Chorea.
たとえばこの世界に運命というものが存在したとして、その掌で踊らされるのだけは阻止してみせようと。
そう、私は決意した。
***
「知ってるよ。玄界に行くんでしょ」
出掛ける前の最後の晩餐とばかりに食事をしていると、我々とは別の隊の兵士である**が話しかけてきた。
普段から何かと相談に乗ってくれており、今回の任務にも直接は参加していないもののガロプラの兵士として色々と協力してくれている――そんな彼女に、私は好意とも信頼ともつかない感情を抱いていた。
「はい。アフトから足止めを頼まれまして」
「わかってる。……生きて帰ってくるの、待ってるから」
「……は、」
はい、必ずやそうします――と、言いかけたところで口を噤む。
兵士である以上は、生きて帰ってくるなどという約束などできまい。玄界の兵を足止めするどころか、迎え撃たれ死ぬことになっても何ら不思議ではない。元々オルカーンとしての私はアフトの侵攻時に殺されたことにこそなっているが、それと今のラタリコフとしてのこれとは別問題だろう。
皿の上に載せられた、少し冷めたミートパイを切り分ける。
ナイフを持つ手が震えるのは、それが分かたれるであろう私と**に擬えられてしまうからだろうか。
「ま、私達にはそんな保証ないけどね。兵士だし」
兵士だから、それだけではない。
本当はずっと前から、私達は薄氷を踏みながら生きている。ガロプラがアフトの侵攻を受け、属国となったあのときから、ずっと。
こんなひとり分の生命など、戦場では片手ひとつでぐしゃぐしゃに丸められる紙屑と同じだと――そう、わかっているはず。
それなのに。
心のどこかで、そうやって賢明に諦めきれない私がいるのだ。
「……ええ、その通りです」
だって、そうだ。
ここはアフトから、運命から必死で逃げて、逃げて。自分を死んだことにまでして逃げ延びたその果てで、どうにか辿り着いた先なのだ。
やっと自分の力で掴み取れた彼女の手を取って踊るのは、運命の掌の上でない場所がいい。
「行ってらっしゃい、」
言い残して、彼女はこの場を去った。
玄界に向かえば、二度とここに戻れるかもわからない。ここに帰って来てただいまが言えるかどうかは、私にかかっている。
「……行ってきます」
だから、私は。
運命の掌の上から降りるために、戦い抜くだけだ。