花畑にも終わりがある

いつも通り、弟子のひとりである**に稽古をつけていたとき。

「東さん、」
「ん?」
「お話があります」

彼女が、神妙な面持ちで話を切り出してきた。
今日教えた撃ち方が難しかったのだろうか、それとも次に訓練を予定していた日に別の予定が入ったのか。いずれにしても、表情が明らかに重い。
しばらく何も言わず次の言葉を待っていると、**は思いもしなかったことを言った。

「私の指導、今日で打ち切ってもらえませんか」
「……ん?」

いきなり、何を言い出すのだろう。
他の隊員に教えを乞うことにしたのか、これからは独り立ちをするのか。それとも、ボーダーごと辞めてしまうのか。
後頭部を殴られたような衝撃をなんとか鎮めながら、あれこれ考える前にまずは彼女自身から訳を聞こうと問い質す。

「どうしてまた、」
「東さんに教えていただいているのは、私だけではありませんよね。他の弟子の方々を指導する時間だって確保しなければならないでしょうし……それに」
「それに?」
「甘えてばかりは嫌なので、自立したいんです」

俺の元から去り、独り立ちしたいと――そう、彼女は確かに言った。
寂しい気持ちはあるけれど、師匠としては弟子の自立は喜ぶべきであることくらい俺でもわかっている。子供が親元を離れていくときの親の気持ちとは、こういうものなのかもしれない。

「……そうか」
「はい。東さんに頼らなくても強くなれるように、頑張りますから」
「ああ。……達者でな、」

だから、俺は受け入れるしかなかった。

***

とはいえ、あそこで止めていればよかったと悔いる気持ちがないというわけではない。ああは言ったものの、本当は自分の元から**が離れていくのが嫌だったのだろう。
この感情はなんなのだろうかと、脳内の辞書を捲ってみる。

「執着……か」

だとすれば、どうしてあいつにだけそんな感情を抱くのだろう。いつからか、彼女に元気よく教えを請われる光景が当たり前のものだと勘違いしていたのか。
今までだって何人もの弟子を育て、そして独り立ちさせることを繰り返してきたというのに。

「だったらどうして、」

きっと、**は知らず知らずのうちに俺の中で弟子以上の何かになっていたのだろう。あいつに慕われ、訓練をつけてくれと頼まれるたびに、どこかで満たされる俺が確かにいたのだ。
だからといって、そんなあいつを手放したくなかったなどと美しく言ってみたところでそれは彼女に対する甘えであることに変わりはない。彼女はいずれ独り立ちするべき弟子であって、俺の欲求を満たすペットでも恋人でもないのだから。
俺としたことが、なんて大人げのない。

「……今更なことを、」

結局、俺もまたひとりの愚か者でしかなかったのだと。
誰もいなくなったのをいいことに、ひとり震える声で吐き捨てた。