20 すれ違い




クリスマスイブがいよいよ明後日に迫った。
今日は二学期の終業式。
学校自体は午前で終了で、この日全部活は基本的には活動停止となっている。
そう言う事なので、桜華は丁度いい機会だと思い学校帰りにパーティで交換するプレゼントを買いに行く事にしていた。


「桜華、今日帰り遊ばない?部活ないでしょ?」

「いいよいいよ!……あ、ちょっと寄りたい所あるんだけど良いかな?」

「寄りたい所?」

「うん、実は……」


桜華は理央にクリスマスプレゼントの事を説明した。
そう言えば理央に相談しようと思っていたのに、今まですっかり忘れていた事に言いながら気付いた桜華。
だが段々と不機嫌さが浮かぶ彼女の表情を見て、ああ今まで言わなくて正解だったかもと思った。


「何で桜華はテニス部の奴らとクリスマスパーティするのよっ……!ずるい、ずる過ぎるわ……!」

「ご、ごめんね!その日丁度部活が休みで、みんなでしようってなって……!(怒ってる……!)」

「恨めしいわテニス部……いいえ、全ての元凶は幸村よ、ゆ・き・む・ら!あいつさえ桜華の傍にいなければ……」

「ええ!?幸村君は別に悪くないよ!と言うか誰も悪くないよ!」

「私と桜華のクリスマスを無きものにした罪は重いわよ……」


理央の顔が益々と険しくなる。
幸村が絡むとどうも駄目らしく毎回こんな感じではあるが、その度に桜華はわたわたと慌ててしまう。
そんな所も二人は入学当初から変わらない。


「あーもう本当に忌々しい!幸村の奴……本当にいつも美味しい所ばっかり持って行って……!」

「ふふ、悠樹さんまた俺の話?」

「あ、幸村君!(このタイミングで来ちゃう!?)」


噂をすれば影とはこの事なのだろうか。
いきなり現れた幸村のその表情はいつもと同じ、綺麗なもので。
しかし彼の顔を見るや否や、一瞬で更に表情を険しくさせる理央。
桜華は一触即発なその空気にそわそわした。


「幸村ー!貴方よくも私の前に顔を出せたわね!聞いたわよ、クリスマスの話……!」

「ああ、そうなんだ。テニス部の皆でパーティする事になって。楽しみだね桜華?」

「うん……!(幸村君煽っちゃだめ……!)」

「煩い!私と桜華の素敵なクリスマスをよくも邪魔してくれたわねっ……!」

「悪いね、別に邪魔するつもりはなかったんだけど。あ、良かったら悠樹さんも来る?」

「あんたがいるならお断りよ!」

「そう、残念」


幸村はふうと溜め息をついた。
その横で理央は苛々した様子で幸村を睨んでいる。
二人を見ていると、何だかんだ仲が良いんじゃないかなと感じる桜華。
喧嘩する程仲がいい……と言う言葉が当て嵌まるのではないかと。


桜華がそう思った瞬間。


(……あれ?何だろう、この感覚)


彼女の心は少しだけ苛々して、それでいて胸がきゅっと締め付けられたかの様に苦しくて。
そして何よりも感じたのは、


(少しだけ、寂しいな……)


寂しいという感情だった。




「理央、もう機嫌直して……ね?折角遊びに来てるんだし」

「全く……幸村の奴本当に私の敵だわ」

「そんな事ないよ。優しいよ、幸村君は」

「桜華はそう思ってても、私からしたら敵なのよ。大体、幸村が優しいのって桜華にだけじゃない。それに桜華をいつも一人占めしちゃって」

「(私だけに優しい……?そうなのかな?)もう、理央は幸村君を毛嫌いし過ぎ。二人には仲良くしてほしいよ」

「私は桜華さえいればいいのよ」

「理央ってば……嬉しいけど、駄目だよそんな事言ってちゃ」


あの後何とか二人を離れさせて、今桜華と理央は近くのショッピングモールに来ている。
理央の苛々はまだ治まってない様子だが、さっきよりかは幾分ましになっている気がする。
とりあえず桜華はクリスマスパーティで渡すプレゼントを選ばなければならないので、手当たり次第お洒落な店や雑貨店に入って色々と見て回る。
幸村には実は少し前に買った別のプレゼントがあるけれど、皆で交換するプレゼントを選ぶのはまた大変だと彼女は思った。


「男の子って何が欲しいんだろうね……うーん」

「さあどうなのかしら……私も彼氏とかいないから分からないわ」

「だよねえ……理央でも分からないんじゃ私はもっと分からないなあ」


二人で見てもなかなか決まらないプレゼント。
あれだけ怒っていたのに、何だかんだ理央も真剣に探してくれている様だ。
桜華はその姿にほっとして、そう言う所がやっぱり優しいなと改めて思った。


(理央にも何かプレゼントを買わなきゃ)


