15 体育祭!【前篇】
「来月は体育祭があるから、お前ら今から気合入れていけよ!先生は絶対に優勝したいからな!」
「体育祭っ……!」
現在HR中。
先生が楽しそうに発した一言に、桜華は堪らなく興奮した。
遂に学校全体で行うイベントの季節がやってきたのだ。
行事大好きな桜華は小学生の頃も運動会がとても好きで、練習中からとてもはしゃいでいた。
その姿を同じ小学校でクラスメイトであった柳はいつも面白い……と思いながら見ていたんだとか。
そしてそれは、中学生になっても変わる事はなくて。
「えー……体育祭とか面倒なんだけど。疲れるだけじゃん」
「ちょっと理央!何言ってんの!体育祭だよ、一大イベントだよ!?全然面倒な事じゃないよ!」
「桜華は本当に元気ね?体育祭はやっぱり面倒くさいけど、そんなところもやっぱり可愛い!」
「か、可愛くはないけどっ!何にしても折角なんだから理央も楽しもうよ!何の競技に出ようかな?あー楽しみ!」
「ふふ、桜華って運動得意だったっけ?」
「う、それは……その……」
「それは?(答えは分かってるんだけどね)」
幸村にそう聞かれてうっと言葉に詰まる桜華。
その様子を見たいがために質問した幸村は、してやったりと言う感じである。
何て答えたらいいか考えて戸惑っている桜華も、彼にとっては可愛くて仕方ないのだ。
「……気合と、根性でカバー!幸村君、私を甘く見ちゃだめだよ!きっと体育祭の時はいつもより運動だって出来るはずっ……!頑張るもん!」
「(気合と根性?何それ可愛い)甘く見たわけじゃないけどね、でも桜華が走ってこけたりしないか心配で。あ、その時は真っ先に助けに行ってあげるね?」
「大丈夫だよもうっ!(助けに来るのは流石に恥ずかしいっ……!)……とりあえずほら!何にしても楽しもうよ体育祭!ね?」
「そうだね。俺は部活対抗リレーもあるし気合入れないと」
「部活対抗リレー?え、もう幸村君出ること決まってるの?」
「うん、この間先輩に言われてね。あと蓮二と真田も出るよ。他は先輩達だけど」
「凄い凄い!流石幸村君!わあどうしよう、沢山応援しなきゃ……!」
「ふふ、そんな事ないよ。でも応援は沢山してほしいな……俺、桜華の応援があればもっと頑張れるから」
「うんっ!任せて!」
一年なのに部活対抗リレーに出るなんてやっぱり幸村君は凄いと、桜華は改めて彼の凄さを思い知った様な気がした。
だけどそれは真田や柳にも言える事で。
彼らが伊達に三強と呼ばれていないのだとそう思った。
(やっぱり凄いなあ……みんなみたいに運動神経良くなるにはどうしたらいいんだろう?持って生まれたものだから私には無理かな……!?)
「……て言うかさあ」
幸村と桜華が部活対抗の話で盛り上がってたら、存在を忘れ去られていたであろう理央が声をかけた。
その声色はとても友好的なものとは言えなくて。
桜華はどうしよう理央の事放っておいたからだ……!と慌てて理央の言葉に反応した。
「あ、あの理央ごめんね!つい部活の事で盛り上がっちゃって……!」
「それはいいのよ桜華。違うの……」
「え……?」
「……幸村!あんた何桜華の事名前で呼んでるのよ!最初は幻聴だと思ったんだけど、いよいよ本当の事らしいわ!」
「理央!?(そこなの!?)」
理央から発せられた予想外の理由に桜華は呆気に取られる。
まさか彼女がそんな事で怒っていたなんて。
しかし幸村はそんな理央の言葉も全く気にしていない様で、ふふんと鼻でも鳴らしそうな表情を向けている。
その表情は、理央の怒りを更に刺激する。
「何その表情は!ちょっと表出なさいよっ!今すぐぼっこぼこにしてあげるわ!」
「やだな悠樹さん。女の子がぼっこぼこなんて言葉使うものじゃないよ?折角顔は可愛いのに」
「そんな事幸村に言われても全く嬉しくないから。とりあえず桜華の事名前で呼ぶのやめてくれない?耳障りよ」
「それは無理な相談かな?と言うか、何で俺悠樹さんにこんなに敵視されてるの?今に始まった事じゃないけど」
「は!愚問ね。あんたが桜華の近くにいる限り、あんたは桜華をたぶらかす敵なのよ、敵!それ以上の理由なんてないわ」
「(どうしよう何かめちゃくちゃだ……!)」
理央はいつも桜華と幸村の事となると我を忘れてしまう。
だけどそれも彼女が理央を好きな理由の一つで。
自分の為にこんなになってくれるのはやっぱりどんな理由であれ嬉しいものだ。
(幸村君に対しては厳し過ぎると思うけどね……!)
