Raspberry Dope
大学生の私には、憧れの女の先輩――千切先輩がいる。
彼女はいつも流れる赤い髪をたなびかせていて、私よりもずっと背が高くて、そして何よりいつも華やかなオーラを纏っていて。私はそんな先輩に憧れるだけでなかなか声をかけることもできなかったまま、彼女は大学を卒業し社会人となった。
けれどそんな日々を送っていたある日の帰り道、たまたま大学の方を通りがかったという先輩の方から声がかかってきた。
「**ちゃんじゃん、」
「へ……?千切、先輩……?」
「沈んだ顔、してる。何かあったの?」
「あ……いえ、」
何かがあった、わけではない。むしろ何もなくて、ただ退屈で、私はこの日常から抜け出したいと思っているくらいだ。先輩みたいに大人になりたいのに、私はそうはなれないでいる――現に、私はそれを上手く説明できない。
そんな私を見かねてか、先輩は私の手を引いてどこかへと連れていこうとする。
「じゃあさ、いい場所知ってるよ」
「え……」
「大人の社交場ってやつ。こうやって紹介するの、**ちゃんだけだよ?」
帰るのが明日になってしまったらどうしようかと少し心配になってしまうけれど、幸い今日は金曜日で明日にも大学の予定やアルバイトのシフトなどはなく、いつ帰ってきたとしてもどうせ1人なのだ。
だから、私は先輩について行くことにした。
***
連れていかれた先は、かなり規模の大きい建物で。総資産7058億円を誇る超有名企業・御影コーポレーションが運営しているのだというそこはラウンジとでもいうのだろうか、私とは一生縁がないと思っていた華やかな場所だった。
千切先輩は大学を卒業してからというもの度々ここに通い詰めているらしく、私なんかとは大違いだと実感させられる。
「ほら、ここだよ」
「あ……はい、失礼します、」
エレベーターで3階に上がり受付を済ませて入った店内には、いくつかのテーブルとソファーがあった。奥にはカジノもあるらしく、先輩もたまにバカラやらポーカーやらをしているのだとか。今まさにあの日本の至宝こと糸師冴の弟さんがルーレットで一点賭けをしているところだと先輩が教えてくれたけれど、そちらの方はそれこそ私には縁遠い世界だ。
見渡す限りテーブルの方にいる人々はお酒やおつまみを楽しみながら談笑していて、私もそういうふうにくつろげたらとも思うものの、緊張が勝ってしまうあまり身体は強張るばかりで。お金はなくても会員からの招待だから入れると先輩は言っていたし、それにこんな場所に来られる機会なんてもうないかもしれないのに。
「せんぱ……その、こわい、です……っ、」
「大丈夫だよ。ほら、手握っててあげるから」
繋がれた先輩の手に導かれ、テーブルの方へと歩いていく。そのまま先輩に倣ってソファに座れば、先輩とよく似た――女の人だろうか、私と同い年くらいと思われる赤い髪の人が近づいてきた。
一瞬妹さんかと思ったけれど、豹馬くんと名乗る彼の様子からして弟さんらしい。
「えーと、あんたが姉ちゃんの言ってた――**、だっけ」
「そ、私の後輩。豹馬も可愛がってあげてね」
「は、はい……えっと、****、です……ひ……ぇ、」
「そっか。よろしくな、**」
彼は私の名を呼ぶなり左隣に座り、そのまま私の左手を撫でてきた。あまりに突然のことだったから驚いてしまったけれど、不思議とその手に嫌悪感がないのは、千切先輩の弟さんが相手だからと心のどこかで安心しているのだろう。
そうしてしばらくゆっくりしていると、先輩がウェイターらしい人を呼んできた。お酒は成人してから何度か飲んだことがあるもののそこまで知識のない私だけれど、先輩のお勧めするものなら大丈夫だ、と思う。
「何にいたしますか?」
「それじゃあ、ラズベリーショットをこの子にお願いします。私は――今日はシャンゼリゼにしようかな。豹馬は?」
「俺は、ブラッディマリーで」
「かしこまりました」
