無理矢理つなげた赤い糸

「おーい。めぐみ、聞いてるー?」

あいつが今携帯越しに話しかけてるのも。

「これから、めぐみん家行っていい?」

あいつに家に来てもらえるのも。

「やったー!めぐみ、大好き!」

あいつから好かれてるのも。

――それは全部、俺じゃない。
 
***
 
隣の席の**には、俺と同じ名前の女友達がいる。
あいつはその女友達とやらととても仲が良くて、よく家に行ったり遊びに行ったりしているらしい。
俺は彼女から苗字で呼ばれているので、俺のことを言っているわけではないのは頭ではわかっている――のだが、いかんせん名前が同じでしかもそれを呼び捨てしているだけに、彼女が俺の前でそいつの話をする度に自分が呼ばれていると錯覚してしまう俺がいる。
そもそも**には俺が片想いしているだけで、俺と付き合っているわけでもなんでもない、のに。

「あ……伏黒?」
「おう、……邪魔しちまったか」
「大丈夫。それより急用とかだった?ごめん、気づけなくて」

――やっぱりか。
**の電話を実質盗み聞きしていたことは、おそらく知られていない。
それどころか、俺から彼女に対しての急用があるのかとまで思っているようだ。

「いや、そんなことは……ねえ、けど」
「よかったー……あ、そうだ」

何かを思いついたように、彼女は口を開く。
そこに続くのは、伝言か何かだろうか。

「ついでだからさ、これから親友ん家行くから連絡つかないって野薔薇達に言っといてくれない?」

やはり、釘崎達への伝言だった。
俺自身への言葉、ではない。

「ん?……おう。言っとく」
「ありがと。やっぱ伏黒って優しいや」

そうやってあいつは何の気もなしに、俺の心をかき乱していく。
俺のようで俺のじゃない名前を連呼し、あげく釘崎への伝言を頼んだかと思えば、さらっと俺自身に向かって『優しい』と言った。その度に揺らされていく俺の気持ちも知らないで。いつもいつも俺ばかり意識させられて、さすがに不公平じゃないか。

――もう、堪えきれなかった。

「……何なんだよ、」
「え……っ?」
「俺の気持ちも、知らないで……!」

**が席を立った、その瞬間を見計らって彼女の両腕を掴む。
驚きに目をぱちくりさせる彼女の顔は見ないふりをして、そのまま俺は堰を切り溢れるままに感情をぶつけた。

「お前さあ……さっき電話で『めぐみの家に行く』だの『めぐみが大好き』だのって言ってたろ、」
「いや……それ、あんたじゃないよ。女の親ゆ……」
「俺じゃねえことくらいわかってんだよ!」

彼女でもない奴の親友に、しかも女に嫉妬するなんて。
――俺らしくもない。
けれど、あいつが大好きと言う相手は俺じゃないのだということを意識する度に、それを認めることを拒んでいるのは事実だ。

――そうか。
自分が呼ばれていると錯覚してしまうのは、心のどこかで俺のことだったらよかったのにと思っているからなのか。

「わかってるから……その度に『それが俺のことだったら』って、『なんで俺のことじゃねえんだ』って、思っちまうんだよ……!」
「……ん?どういうこと?」
「そうやって、いつもいつも意識させて、かき乱しやがって……!」

どうやら、**側はまったく自覚などしていないらしい。
もし自覚した上で俺のことをかき乱していたのだとしたら、まあわからなくもない。だが、彼女のこれらの行動は全て無意識だったのだ。
その事実で、尚更かき乱されてしまう。

「あ、あー……そういうこと、ね」

ようやく状況を飲み込んだらしい**が、冷や汗をかきつつも口を開いた。
全く想定外だと、そう言いたげな顔をしている。

「伏黒って、私のことそんな風に思ってたんだ。それで、そんなに複雑な思いさせちゃってたわけか」
「お……おう。お前は?」

彼女の顔をまっすぐに見据え、返事を待つ。

「そういうこと、全く考えてなかったわ」
「……そうかよ」
「まーね。でも……意識、してみよっかなー……なんて」

苦笑いのままだったが、**の顔が少し赤くなったのが見てわかる。

とはいえ、それで彼女が親友の家に行くという予定が動いたわけでもなく、結局俺は両手を彼女の両腕から離すはめになった。
けれど、俺の片想いが伝わったようなので、まあ良しとする。