抜け殻だけ残した春

※年齢操作、教師パロです。
※名前変換はありません。

***

ねえ、先生。
訊きたいことがあるんです。

「よし、この間のプリント返すぞー」

夜久先生は、隣のクラスの副担任だ。
数学を教えていて、私のクラスにも教科担任として週に何回か来てくれる。

「今回の授業は、この間言った公式の応用について解説していくぞ!」

彼は陽だまりのように優しくて、温かかった。
面倒見がよくて、数学の苦手な私にも親身になって教えてくれる。それでいて、生徒が何か問題を起こせばそれを叱ってくれる。
それに、彼は背丈が私達と同じくらいだから、すれ違う時に目線がよく合ったりもするのだ。…まあ、背のことを言ったら怒られるから本人には言わないけれど。

そんな彼に、いつしか他の教師には向けない感情を抱いてしまっている私がいた。とはいえ、それはただの一時の淡い憧れ――そう言われてしまえばそれまでのものだ。
どれだけ願っても、彼は教師で私は生徒。諦める覚悟は初めからできていた、つもりだった。
――でも、その覚悟がまだ私には足りなかったのかもしれない。



放課後。
今日は部活がない日だったので、荷物をまとめて帰る支度をする。
いざ教室を出ようと扉を開けたところで、私は見てしまった。

「せんせ……っ、」
「よしよし、もう大丈夫だからな…」

私と同じ制服を着た生徒を、縋り付かせて抱き締めている教師の姿。
――間違いなく、夜久先生だ。
しかも相手側の生徒は、隣のクラス…つまり彼が副担任を務めるクラス在籍している親友で。
彼本人としては、泣いている生徒を慰める以上の意図はないのかもしれない。けれど私には、あの子と親密にしているようにしか見えなかったのだ。

「……っ、なんで…なんでなの……!」

2人の方を見ていられなくなった私は、反対方向の廊下を通って下駄箱へと向かった。

***
 
家に帰った後も、放課後のことが尾を引いていた。

あの子を恨んだところで何も変わらないし、そもそもそういう生徒は彼に嫌われてしまうだろう。
ただ、私がその事実を受け入れればいいだけ。わかっている。
わかっているのに、なんなら最初から諦めていたはずなのに、いざあのような事実を突きつけられてしまったという時に待っていたのは絶望だった。
今の私は、まるで抜け殻。

「…明日から、どうすればいいのかな……」

こんな調子で、明日も彼の授業を受けられるのだろうか。
さっきまで顔を埋めていた枕は、すでに涙で濡れてしまっていた。

ねえ、先生。
どうして、片想いの諦め方は教えてくれないのですか。