ご機嫌な策略
「諏訪さん!」
「おう、」
「この間貸してくれた推理小説、超面白かったです!」
貸しただけで作者でもなんでもない俺に感想を言ってどうすんだ。そういうことはファンレターなりなんなりで直接出版社にでも送ってやれよ。
「諏訪さーん!」
「ん?」
「あの、うまく役を揃える方法とかあれば教えてください!」
俺に訊かれても、うまく教えられる自信がねえんだが。せめて東さんか冬島さんに訊いてくれ。
「すーわーさんっ!」
「誰……ってまたお前かよ!」
「煙草吸ってるとこかっこいいですね!」
お前、未成年なのに煙草の煙吸い込むくらい近くにいて大丈夫なのかよ。改正健康増進法はどうした。
と、まあこんなふうにここ数日は後輩の**にぐいぐい来られている。それが熱烈すぎるあまり、彼女は俺を王子様か何かと勘違いしているのではなかろうかとさえ思ってしまうほどだ。勘違いするならせめてホームズかその辺だろうという冗談はさておき、そうやってぐいぐい来られること自体は嫌ではない。
嫌ではない、のだが――こう何度も迫られると、少しむず痒いのだ。
俺に好意を持っているのは言われずともわかる――というか、これほど寄せられてわからなければ俺が相当鈍感ということになる――が、それにしたって勢いありすぎだ。いちいち漫才の如く脳内でツッコむ俺の身にもなってくれ。**だからまだいいが、これでもし相手が風間だったら速攻シバく。
「あ!諏訪さんだ!」
などと1人呆れていれば、当の彼女がまた話しかけてきた。
噂をすれば影、とはこのことだろうか。
「……で、今度は何だよ?」
「今日の酒のおつまみって何にするんですか?決まってないなら私が調達してきましょうか?」
「お前なあ……そんなん訊いてどうすんだよ……」
なんで未成年に酒のつまみなんて訊かれなきゃなんねえんだよ。一緒に飲むわけでもあるまいし、というかまだ飲めねえだろお前は――って、ああいけない。俺はまた、思わず**の発言に脳内でツッコんでしまった。
俺が返したいのは、彼女のボケへのツッコミではないはずなのに。
「つか、お前なんでそんな俺にぐいぐい来るんだ?俺の何がそんなにいいんだよ?」
「うーん……」
本題とばかりに質問で返せば、**は少し考え込む素振りを見せる。
が、その答えはすぐに彼女の口から出てきた。
「そんな感じで、歯に衣着せないところですかね?」
曇りのない瞳で、真っ直ぐにこちらを見ながら言ってくる彼女。
そんな風に言われてしまえばもうツッコむ気力すら湧いてこず、その言葉を素直に称賛として受け止めるしかなくなってしまう。
「……お、おう」
結局、ぐいぐい来るのも俺を翻弄するための策略だったというわけか。
呆れ半分、照れ半分で一言だけ返してやれば、それを納得と受け取ったのか**は満面の笑みを浮かべた。