ラズベリーショット――なんて、聞いたことのないカクテルの名前だ。それもそのはず、このラウンジのオリジナルのカクテルらしい。先輩はいつもはそれを頼んでいるらしいけれどあまりにも美味しくてハマってしまうものだから、今日は私のために自制しているのだとか。しばらくして運ばれてきたそれは先輩や豹馬くんの髪の色のような綺麗なピンク色をしていて、飲む前からすごく甘そうだと思ってしまう。それでも恐る恐る一口飲んでみれば予想通りに甘くて、そして飲みやすくて。ついごくごくと飲んでしまえば、あっという間に空になってしまった。
「あれ、もう飲みきっちゃったの?そんなに美味しかった?」
「あ……はい、すごく……っ、」
「ふふ、よかった。**ちゃん甘いの好きって言ってたし、ハマると思ってたんだよね」
「はい、流石先ぱ……っ、あれ、なんか……熱くなっ、て……」
――熱い。
身体中が火照ってきているような気がする。頭がぼうっとしてきたのか、思考回路まで鈍ってきたような気さえしてくる。私の体質的にお酒にあまり強くないのもあり、すぐに酔いが回ってきたらしい。
力の抜けた私を見かねたのか先輩が私の肩を抱き寄せてきて、そのまま耳元で囁いてくる。
「**ちゃん、酔ってきちゃったみたいだね。ね、個室行く?」
「こし、つ……?」
「そうだな。幸い空いてるみたいだし」
「あ……すみま、せ、」
意味がわからず疑問符を浮かべている私の両隣で、顔を見合わせて笑う2人。
そして私はそんな2人に支えられて立ち上がり、先輩達に導かれるままエレベーターに乗っていたようで。気づけばいくつかのドアが立ち並ぶ中、44号室と書かれたドアの前にふらふらと足を進めていた。
*
そして開かれた扉の先。いくつかのクッションが置かれたベッドの上にとりあえず腰掛けてはみるものの、次第に座っているのもつらくなって。
ぼやけた視界の先に映る千切先輩が私と豹馬くんを残して部屋を出ようとするのが見え、思わず服の裾を掴んだ。
「せんぱ……っ、」
「もう、**ちゃんは怖がりなんだから。……豹馬?ちゃんと**ちゃんのこと可愛がってあげないとダメだよ?」
「わかってるよ。大丈夫だから」
「じゃあ、あとはごゆっくり」
そう言い残して去っていく千切先輩を引き留めきることは結局できずそのままバランスを崩し、閉められた扉の前で呆然とへたり込んでしまう。その間にも身体はどんどん熱っていって、このままではおかしくなりそうなくらいだ。
潤んだ視界に映る先輩とよく似た彼に、震えた声で訴える。
――もう、いいや。
先輩が一緒にいてくれないのなら、もういっそ先輩の知らないところで大人にしてもらおう。
「ぁ、あの……豹馬、くん……っ、」
「ん?どうした?」
「わた、わたし……何も、わからないの……っ、先輩みたいな大人に、して……くださ……っ、」
その言葉を言い切る前に、私の隣に座っていた豹馬くんに身体を持ち上げられ――気がつけば、ふわりとベッドの上に押し倒されていた。
――ああ、これから私はどうされてしまうのだろう。
こわい。でも、先輩の弟さんだから大丈夫、だよね。先輩が教えてくれたように、彼もきっと優しくしてくれるはず。だって豹馬くんは、先輩の大切な弟なのだから。
「……ぁ、」
「怖くないって。お前の大好きな千切先輩の、弟なんだから」
そう言って微笑む豹馬くんの瞳はどこかギラついていて、それが私の不安を少しだけ煽っていく。それでも抵抗する気が起きなかったのは、やっぱり千切先輩の弟さんだからだろうか。
優しく唇を重ねられ、舌先で軽くノックされるままに口を開いてしまう。そのまま口内に侵入してきたそれに自分のそれを絡め取られ、歯列の裏まで丁寧になぞられて――口の端からはだらしなく唾液が流れ落ちていくのを感じながらも、だんだんと頭がぼうっとしていく感覚に身を預けることしかできない。
「ぁー……♡豹馬く、ひょーま、くん……♡」
「よしよし、そのまま身を委ねて……そう、いい子だ」
いつの間にかブラウスもスカートもするすると脱がされてしまっていて、そのまま下着に手がかかる。早く楽にしてほしいあまりに躊躇うこともせずこくりと頷けば、すぐに下着の締めつけから解放されていく身体。
太腿を無意識に擦り合わせてしまっているのを見計らったかのように豹馬くんの指先がするりと身体を撫でて、それだけでびくりと反応してしまう。