そう考えてる間にいつの間にか担任が、「……今日はこれまで」と、物凄く呆れながら教室を出て行っていた事に桜華は全く気付いていなかった。
「そう言えば桜華は何に出るんだよ、体育祭」
「え?」
「確かに、気になるの」
体育祭が数日後に迫ったある日。
授業でも体育祭へと向けて練習したり準備をしたりと、今となっては学校中が体育祭モード一色。
そんな中、部活の休憩中に桜華はブン太と雅治に尋ねられた。
「私は玉入れと綱引きと、あと借り物競走!」
「綱引き……ククッ、桜華はすぐ引きずられそうやの」
「雅治!私だって綱引きくらい……!引きずられるなんて、そんな事ないからね!」
「桜華は借り物かー!楽しそうでいいじゃんっ!立海の借り物って結構凄い物借りてこいってのがあるらしいけど?」
「え、そうなのブン太?」
「過去にあった物に、校長のヅラ、好きな人の第二ボタン等があるな。これに当たった生徒は皆棄権している」
「それはいくら何でも厳しいよねえ。第二ボタンとか時期じゃないし恥ずかしいし……。それに取りに行ってる間に終わっちゃいそう」
「ちなみに第二ボタンを当てたのは男子だったそうだ」
「うーん、余計難しいお題だね……」
借り物競走ってもっと簡単なものじゃないの?と、桜華はそう考えていた。
例えば、何組の先生……等、ある程度すぐに発見出来て持って来られるものを想定していた。
柳の話を聞いて、彼女は何て競技を選んじゃったんだろう……と少し後悔する。
「桜華は普通の借り物に当たればいいな」
「何か、今凄く不安になったよ。私くじ運とかないし……うわあ、今から考えちゃうなあ……」
「桜華の借り物競走、今から楽しみじゃの?出来れば面白いものに当たってくれるとええんじゃけど?」
「雅治ってば他人事だと思って……!あ、それはそうと、みんなは何に出るの?」
そう彼女が尋ねると、その場にいたブン太、仁王、柳は揃って言った。
「「「組別対抗リレー」」」
組別対抗リレーと言えば、一年から三年の同じ組に所属する中から選ばれた俊足が揃う、いわば体育祭では最も盛り上がるトリを飾る競技だ。
主に陸上部や、その他の運動部の面々が集う事が多い。
その中の一年代表として彼らが出場する事に、桜華は感嘆を漏らした。
「やっぱりみんな凄いね!確かに足速いもんね!あ、ブン太も体重はあるけどそれでも速いよね」
「ちょっ、桜華酷くね!?」
「あははっ、ごめんごめんつい!」
「……俺もちなみに組別ね?桜華は知ってるだろうけど」
「幸村君!?(いきなりどこから……!)いやだって幸村君はクラスで一番速いしね、先生も期待してたし!みんな絶対幸村君だって思ってたよ」
「それ程でもないけどね?……部活対抗もだけど、組別の方も応援してくれる?桜華に応援してもらえたら俺もっと頑張れると思うから」
「同じ組だもんっ、勿論だよ!沢山たくさん、応援するねっ!」
「ふふ、ありがとう」
幸村は幼い子供の様に笑った。
なかなか見られないその表情にその場にいた全員が、あんな表情するんだなあ……と思った。
勿論この表情は桜華だけに向けられたものである。
彼女に応援してもらうと言うそれだけで、幸村にはとても嬉しい事なのだ。
「とにかく後少しで体育祭だし、みんなで楽しもうね!」
「桜華がそんなに体育祭楽しみにしとるとはのお……?運動音痴やのに」
「も、そう言うのはなしっ!運動出来なくても楽しみなんですー!と言うか、行事が大好きなんだ!だからすごく楽しみ!」
「俺も楽しみにしてるぜぃ!優勝したら褒美もあるらしいしな!」
「ご褒美!?何それ……!(初耳だ……!)」
「何かは優勝組に渡されるまで内緒らしいけどね、毎年あるらしいよ。内容もその都度変わるって。豪華な時もあれば、凄く微妙な時もあるって聞いたけど……」
「何だろう何だろう!うわあ、気になるなあ」
「俺はお菓子の詰め合わせがいい!」
「……ブタになるぜよブンちゃん」
「うっせー仁王!その分運動してるから平気なんだよ!」
「しかし今のままでは摂取カロリーと消費カロリーのバランスが取れていないな。明らかに摂取している方が多いぞ」
「やっぱりブン太は食べすぎだね、ちょっと抑えようか。それか練習メニューもっとハードなのに変えてもらったら?」
「幸村君までっ……!」
ご褒美があるというそれだけで、桜華の楽しみは更に増した。
しかし何を貰えるかは当日優勝するまでのお楽しみ。
優勝出来なければ貰えないとは分かっていても、楽しみな事には変わりない。
彼女は心の中で絶対に優勝してご褒美貰うっ……!と改めて意気込んだ。
(それにしてもご褒美って何かなあ?あっ……立海だし、やっぱり立海饅頭とか?あれすっごく美味しいから大好き!)
