ラッピンペイパームーン
大学の同級生であり飲み仲間の**は、俺がボーダー隊員以外で最も仲良くしている友人だ。例えば防衛任務と被った時間の講義のノートを見せてもらったり、一緒に互いの好きなシリーズものの新刊を買いに行ったりしている。いわゆるところの、何でも言い合える関係というやつだ。
今夜もまた、そんな彼女と馴染みの居酒屋で飲んでいた。
「堤ー、聞いてるー?」
好物のたこわさをつまみに、隣で軟骨を注文した彼女と日本酒を飲む。
話す内容は決まって今週の講義のこととか、試験のこととか――あとはそう、ずっと追っていた小説がドラマ化しただとか。あれもこれもボーダーとは全く関係ない、大学生らしいたわいもない話ばかりで。
けれど、今日は違った。
「堤って、来馬くんと知り合いなんでしょ?」
それは、同い年の銃手同士である来馬についてだった。
**とは女友達と行ったマカロニグラタンが評判の店で知り合ったらしいが、こんなところで彼の名前が出てくるとは思わなくて反応が少し遅れてしまう。
「……ん?ああ、そうだけど」
「私さ、来馬くんのこと……いいなって思ってるんだよね」
「それで、俺にどうしろと」
「どうしろって……私と来馬くんを近づけてくれたら嬉しいんだけど、」
**はきっと、信頼の置ける俺にだから言ってくれているのだろう。そして少し前の俺なら、それを受け入れられていたのだと思う。
けれど、今はその頼みを笑顔で受け入れられることはできなかった。まだ直接は言えていないが、親交を深めるうちにいつしか俺の中で**は女友達以上の存在になってしまっていたからだ。
つまりは彼女が来馬を好きなように、俺も彼女に好意を抱いているのだ。
確かに来馬は金持ちのボンボンで、成績も優秀だ。しかも、今まで生きてきて一度も怒ったことがないかなりの人格者ときた。**が惹かれるのも、無理はないだろう。
そんな来馬と俺のどちらを選ぶかと訊いても、きっと俺は選ばれない側に当たるのだとわかっている。だからこそ友人としては幸せを祈ってやりたい、けれど片想い相手としては彼女を取られたくなくて。
絶対に両立できない感情の間で、板挟みになる心のやり場を血眼で探す。
「……そう、か」
「どした?そこまで仲良くないとか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ごめんね、無理言っちゃったみたいで……」
もうすぐ軟骨を全て食べ終えるらしい**は店員を呼び、今度は小籠包を注文する。だいぶ前に習ったことだが、小籠包の『包』――つまり包むという動詞は『つつむ』とも『くるむ』とも読めるらしい。
結局彼女は『つつまれる』のではなく『くるまれる』側だったわけか。
なんて、生駒あたりしか言わないであろう洒落たことが言葉として形になる前に、俺はそれを残りのたこわさと一緒に日本酒で飲み込んだ。