「**は本当に何も知らないんだな……可愛い」
「っあ、あ……♡」
「俺としては何も知らないままでいいと思うし、穢れのない**が可愛いと思うけど……**が望んだことだもんな。大丈夫だから、ゆっくりな……?」
「う、うん……っ♡」
ゆっくりと、優しく、頭を撫でながら諭すような口調。とうにカクテルで思考回路を鈍らされた脳内には、豹馬くんの言葉だけが刷り込まれるように響いてくる。そうしてぼんやりとした意識の中、彼にされるがままになっていく私。
身体のあちらこちらにキスマークが刻まれていって、それすらも気持ちよく感じてしまう。
「ぁ、あ……っ♡そこ、くすぐったい……こわいの……♡」
「**。こういうときは『気持ちいい』、な?」
「ぅ……きもちい、きもちいいの……♡もっと、さわって……きもちよくして……♡」
やがてすっかり蕩けきった私の秘部に豹馬くんの指先が触れて、つぷり、とナカに入り込んでくる。初めて感じる異物感に違和感を覚えつつも、次第にそれは快楽へと変わっていって。
ぐちゃぐちゃと水音を立てながら出し入れされればもう声を抑えようとするのも間に合わず、自分のものとは思えないほど甘ったるい声を上げてしまうばかりで。恥ずかしくて、申し訳なくて、どうにかしたいのに身体は言うことを聞かない。
「ぅー……♡豹馬く、豹馬く……っ♡ぁ、あ……ッ!?」
「ここ、だな……?」
最初は一本だったはずの豹馬くんの指はいつの間にか二本に増えていて、ばらばらと動かされる度に水音が大きくなっていってる気がして。お腹側のざらついたところを執拗に攻められたり、奥の方にある弱い部分をとんとんと突かれたりする度に抑えきれない喘ぎ声が出てしまう――そんな私を見て、豹馬くんはとても艶やかな表情を浮かべていた。
次第に身体の奥底から何かがせり上がってくる感覚が襲ってきて、いよいよ我慢できなくなってきて。あっという間に追い詰められた私は、気がつけば豹馬くんの前で絶頂を迎えてしまっていた。
「ぁー……っ♡豹馬くん……っ♡なんかきちゃ、きちゃ……っ、ぁ、あっ……〜〜〜〜〜っ♡」
「ん。上手にイケたな。偉いな、**は」
「えら、い……?おこらない、の……?♡」
「怒らねーよ、大丈夫だから。そのまま全部、全部受け入れて……」
こんな――あられもない姿を晒してしまったのに。こんな姿を見られたら、嫌われてしまうと思ったのに。なのに豹馬くんは優しく褒めてくれて、それが嬉しくて堪らなくて。
――ぜんぶ。全部、受け入れて。
そうすれば、楽になれるかな。先輩の弟さんだから、大丈夫だよね。なにも、なにもこわくない、よね。
熱に浮かされて真夏日のアイスのようにとろとろの頭の中では、彼の言葉がじわじわと染みていくばかりで。その言葉に抗うことなんて、今の私にはできるはずがなかったのだ。
「ほら、いい子だから。目を閉じて――全部、委ねて」
「ぅ、う……♡豹馬く……♡」
「そう、そのまま……な、」
囁かれるまま、目を閉じる。浮遊感と多幸感で満たされた私の耳に聞こえてきたのはカチャリと金属音が響く音と、それに続く衣擦れの音。
いつの間にか秘部にはゴムを纏った熱いものが押し当てられ、そのままゆっくりと侵入してくる。下半身が裂ける痛みはどうしてか感じなくて、ただ下腹部を埋めつくされる圧迫感と快楽があって。それ以外に感じられたのは強いて言えばベッドが濡れる感覚と、それに伴う罪悪感くらいしかなかった。
「あ……っ♡ひょーま、く……♡ひょーまく……っ♡」
「ん、痛く……は、なさそうだな?ゆっくり息吐いて、ゆっくり吸って……そう、いい子だな……?」
「ぅー……♡ベッド、よごしちゃって、る……♡?」
「ああ、血が出てるな。でもあとで取り替えさせるから、心配しなくても大丈夫だぞ」
豹馬くんの優しい声色と、あやすように頭を撫でる手つき。それにどこか安心するような心地良さを感じていれば、しばらくそのまま嵌められていたそれが徐々に動き始めて。
