サイレンスコール

『皆様、お元気ですか?お昼の時間です』

昼食の時間。
複数の放送委員の女子が喋る中に、僕は片想い相手である**の声を一瞬で見つけた。耳に心地よいのは彼女の元々の声がそうなのか、それとも僕が抱く彼女への好意で補正されているのか。いずれにしても、片想い相手の声にすぐ気づけるのは、サイドエフェクト冥利に尽きるだろう。
とはいえ、その度に僕の心中を騒がせるのは正直言ってむず痒い。

「……あーあ、早く終わればいいのに」

聞きたいけれど、聞きたくない。
時折そう思ってしまうのは僕以外に**の声が聞かれたくないからなのか、それともこれ以上彼女の声にかき乱されたくないからなのか。それは、僕自身にもわからなかった。
その解答を自分の中で出そうとしても出し切れずにいると、同級生でありチームメイトの歌川がこちらを伺う。

「お前、そんな態度だと**に嫌われるぞ?」
「わかってるよ……」

そりゃそうだ。嫌われる云々以前に、これは僕の片想いに過ぎないことは流石に僕でもわかっている。そもそも、僕と**は別の人間だ。僕が彼女を好きだからといって彼女だってそうとは限らないし、彼女にだって相手がいてもおかしくないだろう。片想いが必ず実るなどという保証など、どこにもないのだから。
けれど、すぐに誰にでもいい顔をする**の鈍感ぶりに少々やきもきしてしまうのもまた事実で。

「まあ、あいつもあいつだよね。せっかく僕が好意を寄せてるっていうのにさ」
「だから、そういうところじゃないのか?」
「うるさいなあ……」

なおも追及してくる歌川から、とりあえず顔を逸らした。



それから約30分後。
隣の教室から、複数人の女子の声が聞こえる。その中には放送室から戻ってきたらしい**の明るく朗らかな声もあった。
盗み聞きと言われてしまっても、全て僕のサイドエフェクトのせいなのだから仕方ないだろうと開き直ることにした。

『で、菊地原には聞いてもらえたっぽい?』
『どうだろ。あいつ耳いいし、声とかめちゃくちゃ気にしてそう……』
『あー……直接訊いてみれば?隣のクラスなんでしょ?』
『いや、無理でしょ。片想い相手に直接なんて、緊張しかないよ』

全て僕に筒抜けであることを知らないであろう彼女らは、本人が聞いているとも知らず僕のことを『片想い相手』などと宣う。全く、どれだけ鈍感なのだろうかと少々呆れてくる。
結局のところ僕が片想いだと思い込んでいただけで、実際は僕と**の両片想いであったわけだ。

「……**さぁ、」

誰にも、それこそ**本人にも聞こえないようにその名前を呟く。
僕と彼女の両片想いから『片』という文字が取れる日はそう遠くもないだろう、なんて。僕は彼女に告白した後の未来をひとり想像し、迅さんじゃないんだからと慌てて取り消した。