ハートの海に耽溺
『お姫様に必要なものって、何だと思う?』
例えばフリルとレースとリボンのドレス、鈴蘭とジャスミンの香水。
甘い甘いミルクティーに色とりどりのマカロン、煌めくシャンデリアに天蓋付きのベッド。
それと――そうね、王子様がいなくちゃ。
「ほら、もう起きなさい……」
「……ちかぁ、」
彼――チカの唇が私のそれに触れたら、目覚めの合図。
左手で支えられて身体を起こし、向き合ったテーブルの上には彼の好物であるバゲットとそれに塗るバター、苺ジャム、クロテッドクリーム。ロイヤルミルクティーが入ったティーポットの隣には、たっぷりのミルクと砂糖を添えて。
「ごはんにするの……?」
「ああ、そうだ。**も好きだろう?」
「すき……」
「ん……**のは苺ジャムにしような、」
バゲットに苺ジャムを塗っていくチカ。そのバターナイフを持った手に、今日もまた見とれてしまう。
少しして彼はコップにロイヤルミルクティーを注ぎ、トレイに載せた。
「ほら**……あーん」
「ぁ……っ」
言われるがままに口を開ければ、彼はそこにバゲットを入れてくれた。苺ジャムの甘さが口の中に広がっていく。
「美味しい?」
「おいし……」
「よしよし。今日はどうしたい?ダイムと遊ぼうか?」
「ん、だいむくんとあそぶー……」
何をするにもどこに行くにも、全部チカがいないとできない。そんな身体にされてしまった私は今日もこの部屋で、彼が付きっきりの生活をしている。いったいいつからこんな生活になったのだろうかと考えたこともあるけれど、今はもうどうだっていい。最初から、私の人生はこうだったのではないか――そう、思えてしまうくらいに。
この甘く優しい、絵本の中のような世界に浸っていたいのだ。
「ちかもいっしょ、だよ?」
今日もまた王子様の手を取って、甘い夢へと溺れていく――