられながら親指の腹でぎゅう、と押し潰された瞬間、今までで一番大きな波が襲ってきて全身が大きく震えた。
「っは……ぅ……ッ〜〜〜♡」
「**ちゃん、可愛い……」
ぴんと伸びた爪先がシーツを蹴って、背中が弓なりにしなる。頭がぼうっとして、何も考えられない。未だ整わない呼吸と霞む思考の中ぼんやりと優くんを見上げれば、彼が慣れた様子で前を寛げている姿が見えた。
いつも通り、私が自分で腰を下ろせということだろうか――そう察して完全に張り詰めたそれにゴムを纏わせ、そのまま上に跨り腰を落としていけば、充分に解された入口は簡単に先端を飲み込んでしまった。
「っあ、ぅ……ゆう、く……♡」
そのままゆっくりと自重に任せて沈ませていくと、奥まで入り込んだ熱杭が子宮口を押し上げるように圧迫してくる。たったそれだけのことで軽く達してしまい、きゅうきゅうと収縮する膣壁が無意識のうちに締め付けてしまう。
その状態で確かめるようにするりと下腹部を撫でながら不意に動かれてしまえば、もう我慢なんてできるはずがなかった。
「ぁ、あっ……だめ……っ♡いま、うごいちゃ……ぁッ♡」
「うん、気持ちいいね……?ほら、わかる?」
「ひぁ、ぁ、おく、あたって……っ♡イ、ッちゃ、〜〜〜っ!♡」
ばちゅばちゅと音を立てながら最奥を突き上げられ、あまりの快感に耐え切れず倒れ込むように優くんにもたれかかると、すぐに強く抱きしめられる。その拍子にさらに深く繋がり、ぐりぐりと押し付けられたかと思えばまたすぐに律動を再開されて。
休む間もなく与えられ続ける快楽に、私はただ喘ぐことしかできなかった。
「ね、**ちゃん……キス、してくれる……?」
言われるがままに唇を重ね、舌先を絡め合わせる。けれどすぐに主導権は優くんのものになっていて、最初は触れるだけの軽いものだったけれど、だんだんと舌が割り入ってきて絡め取られ――次第に、深いものへと変わっていった。
その間も止まることのない抽送にびくびくと身体が跳ね、何度目かの絶頂に目の前がちかちかする。
「は……んん、**ちゃ、っ……**……!」
「ぁ、あぅ、あ……!♡ゆうく、優くん……剣優、く…!♡」
「ん……もう、出すよ……っ!」
優くんの言葉と同時にどくん、と脈打つそれからゴム越しに熱いものが注がれ、同時に私もまた果ててしまった。それを察したのかずるりと引き抜かれると同時に、私の身体はベッドの上に横たえられた。
互いに息を整えてから、どちらともなく顔を寄せ合って啄むような口づけを交わす。そうしているうちにふわふわとした眠気が襲ってきてしまい、私達は抱き合ったまま眠りに落ちてしまった。