桜華がご褒美について考えている所に、柳生とジャッカルがやってきた。
「おや、皆さんお揃いでどうしたのですか?何か楽しいお話でもしていたのでしょうか?」
「よう」
「比呂士!ジャッカル!(ん?そう言えばこの二人って……)あ、二人ってそう言えば体育祭実行委員だったよね?」
「そうですよ」
「そうだぜ」
桜華は「やっぱり!」と発すると、続けて彼らに聞いた。
「あのね、体育祭で一位になったら貰えるご褒美が何か知ってる?」
「「!?」」
「どうしたの……?(何か悪い事でも聞いちゃったかな!?)」
何故かその質問をした際の彼らの表情が微妙に曇った。
桜華は聞いちゃまずかったかな……と思いつつも、二人が話し出すのを待つ事にした。
何気にブン太達も気になっている様子だ。
「比呂士?ジャッカル?……ごめんね、聞いちゃいけなかったかな?」
「あ、すみません……優勝組への賞品の方は、まああまり期待なされない方が……」
「……だな」
「え?どういうこと?」
「いや、きっと喜ばれる方は喜ばれると思うのですが……(特に丸井君辺りは)」
「?」
桜華は本当に一体何なんだろう……?と更に疑問を深める羽目になってしまった。
喜ぶ人は喜ぶものとは言っても、その様なもの星の数程ある。
その中から答えを見つける事は最早不可能に近い。
だが彼女は期待したかった。
頑張って優勝した暁に折角貰える物に、今から残念がりたくなかったのだ。
「じゃあ私は喜ぶ方にかける!頑張ったご褒美に喜ばないわけないしね!」
「桜華……(しかし桜華なら喜ぶかもしれませんね……)」
「じゃあ、俺も楽しみにしてようかな?桜華が言う事間違ってないしね(何を貰っても、桜華が嬉しいって思える物なら俺は何でもいいし)」
「俺は食べ物なら何でもいい!やっぱご褒美と言ったらお菓子だろぃ!」
「……学校からの褒美より、俺は桜華から何か貰おうかの?」
「え?私から……?」
「じゃあ、俺にもご褒美ね桜華?」
「ほう……では俺も貰おうか」
「じゃあじゃあ俺も……!約束な桜華!」
「ええ!?(みんなにご褒美ってどういう事!?)」
何をあげたらいいの!?とわたわたしている桜華を他所に、ニヤニヤしている幸村達。
もう学校からのご褒美などどうでもいいと思っている彼等は、頭の中で何を貰おうかと勝手に想像してはあらぬ妄想をしてそれを消すの繰り返し。
しかし結局のところ桜華から貰える物なら何でもよくて。
幸村達は早く体育祭来ないかな……と違う意味で楽しみにするのだった。
(みんな私からのご褒美って何がいいの……!?)
(んー?希望すれば何でもくれるんかのお?)
(あげられる物だけだよっ……!)
(俺は桜華の心の籠った物であれば何でもいいよ?(本当は頬にキスとか言ってみたいけど))
(心の籠ったもの……ううーん……ますます悩む……)
(悩んでる桜華も可愛い)
(幸村君っ!もう……)
(ふふ、ごめんごめん(でも本当に可愛いんだから仕方ないじゃないか))
あとがき
借り物競争なるものには参加した事がないのですが、実際はどんな感じなのでしょうか。
とりあえず、次回桜華さんには頑張ってもらおうと思います。
柳生は体育祭実行委員会とかやらなさそうと思いつつ、話の流れでしてもらうことに。