エガタキウララ
「お、義人じゃん」
「あー……なんだ、**か」
アイスを買おうと向かった先のコンビニで、同い年の技術者である**と出くわした。
彼女は生き物――特に両生類が好きで、ボーダーに入ったのも初めはトリオン兵に興味があったからだという。そのトリオン兵が生き物ではないと知ったときは相当ショックを受けたらしいが、今度は遠征して近界の生き物を調べるという方向性にシフトしたそうだ。
俺のことを名前で呼ぶのは、恋人関係にあるとかそういうわけではない。ただ単に彼女の愛するハンザキ、つまりオオサンショウウオと紛らわしいからというだけ。まあ、別にそれはいい。
けれど。
「ねえ、聞いてよ。思ったんだけどさ、」
「うん?」
「半崎・サラマンダー・義人って二つ名、どうよ?」
こうやってダル絡みしてくるのは、少々むず痒い。
不快ではないけれど、くすぐったいのだ。
「俺、そういうの使わないんだけど」
「ええー……」
蔵内さんや二宮さんなら使うのだろうけれど、狙撃手である俺は誘導炸裂弾をはじめとする合成弾は使わないし、そのようなトリガー構成にもしていない。
そもそも、サラマンダーってどこの滅竜魔導士だ。確かに俺もそのゲームアプリはプレイしているが、その滅竜魔導士に声が似ているのは俺じゃなくて唯我だ。
「半崎だからサラマンダー。かっこいいと思ったんだけどなあ……」
「無理だよそんな、ダルいし」
そもそも、俺はそこまで生命力は強くない。
彼女が前に言っていたところによると、食用として捕まえたサンショウウオを縦に裂いて、片半分を川に放流すると自然にもう片半分が再生して元のサンショウウオに戻るという伝説があったのだそうだ。それがオオサンショウウオに付けられた、ハンザキという異名の由来らしい。
けれど、俺はそうじゃない。トリオン体の性質上、トリガーで身体を半分に裂かれたら即ベイルアウトするしかない。そもそも荒船さんの目指す完璧万能手にでもならない限りは、位置を割り出された時点でまずい。
荒船さん達にこのあだ名を知られたら、絶対に似合っていないと揶揄われるだろう。加賀美さんなんか、頭だけ俺で身体がオオサンショウウオの粘土細工を作るに違いない。
「……俺には、似合わない」
ぽつり。
聞こえないように、呟いた。
「そうかな?」
「そうだよ。……俺、これからアイス買いに行くから」
「義人、アイス好きだもんね。いってら〜」
*
コンビニの中。
色とりどりのアイスが陳列されたアイスケースを見ながら、今日買う分のものを選ぶ。
「これでいっか、」
早速カゴに入れて、レジに並ぼうとアイスケースを後にする。
と――ふと、脳内でリフレインする**の声。
『かっこいいと思ったんだけどなあ……』
おそらく彼女は、単純にサラマンダーという響きがかっこいいと言ったのだろう。なのに、こんなに心に引っかかっているのは何故か。もしかしたら心のどこかで、彼女に俺のことをかっこいいと思ってほしい――だとか、そんな風に考えているのかもしれない。
こういうの、なんて言うんだっけ。
――ああ、ダルい。
こんな風に振り回されるなんて、ダルすぎる。
「……もう一個買お」
どうにかしてこのむず痒さを紛らわせたい俺はアイスケースの方に歩みを戻し、そして同じアイスをもう一個カゴに入れた。そんなことをしたところで、一時の紛らわしにしかならないとはわかっている。
けれど、今はそれでもよかった。それで、よかった。