無邪気に邪気を身に纏って

※生理ネタ

私は今、ボーダー広報担当である准さんと付き合っている。
しかも一年前くらいから、互いの両親の許可を得た上で同居もさせてもらっている。彼の家族に申し訳ないと思い断ろうともしたが、准さんが『将来の嫁と同居するくらいいいだろう?』と押し切った――もとい提案した結果こうなったのだ。そこまでは、ただの少女漫画のような羨ましいエピソードで済まされるだろう。

だが、最近の准さんはどこかおかしい。
最近――というよりは一ヶ月に一回はこうなるのだが。

まず、彼が台所に立つようになる。
最初は彼の親や弟妹も驚いていたが、彼がどうにか説得したらしくこの時期には食卓にほうれん草や天然サーモンが並ぶようになった。それらは生理前に食べるとよい食材のようで、それを知っているのかと考えると少し怖くなったが、それを繰り返されるうちに慣れてしまった。

それと、私の鞄の中身が変わってくる。
台所に立とうと立たなかろうと、必ずと言っていいほどナッツ類やナチュラルヨーグルトを私に渡してくるのだ。それらを入れようと鞄を開いた時には、ナプキンや痛み止めが既に入っていることもざらで。ついでにGPSなどが仕込まれてはいないかなども確認したが、どうやらそれらは生理と関係ないからなのか入ってはいなかった。

准さんは私の周期を把握した上で、このような行動に出ているのだろう。
そう考えると彼の神経を少々疑いたくなるが、それらの行動に対しての疑問をぶつけたとして、今度はそれを重く受け止めた彼の手で寝ている間に生理を止められてしまうかもしれない。それはそれで背中が粟立ってしまうので、もう何も言わないことにしている。

「気をつけて行ってくるんだぞ、」
「はーい」

准さんに見送られ、私は彼の弟妹と共に玄関を出て学校へと向かう。
彼の異常な行動のことは、同級生には話していない。そもそも『あの』ボーダー広報担当である彼と付き合っていること自体知られたらまずいので、周りに恋人のことを訊かれた際は『大学生と付き合っている』とだけ答えるようにしているのだ。異常な行動を話したところで、周りには『優しい年上の彼氏がいて羨ましい』と流されてしまうだけだろう。確かに、彼は家族やボーダーの仲間、そして私を想う優しさがあることには変わりない。
その優しさを、ときに重いと感じてしまう私のほうがおかしいのではないかと――そう、考えることさえあるほどだ。

「そうだ、薬……」

教室に着き鞄の中を探れば、やはりというべきかいつもの薬が入っていた。
これは生理薬ではなく何か怪しい薬なのではないかと疑ったこともあるが、パッケージからして市販のものだったので、もう疑うのはやめた。

と、スマホのバイブレーションが鳴る。
確認すれば、准さんからメールが入っていた。

『夕食、ミネストローネで構わないか?副達も喜ぶだろうし』

そういえば、今日の夕食も彼が作ってくれることになっていた。
ボーダー関連の用事がないからか、大学の講義が終わればすぐに買い物に向かうつもりらしい。
そのメールに『構いません。待ってます♪』と返信し、スマホをポケットの中にしまう。

「えっ、なになに?いつもの大学生の彼氏さん?」
「うん、その彼。今日ね、夕食作ってくれる予定なんだ」
「いいな〜!私にも**ちゃんみたいな彼氏ほしいよ〜!」

――ほら、周りはいつもこんな反応をする。
この調子では、彼の異常性を話したとしても絶対にわかってくれないだろう。

「んー……羨ましがられてもなぁ……」

その通りだ。
今だけではないのだが、彼と付き合ったら『優しい』では済まされない彼の重さにさらされるのだ。何より、生理の周期を把握されてしまっている。もし私が逆の立場なら、『羨ましい』より『気持ち悪い』が先に来てしまうだろう。
帰宅後はまた彼は私に優しく接するのだろうか――なんて、考えたくもない。

けれど、今更彼に別れを告げるなんて私にはできない。
それはきっと、私が心のどこかでその優しさを当たり前のように受け入れているからだろう。

――ああ、やっぱりそうか。
おかしいのは彼ではなく、私だったのだ。