そのひとくち、甘い罠

今年も、例の日が近づいてきた。女子ならお察しであろう、意中の人に贈り物をするあの日だ。
それに当たって渡すものに、私は困っていた。

「どうしよう……」

そもそも、肝心の意中の人である風間さんの好物が私にはわからないのだ。
彼はあまり自分のことを話すような性格でもないから訊かないとわからないのは当然といえば当然だが、かといって直接訊くわけにもいかない。仕方ないからと彼とよく話していると思われる諏訪さんに訊いてみたところ「あいつ酒弱いから、酒入ったやつを渡せばいいんじゃねえの?」と返ってきた。曰くそのまま酔わせてお持ち帰りしろ、ということらしい。
お持ち帰りするという提案に戸惑いもしたが、とはいえこれ以上の方法はなかなか思いつかなかったので、とりあえずはこの作戦でいくことにした。せっかくだからとボーダーの給料をつぎ込んで買った割高のウイスキーボンボンをサービスでラッピングしてもらい、あとは当日を待つだけとなった。

***

待ちわびていた日というのは意外にもすぐに来てしまうもので、トリオン兵を駆除していたりランク戦で他の隊と当たっていたりする間に当日を迎えてしまった。
今日の分の任務を終わらせたのち、ラッピングされたそれを手に風間隊の作戦室へと向かう。

「かっざまさーん?いますかー?」

幸か不幸かそこには他の隊員はおらず、彼は1人でカフェラテを飲んでいた。

「……**か。どうかしたのか?」
「あ、あのですね、渡したいものがあって……」

中身が洋酒入りのものであることはもちろん黙ったまま、綺麗にラッピングされたそれを彼に渡す。

「これは?」
「そ、その……受け取ってください!」

意を決してそう頼むと、風間さんは表情を変えないままそれを受け取ってくれた。そのまま、ラッピングをはがして中身を開ける。

「……そういえば、今日だったな」
「はい、それで……」
「わかった。ここで食べてもいいんだな?」

どうやら、ここで食べてくれる気になったらしい。
酔わせてお持ち帰りする作戦は成功しそうだ。

「もちろん構いません!そのために買ったので!」
「そうか、」

と、思いきや。

「……それなら、」

小さく聴こえた彼の呟きの意味がわからず戸惑っている私をよそに、腕を引かれ彼が座っているソファーの隣に座らされた。
そして、そのまま彼が口にしたウイスキーボンボンの隣にあった分が、開いて塞がらないままの私の口に放り込まれる。

「えっ……その、どういう、」
「どうせ、酔わせればどうにかできるなどと諏訪に吹き込まれたんだろう。気づかれないとでも思ってたのか?」

――あ、れ。
――うまくいってると、思ったのに。

目論見がこうもあっさりと見抜かれてしまったことに驚く私を、風間さんはいとも簡単にソファーへとそのまま押し倒す。
まさか、こんな展開になろうとは。
ウイスキーボンボンを用意した張本人である私ですら、私が食べることになるなんて微塵も思っていなかった。

「かざ、まさん?」
「お前が俺に好意を抱いていたことから、こういうことに持ち込もうとすることまで、俺は初めから全部わかっていた。もちろん初めから応えてやろうとも思っていたが、それでは面白みがないだろう?」

目の前の彼は、そう言って悪戯な笑みを浮かべた――かと思えば、ウイスキーボンボンの味が残る唇を私のそれと重ねてきた。
迫ってくる整った顔を拒むことなど、今の私にはできるわけがなくて。

「そっ……それは、さすがに駄目ですって、」
「ん?互いに好き同士だということが確認できたんだから、何も問題はないだろう。……それより」
「……っ、」
「俺を酔わせてどうにかしようとしたんだ。お前にも、それなりの責任は取ってもらうぞ?」

顔を上げれば、ぎらついた赤い瞳に射抜かれて。
――もう、逃げる術などなかった。