スノードーム・ラビリンス

透明な球体の中。
赤いコートの老人の肩の上にふわりふわりと白が降り積もるさまを、**は目を逸らすことなくずっと見ている。
狡噛がクリスマスプレゼントと称して持ち込んだスノードームに、彼女は釘付けになっているのだ。

「……せんぱい、」

潤った薄い唇から零れ落ちた言葉を俺が聞き逃すはずもなく、

「どうした?」

拾い上げて返してみれば、**は「思うんですよね」とはにかんだ笑顔で切り出す。あの硝子越しの光景に、彼女はどんな夢想を託しているのだろうか。

「あの中に先輩と入ってしまえたらいいなぁ……なんて」
「俺と?」

球体の中に、誰かが落としてしまえば音を立てて砕け散るような世界に閉じ込められたいと――そう、彼女は言った。
今俺が生きる管理された世界よりも、そこはずっと狭い箱庭だ。

「そうすれば、ずーっと先輩と一緒だなって」
「そんなことしなくても、」
「あ、もちろんダイムくんも一緒ですよ?ちょっとやきもち焼けちゃいますけど、ダイムくんは先輩の大事な家族なんだから仕方ないですよね」

そのようなことをせずとも**は今この部屋で、俺とふたりで暖まっているではないか。少し見渡しさえすれば、チキンもケーキもシャンパンも並べられているテーブルも、一係の面々から渡されたプレゼントもあるというのに。
彼女にとってそれらと天秤にかけられるくらい価値があるのだろう『ふたりだけの世界』は、俺には少し想像がつかなかった。

「ねえ、せんぱい……」

ソファーの上、座っている俺の身体との距離を**がじりじりと詰めていく。

「なんなら、ここでもいいんです……ここに、私を閉じ込めてください」
「**……お前、それはどういう、」
「だって今日、クリスマスじゃないですか。私の全部を先輩にあげますから、先輩と一緒の生活を私にください。だめですか?」

俺と目があってからというもの、まるで愛を告白でもするかのようにまくし立てる彼女。先程までスノードームを映していたはずの曇りのない瞳には、今は置き換わったかのように一面に俺が映っている。

ここが自分の部屋でなければ、あるいは俺が執行官でなければ逃げることもできたのかもしれない。けれど執行官が隔離されている以上、監視官である彼女の協力なしにどこかに行くことなどできなかった。
囚われていたのは、閉じ込められたいと願ってなどいない俺の方だったのだ。

「……ああ、お前が望むなら」

今の俺には、ここで**の訴えに応えるという選択しか残されていなかった。
例えそれに応えたとしても、俺はこの先もずっと見えないところで彼女に囚われ続けていくのだろう。

それは、出口のない迷宮のように。