宝物の名を知った

親友の玲王は、何かとルーズで面倒臭がりな俺の世話役をよく買って出てくれている。欲しいものは全て手に入れてきたもののそのせいで常に退屈した人生を送って来た彼曰く、簡単に手に入るモノではなく俺だけの唯一無二の宝物が欲しい――らしいのだけれど、最初は感謝こそすれ同じ気持ちになることは考えられなかった。
座右の銘や地球最後の日にすることを考えるのと同じで、唯一無二の宝物が何だとか、手に入れるためにどうするだとか、考えていたって面倒臭いだけ。誰とも付き合ったりなんかしないだろう。
ましてや、誰かに執着することなど一生あり得ないのだろうと――そう、ずっと思っていた。

***

その日も、最初まではいつも通りだった。いつも通りにスマホでゲームしたり漫画や動画を見たりしている時間が、ゆっくりと流れているだけだった。
何度目かのSNSのタイムラインのスクロールをしていたら、ある女の子の動画に当たって。

「……ん?」

**、と名乗るその女の子は最近人気が出てきた動画配信者らしい。声も可愛くて、顔立ちも整っていて、歌もうまくて――その動画を見てからずっと、ゲームや漫画どころか彼女以外の動画を見る気にもなれなかった。
一目惚れというやつなのだろう、クラスメイトの名前すら玲王以外はあやふやだった俺だったけれど、彼女のことは何故か妙に気になってしまって。玲王にメンションして誰なのかと問えば、隣のクラスの女子生徒・**さんだと教えてくれた。

『**のこと気になんの?』
『んー……まーね』
『いつもいつも面倒臭がりのお前が、女子に興味を持つって意外すぎ。まあいいや、なんか予定セッティングしとく?』
『あー……』

お願い、とキーボードを打ちかけたところで、玲王の言葉を思い出し手が止まる。
――俺だけの、唯一無二の宝物が欲しい。
唯一無二の、宝物。ずっと興味はなかったけれど、今は**ちゃんが欲しくてたまらなくなっている。面倒臭いから何かを奪って捕まるのは御免だけれど、彼女の髪くらいは奪っても法的に問題ないだろうとか、そう一瞬考えてしまうくらいには。

『ん、お願い』
だから結局、欲望に従うことにした。



それからの俺は漫画もゲームもぱたりと辞め、サボテンのチョキに話しかけることもなくなった。学校でも授業中こそ寝ていたものの休み時間にはただただ**ちゃんを――**を目で追っていたし、SNSでも彼女が絡む動画やツイートだけを見ていた。玲王の金だけれどスーパーチャットだって何度も投げたし、コメントでもたくさん喋ったし、ときには玲王の協力を仰ぎながら学校で彼女に近づく奴を排除したりもした。
今日だってそうだ。**を見つけたと思ったら、そこには数人の男子生徒がいて。

「あの子じゃね?例の動画の子」
「おー、可愛いじゃん!」

――ああ。邪魔が入るだなんて、面倒臭い。
**はやっと俺が見つけた、俺だけの宝物なのに。他の男に盗られる前に、俺が彼女を手に入れなくちゃいけないのに。
こんなことになるなら、もっと早くに手に入れておくべきだったのだ――そんなことを思いながら、俺は彼らに歩み寄る。よく考えれば190センチメートルの男がいきなり近づいてきたものだから、俺が相手側だったら怖くて仕方ないだろう。

「ねえ、」
「ん?お前、万年寝太郎の……凪……?」
「そだよ。それよりさ、なんであの子に近づいてるの?面倒臭いよ」
「ひっ……!」

怯えた顔をした男に構わずに肩を掴み、少しだけ力を込めて引き寄せると、男は情けない悲鳴を上げた。
玲王が見ていたら、ただでさえ進学校である白宝でこんなことはやめろと止めるのかもしれない。いや、むしろ加勢するのか――どちらにせよ、俺を止める人は誰もいない。今更離れても遅いのだし、そいつが**に手を出しさえしなければ俺だってこんな面倒臭いことしなくて済んだというだけの話だ。

「あ……えっと、凪、くん……?」
「大丈夫?**さん」
「うん、凪くんが助けてくれたおかげ」

ありがと、と微笑む彼女はやっぱり可愛かった。
その笑顔も、声も、髪の毛一本に至るまで全てが愛おしくて、全部自分のものにしたくなって――ああ、これが恋なのかと理解すると同時に、心の底から思った。
――俺だけの唯一無二の、宝物。
絶対に誰にも渡さない。**は、俺のものなんだから。

「いいよ、そんなこと。俺が、**さんに近づく奴が許せなかっただけ」
「……それ、は?」
「俺、**さんのこと好きだから」

ぎゅ、と後ろから抱き締めれば、**は驚いたように小さく声を上げて身を固くして――それでも逃げようとはしなかった。腕の中で彼女が小さく震えているのを感じて可哀想に思う一方、その反応すら可愛らしく思えてしまって。
初めて欲しいと思えるものに出会えた喜びは、想像以上に計り知れなかった。今ならば玲王の言っていたことの意味も、俺に対しての行動の意味も、全てわかるような気がしている。

「ね。**さんって呼ぶの長くて面倒臭いから、**って呼んでいい?」
「い……いいよ。私も、その……誠士郎、って呼んだ方がいいかな?」
「ん、そう呼んで。――もう、離さないからね」

この日、俺はようやく**を手に入れた。そして、もう二度と手放したりはしないだろう。
俺だけの、唯一無二の宝物。