あの心臓は銀弾を待っている
私の双眸が、ボーダーの廊下を通ったある人の影を捉える。真ん中分けの茶髪と高身長、周りを寄せつけない雰囲気のある青年――紛れもなく、二宮さんだ。
彼に出くわして早々、ある頼み事が私の口をついて出た。
「お願いします!私と模擬戦してください!」
「は……?」
私が密かに想いを寄せる彼は何と言ってもボーダートップクラスのトリオンを持つ射手であり、個人総合2位という称号すら持っている。そんな彼だからこそ二宮信者で有名な里見くんを始め誰もが教えを乞いたいと思うところだろうが、以前私も頼み込もうとして鳩原さんに関する調査で忙しいからと断られたことがあるのだ。
直接教えてもらえないのならば、模擬戦でもよかった。たとえ交えるのが刃であったとしても、彼と接せるだけで私には充分なのだ。
「……仕方ない」
かくして、二宮さんとの模擬戦に突入することになったのだが――
***
『**、ダウン』
そうして開始した彼との模擬戦は、当然とも言うべきか私の連戦連敗だった。私の苗字に続けられた『ダウン』の言葉を、その無慈悲なアナウンスを、今日私は何回聞いただろうか。
そりゃそうだ。彼は元からその高いトリオン能力でありとあらゆる相手に一方的な攻撃を仕掛けることができ、さらにそこに射手特有の複雑かつ柔軟な攻め手を織り交ぜることによってありとあらゆる戦況への器用な対応能力をも身につけているのだからある意味で当然だ。あのときの玉狛第二がこれを破れたのは他でもなく三雲くんと空閑くんの連携によるものであり、私1人ではまず無理な話だったのだ。
別に何かのリベンジがしたくて頼み込んだわけではないので私はそれでもよかったのだが、呆れたような調子で「俺に挑んだのだから1本くらい取ってみせろ」とまで言われてしまえば、何としてでも1本は取るために再戦を繰り返すしかなかった。
「あの……もう1回、お願いします!」
「仕方ない。……次で最後だからな」
そして迎えた最終戦。私は戦闘開始のアナウンスが鳴って早々、二宮さんと触れそうなところまで距離を詰めた。
これ程近くにいれば、高火力の弾丸を食らわされて即ベイルアウトもおかしくないだろう。けれどそれはトリガーが発動したらの話で、その前になんらかの形で発動させないようにしてしまえばいいのだ。
「えい……っ!」
そこからさらに距離を詰め、トリガーを発動しようとした彼の右手を掴む。それから模擬戦ブースの床に押し倒し、油断しきったところで零距離でアステロイドを放った。
「捕まえた……なんて、」
流石の彼でも反撃する気すら起きなかったようで、そのまま今日初めての『二宮、ダウン』のアナウンスが鳴り響くことと相成った。
*
「で、**」
ブースを出て、ふたり廊下を歩く。
やはりというべきか、私は先程の戦術について二宮さんに問い質された。
「俺に勝ったのはまあいいとして、なぜあんな方法を取った?」
「あはは……こうすれば落とせるかも、って……思って、」
「それ、他の奴と戦うときにはするなよ」
耳まで赤くした彼が、照れ隠しなのか顔を逸らす。
聞こえないようにと呟いたであろう言葉を、私は聞き逃さなかった。
「…‥反則だから、な」
それは、私が密かに寄せていた想いが二宮さんに届いたということだと――そう、確信してもいいのだろうか。
その真相は、彼しか知らない。