揺るがない喧騒のなか
休み時間。
スマホを手に取り、お気に入りのゲームアプリを起動させる。
「相変わらず可愛いんだよなぁ……」
タップするだけで簡単にプレイできるこのパズルゲームは、爪の大きさほどのマスコットを片付けてあげるというものだ。タップしたときには鳴き声をあげながら上に登っていくし、何もしなくてもマスコットがぴくぴくと動いてとにかく可愛いのだ。
それに癒されたくて休み時間の度にプレイしているのだが、最近はそれどころではなくなっている。
「ね、**ちゃん」
その元凶が、この隣の席に座っている犬飼という生徒だ。
彼はなぜかそのゲームに興味を示したらしく、プレイ中だろうと構わず話しかけてくるのだ。その度にいつも突っぱねてはいるが、彼はお構いなしだ。
「……ちょっと!ゲームしてるんだから話しかけないでって、いつも言ってるでしょ!」
「え〜、いいじゃ〜ん」
「よくないよ」
私はそれだけ言って、あとは無視することにしてプレイを再開する。
その態度がどうやら面白くなかったのだろうか、彼は私のスマホの画面を覗き込んできた。その顔がやたらかっこいいものだから、余計に腹が立つ。
「この『すみすみ』ってやつをタップして消すんだね。俺もすみすみだから消されちゃうかな?」
「あんた何言ってんの?」
「あ、この水色の恐竜とか辻ちゃん好きそうだね〜」
いい加減人の話を聞け、そうツッコミたくなったのは言うまでもない。
全く、どうしてわざわざ隣の席の生徒のゲームプレイなどを覗き込んでくるのだろうか。かなりモテるし人脈も広いのだから、私がゲームしているところなど見てないで他の女の子とでも遊んでいればいいじゃないか。あと水色のそれは恐竜じゃなくてとかげだ。
「って、まただ……!」
そうこうしていると、軽い音と共に指定のターンまでにクリアできなかった旨を伝えるメッセージが表示される。そのあとの追加であと3タップするかと問うメッセージを確認したと思ったら、ライフであるクローバーが足りなくなった旨のものが表示された。
そうだ。私は彼に集中を乱されクリア失敗を繰り返してしまった結果、全5個のライフのストックを使い果たしてしまったのだ。
「もー……ライフなくなっちゃったじゃん……」
「どしたの?」
「あんたのせいでしょ……」
私がへこんでいることくらいわかるだろうに、犬飼はなおも私にちょっかいをかけてくる。
もしかしたら、自分もやってみたいなどと思っていたのだろうか。それならば基本プレイは無料なのだし、自分のスマホに自分でダウンロードすればいいだけだろう。もしくはお姉さんにでも頼んでやらせてもらえ。
「そっかそっか。じゃあやっと俺に構ってくれるの?」
「いや、私そんなこと一言も言ってないよね?」
全く、話の通じない。私はゲームしてる時からずっと相手にさせられてきたのだが、それは『構った』うちには入らないとでも言うのだろうか。
彼が所属しているボーダーのことはよくわからないが、そのボーダーの影浦くんとやらが彼を苦手に思う気持ちは痛いくらいにわかる。
「え〜……俺にもすみボーナス頂戴よお」
「1すみたりともやらん」
「つれないな〜」
そうやってあしらおうとしているうちに、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。授業が始まること自体を歓迎しているわけではないが、授業中ならばさすがに犬飼も話しかけてこないだろう。
そしてまた放課後にも同じようなちょっかいをかけられることは目に見えているのだが、まあそれは別の話。