ぐじゅぐじゅ、と水音を響かせながら、抜き差しを繰り返される。それでも変わらない優しい手つきとは裏腹に、激しくなっていく抽挿。奥まで突かれれば子宮口に先端がぶつかって、目の前がちらつくほどの快楽に思わず背中を仰け反らせてしまう。
「ぁ、あ……っ、おく、奥あたって……っ♡豹馬く、ぁ、あ……ッ♡」
「気持ちいいな、**……?」
「きもちい……っ♡きもちい、の……っ♡もっと、もっろ……っ♡」
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい――頭がおかしくなりそうな快楽と幸福感の中、もうそれしか考えられなくなる。
ぐちゃぐちゃと水音が激しくなっていって、律動に合わせて揺れていた腰も止められなくなって。もう何度目かもわからない絶頂を迎えたところでやがて彼も達したらしく、お腹の奥にじんわりとした温かさを感じると共にずるりと引き抜かれた。
ああ、もう――このままずっと、この腕の中で揺蕩っていたい。
家に帰らないといけないだとか、冷蔵庫に今日賞味期限の食品がなかっただろうかとか、次の課題はいつ締め切りだったっけとか、今はもう考えていられなくて。ただただ多幸感に浸ったまま、微睡むような意識のまま、私は豹馬くんの腕の中で眠っていた。
*
目を覚ました頃にはすっかり眠りこけてしまっていたらしく、気づけば見慣れない部屋の中にいた。ふかふかのベッドに寝かされていて、あれだけ乱れたはずの身体は綺麗に清められていて。
視界には昨日会ったばかりの彼――豹馬くんが映っていて、私が起きたことに気づくとすぐに微笑んでくれる。
「あ……おはよう、ございます……?」
「はは……なんで疑問形なんだ?まあいいや、ルームサービスでもよければ朝食にするか」
「えっと……じゃあ、いただきます……」
「ん。ちょっと待ってな」
そう言って彼が出ていったあと、私は改めて自分のいる場所を見回してみる。
来たときに持ってきていた荷物は纏められており、サイドテーブルの上に置かれていて。服も元通りに着せられているし、下着もどこから支給したのか新しいものに取り替えられているようだ。
千切先輩に連れてきてもらった場所だから、自分では帰り道など覚えていない。ここからどうやって帰ればいいのだろう――そう思い立った瞬間、豹馬くんがルームサービスらしきものが載ったワゴンを押しながら部屋に入ってきた。
「あ、あの……私、私は、」
――帰らないと。
今日は大学もバイトもなかったような気がするけれど、だからといっていつまでもここに居座っているわけにもいかない。明日は確かバイトだし、月曜になれば大学だってある。
慌てて起き上がろうとすると、逃がさないと言うように後ろから抱きすくめられた。
「……本当は、帰りたくないんだろ」
「豹馬、くん……?でも、私……大学も、バイトもあって、」
「『帰らなきゃ』とは言ってるけど、『帰りたい』とは一言も言ってねえもんな。大学もバイトも、玲王に――御影コーポレーションの御曹司に話をつけてもらえばいい。**が望みさえすれば、ここに好きなだけ入り浸れる」
「そん、な……」
耳元で囁かれる言葉に、何も言えなくなってしまう。
当たり前だ。あんなに幸せな時間を知ってしまった今、ひとりぼっちの寂しい家に戻ろうだなんて思わない――そんなことを言えるはずもなくて黙り込んでいると、豹馬くんは私にある提案をしてきた。
「じゃあ、猶予をやる。ここのことを綺麗さっぱり忘れて今までの生活に戻るか、それともこのままここにずっといるのか――また今日の6時に聞かせてくれないか?そんなに難しく考えないで、お前が滾る方を選べばいい」
「豹馬、くん……?」
「どうしても帰りたいなら、タクシーくらいは呼んでやる。俺としては残念だけど仕方ねーよな、**の意志なんだから。でも、ちょっとでもここにいたいと思うなら、そのときは――」
――ずっと、ここにいるって言ってくれ。
その声はひどく優しく、甘美な響きを伴っていて。それに抗う術を知らない私は、ただただこくりと首を縦に振ることしかできなかった。
どうせ6時にならずとも、今の時点で答えは既に決まっていたのだ。