ユートピア日記
よく俺の面倒を見てくれるエンジニアの**から、日記をつけるといいと勧められた。俺は日記はおろか日付の概念すらよくわからなかったが、玄界の人間は日々の記録としてこのようなものを書くらしい。
**に渡された青緑色のノートを開けば、もう既に彼女の字で今日の日付とコメントがが書かれていた。曰く、いきなり何も見ずに書けと言われても難しいだろうから交換日記という形式にするとのことだった。
「明日がランク戦デビューなんでしょ?見に行くね」
「ああ、ありがとう」
彼女の字を見ながら、その下の空白に見様見真似で筆を走らせる。
『2月28日』
『明日は俺がタマコマ第2として初参戦するランク戦となる。遠征部隊へと勝ち進み、俺がアフトに帰国するための大事な戦いとなるだろう』
「……これでいいのか?」
「うん。明日、私の分書いとくからね〜」
書き終えたそれを閉じてそっと**に渡せば、彼女は両手で受け取ってくれた。
*
翌日の夜。
今日もあの青緑の表紙を捲り、**の分の下の空白に書き加える。
『3月1日』
『ランク戦。本来ならカゲウラ隊から大きくリードを取る予定だったのが、カゲウラがスズナリの得点になってしまった。他にも様々な要素で決定的な差をつけられなかったので、バイパーの弾道変化は次戦に備えておくことにした』
書き終えたところで、オサムが俺を呼ぶ声がする。
「ヒュース、そろそろ……」
「ああ、」
***
それから10日間ほど続いた**との交換日記も、流石に遠征試験中は中断という形になってしまった。
『3月16日』
『明日から遠征試験が始まる。合格を掴み取れるかはわからないが、必ず生きて帰ってくる』
いつも通り筆を走らせ、最後となるであろうそれを書き終える。
一旦はそのまま出そうとも思ったが、しかし帰れないかもしれないということを考えると何か足りない気もしてしまって。
『もし合格を掴み取れたら、俺の恋人になってほしい』
悩んだ結果、一文だけ書き足してノートを閉じた。
それからしばらくして、タイミングよく**が訪れる。
「あ、ヒュースくんだ。明日、試験だよね?」
「まあな。……行ってくる」
それだけ言ってノートを渡せば、受け取った彼女はまだ読んでもいないそれを大事そうに抱え満面の笑みを見せた。
さあ、ここからは全て俺次第だ。