絶対不可侵のひと部屋

いつものようにレイドジャケットを羽織って、いつものように向かった現場。
潜在犯を見つけ、狙いを定め、ドミネーターを向けたところで――そこからは、よく思い出せない。

次に私が目を覚ましたのは、白いベッドの上だった。

***
 
「――**、」

ぼやけた視界の中。
私の手を握りながら呼びかける影は、他の誰でもなく――

「ぁ……ぎのざ、せんぱい……?」
「**……目、覚めたんだな」

どうして、彼がここにいるのだろう。
仕事には行かなくていいのか。そもそも、ここに私を連れて行ってくれたのは彼なのか。だとしたら、彼は私が目を覚ますまでずっとここで待っていたのか――訊きたいことはいくつもあるが、言葉にしようとしても纏まらない。

「ん……ここ、は……?」
「ああ。あの時**は倒れたんだよ」

先輩の話によると、あの時私はドミネーターを向けた潜在犯に頭を殴られて倒れたらしい。それを見かねた彼がベッドの上に運んだ結果、私は3日も目を覚まさずにここで眠っていた――とのことだ。
私のせいで公安局に迷惑を掛けてしまった、本来私がやるべきことも他の1係の皆に背負わせてしまった――そう思うと、返す言葉は謝罪しかない。

「うぅ……わたしの、せいで……」
「いや、**のせいじゃない。あいつが全部悪いんだから、お前は何も謝らなくていいんだ」
「……せんぱい?」
「ほら、そんなに沈んでたら色相濁っちゃうぞ?」

思い詰める私を、彼は気にするなと言うように頭を撫でてくれる。
どうして。
どうして、そんなに優しくしてくれるのだろう。

――だめだ。
こんなところで倒れている暇は私にはない。
早く起きて、次の仕事に向かわなければ――そう思い立ち身体を起こそうとするも、彼の腕がそれを止める。

「えっ……?なんで、しごと……」
「**はここで寝ていなさい。今のお前には、歩くことすらできないだろ?そんな状態で仕事なんてだめだ」
「せんぱい……?」
「俺が、ずっと面倒見てやるから」

このまま先輩に甘えてしまいたいという気持ちを、なんとか理性で押さえ込む。

――そうだ。彼は私だけの先輩ではない。
執行官として、監視官である朱ちゃんや美佳ちゃんの面倒も見なければならないだろう。

「そんな……せんぱい、」
「**……俺が側にいるのは嫌か?」
「いやじゃ、ない……です。けど……せんぱいは、」

顔を覗き込んでくる彼に、涙目になりながら言葉を紡ぎ出す。

「どうした?」
「あかねちゃん、たちの……めんどうも、みなきゃなのに……」

彼がその返答を聞いた――と思えば。

「――**」

冷ややかな声と共に銃口が向けられ、身体にびりびりと電気が回っていく。
パラライザーだろうか。だとしたら、どうして彼はそれを私に撃ってくるのだろう。
何か、まずいことを言ってしまったのだろうか。

「…………か、は……っ!」
「だめだろ、他の奴の名前出したら……」

起こしかけの上体に手を回され、のしかかるように抱きしめられる。
先程のパラライザーと、彼の重さと体温とで身動きが取れない。

「せん、ぱ……?」
「**。ここは公安局でも現場でもない。お前と俺の、2人だけの世界なんだ」

普段の先輩が決して言わないようなことを、耳元で囁く。

「**はいつも公安局の仲間のことを一番に考えてくれるよな。自分が倒れた時も真っ先に自分のせいだって思い詰めて、周りに迷惑をかけまいと仕事に行こうとした」
「…………っ、だっ……て、」
「周りを気にかける優しさはお前のいいところだ。だが、お前はどうしてその優しさを他の奴にも向けるんだ?お前には俺だけでいい……そうだろ?」

答えに詰まっていると、彼は私の背中を撫でながら続ける。

「ここには**と俺以外、誰もいない――いや、いてはいけないんだ」
「……せん、ぱい……ぎのざ、せんぱぁい……っ、」
「だから、せめてここでくらいは俺のことしか考えるな。……な?」

自分の身体をゆっくりと侵食していく眠気に従って。
彼の腕の中で、私はぱちりと目を閉じた。