イエローナイフ・フィフティー

近界民だとか、遠征だとかはどうでもよくて。
ただ、私は斬られたかった。

***

きっかけは何だったか。確か、ボーダー隊員がトリオン兵を切り刻むところをニュースで見たことだったような気がする。それがおかしいことだと、抱くべきではない感情だとは自覚しつつも、斬られることに心のどこかで憧れていた。
ランク戦というものをしたいがために戦闘員としてボーダーに入った今も、私は変わらない。きっと一生変われないのだろう、そう自覚させられるほどにその願望は私の中で肥大していった。
そんな中。

「……あれは、」

私の視界に捉えた影。
太刀川さんだ。彼が私を覚えているかはさておき、A級1位の部隊を率いる隊長にしてNo.1攻撃手、しかも個人総合1位でもある彼を私が見間違えるわけがない。

「どうしましたか?」
「ああ。ランク戦の相手探してて」

趣味として挙げているランク戦の相手を探そうとする太刀川さんを見て、ふと思い立つ。
彼ならば、きっと私の首など簡単に斬り捨ててしまえるだろう。

「なら、私が相手になりますよ」
「いいのか?俺はいいけどすぐ終わっちまうんじゃねえ?」
「負けるってわかってて言ってるんです。さあ、」

表情を変えない彼の顔を見据え、迫る。

「――私を、斬ってくださいよ」



そうして幕を開けた太刀川さんとのランク戦は、想像通り私が一方的に斬られるものだった。まあ、私がそれを望んだからなのだけれど。
心臓だろうと首だろうと、トリオン体ならば簡単に斬れる。彼くらい強い隊員ならば、尚更だ。

「お前さあ……なんで立ち向かってこねえの? せっかくの個人ランク戦なんだし、強え奴と戦いてえんだけど」
「さっきも言ったじゃないですか。負けるの前提で言ってるって」
「だからなんで、」
「斬られたかったんです、私。ずっと」

あくまでも自分が勝つことを楽しんでいる彼とは、絶対に相容れないであろう願望。
どうかその弧月の切先で、心臓を一思いに刺してほしい。

「太刀川さんには、絶対わからないですよね」
「ああ。全くわかんねえ」

そのうちに時間は経っていき、ついに迎えた最終戦。太刀川さんは無抵抗なままの私に刃を向け、そのまま真っ直ぐに貫いた。
ざくり、と左胸に突き刺さる音がして。

『**。ダウン』

聞き慣れたアナウンスと共に、私の身体は粒子となった。
私がボーダーに入隊手続きをしてまで遂げたかった願望は――そうして。