春に至った僕ら

昼休み。
同級生の**が、俺の席まで来ていた。

「村上くん、」
「ああ。いきなりどうした?」

同級生以外接点のない俺にどうしてわざわざ話しかけてくるのだろうかと思えば、ボーダーで同じ隊の太一への伝言だった。そういえば、彼女と太一は同じ委員会に所属していたと前に聞いたのを覚えている。
太一は今日風邪でボーダーには来ないと連絡があったため、学校にも来ていないのだろう。

「――ってことなんだけど……」
「わかった。伝えておく」

わざわざ俺になど頼まず太一の同級生に、もしくはこのクラスにいるカゲや穂刈にでも頼めばいいだろう――そうも思ったが、あちらにもいろいろと都合があるのだろうと思い伝言を引き受けることにした。
**が立ち去ったのを見届け、メッセージアプリを立ち上げる。

『太一、今起きてるか』

***

それから**は事あるごとに、俺に伝言に限らず何かを頼んでくるようになった。それこそ、わざと俺との接触を増やしているのではないかと思うくらいの頻度でだ。
曰く、俺は記憶力もいいし太一からの信頼も篤い、何より正確に伝えてくれるから頼りにしているとのことらしい。

「よかったら、勉強教えてくれないかな」
「『村上くん』ってちょっと言いづらいから、『鋼くん』って呼ばせてくれる?」
「実行委員、一緒にやりたいんだけど。どう?」

何かを頼まれる度に、**と俺の距離は縮まっていく。
ときに俺の方から何かを頼むこともあり、その際も彼女が正確に遂行してくれるので信頼関係はちゃんと成り立っていた。
同時に、そんな彼女に好意を抱きつつある自分がいることに気づいてしまった。

***

そして、迎えた卒業式の日。

「ねえ、」
「ああ。頼み事か?」
「そ。聞いてくれるかな」

**に頼み事をされるのも、きっと最後になるのだろう。
俺にもまた、彼女に頼みたいことがあった。

「こういう風に頼むべきじゃないことだとは、思うんだけど……」
「うん?」

目の前の彼女が決心したように俺を見据え、口を開く。

「私……鋼くんのこと、いつの間にか好きになっちゃってたんだよね」
「……**?」
「だからさ、恋人になってくれないかな。……だめ?」

俺が頼もうとしていたことと全く同じことを、言った。
返事など、とうに決まっている。俺からも同じように返すだけだ。

「いや、むしろ俺からも頼む。……俺と、付き合ってほしい」

そう伝えれば、受け取ったらしい彼女の顔が見たこともないような表情に変わった。
喜んでいるのか驚いているのか、それとも感極まっているのか。どれにも括れないような、そんな顔だ。

「……ほんと?」
「ああ。お前も、同じことを考えていたらしいな」
「よかった!じゃあ、これからもよろしく!」

俺の前に差し出された**の手を握れば、彼女は応えるように握り返す。このあとの予定は俺にはないが、どうやら**にもないらしい。
とりあえず、かげうらにでも行って荒船達に彼女を紹介しようか。そうと決まればとそのままの勢いで校門を抜け、卒業記念のバッジが取れそうになるのも構わずふたりで走り出した。