その後も二人で色々と見て回ったけれど、やはり決まらない。
そもそも、男子がお洒落な雑貨なんて欲しがるのか、そう考えだしたら何も思い浮かばなくなってしまった二人。
結局何が良いか分からないまま既にお店巡りは二週目に突入していた。


「本当に何が良いかなー……迷い過ぎて分からなくなってきちゃったよ」

「誰に渡るか分からないんでしょ?だったらやっぱり無難なものが良いんじゃない……?」

「その無難が一番難しいんだよね。……あっ!」

「どうしたの桜華?」

「ねえねえ理央、あれはどうかな!?」

「あら、いいんじゃない?あれなら毎日使えるものだし」

「ちょっと見てもいいかな?」

「ふふ、勿論」


先程は気付かなかったが、今改めて見てみるとなかなかいいなと思える物が見つかった。
凝った物やお洒落な物ではないが、目の前にあるそれなら毎日使ってもらえるような気がして。
そうと決まればと、桜華と理央は売り場に置いてある幾つかの商品を品定めに入った。


「色はどれが良いかな……?」

「無難に黒とかじゃない?一番外れがなさそうだし」

「そうだよね。量も沢山入る方が良いなあ……」

「じゃあ、大きいやつよね。あ、これとかは?かなり入るみたいよ」

「あ、いいかも!大きさも色もいい感じ!」


理央が指差したそれが桜華の目にも一番よく見えて、彼女は迷わずそれに決めた。
値は少し張ったが、貰ってくれた人が喜んでくれたらと思うと桜華自身値段はさして気にならなかった。


「あー買えてよかった!理央、付き合ってくれてありがとうね。お陰でいいのが買えました」

「どういたしまして。プレゼント買い終わったし、そろそろケーキでも食べない?なんか歩き回ったからお腹空いちゃった」

「わあ、ケーキ食べたい!」

「ふふ、じゃあ行こう?」


理央と久しぶりにケーキを食べる事になりテンションが上がる桜華。
二人は美味しいと評判のショッピングセンター内にあるカフェへと向かう。


「何のケーキ食べようかなあ。この間はザッハトルテ食べたし、その前は……」

「私もどうしようかな……って、あれ?」

「ん?どうしたの理央?」


急に理央が立ち止まった。
いきなりの事に桜華は少し驚いたが、彼女もすぐ立ち止まって理央の方に顔を向けた。
すると理央は少し不機嫌そうな顔で、向こう側を指差していた。


「あれ、幸村じゃない?って言うかどう見てもそうよね……」

「え……?」

「ほら、あの女の子と一緒にいるの……」


理央の指差す方向をゆっくりと視線で辿る桜華。


「ゆきむら、くん……?」


彼女の視線の先には、綺麗な藍色の髪の毛をした男の子がいた。
それは見間違うはずもない、紛れもなく幸村本人で。
その幸村は可愛いお人形みたいな女の子と一緒にいる。
楽しそうに笑ってて、その笑顔は愛情が満ち溢れている様で。
桜華はきゅっと胸が締め付けられた。


(幸村君、あんなに可愛い彼女いたんだ……知らなかったなあ……)


「幸村の奴、彼女居たのね。しかもあんな可愛い子……立海じゃ見ない子だから違う学校の子なのかしら?……でもそれなのに桜華にちょっかい出すなんて最低よ。ね、桜華?」

「っ……」

「桜華!?どうしたの、やだ、何で泣いてるの!?」

「ごめっ、何でもない、何でもないからっ……」

「何でもないって、いきなり泣き出してそんな訳ないじゃない!」

「本当に何でもないからっ……っ」

「ちょっと桜華!?」


必死な理央を横目に、涙で霞む視界の中桜華に見えたのは、理央の大声に気付いたのか彼女に断りを入れてこっちに走ってくる幸村の姿だった。
今この状況で彼が近付いてくるのが耐えられなくて、桜華は心配してくれている理央を振り切って走り出した。
理央が名前を大きな声で叫んでいるのが聞こえたが、彼女はそれでも今は止まりたくなくて、全速力で走った。


(幸村君にはあんなに可愛い彼女さんがいるのに、少しでも自分の事を想ってくれてるかも何て思ってた私馬鹿みたい……。そんな訳なかったんだよね……分かり切ってた事なのに)


走りながら桜華は自嘲気味にそう思った。
幸村が自分の事を好きなはずなんてないのにと。
皆の憧れで、テニスが強くて優しくて。
ファンだって沢山いる幸村。


(ただ私が同じクラスで、テニス部のマネージャーってだけで幸村君と接点がある……それだけなのに)


彼女の考えは止まらない。


(それ以上なんて何もない。幸村君の私に対しての好きはずっと、これからも友情なのに……)


桜華は、心のどこかでその事は分かってたかも知れないのにと思う。
しかしそれでも、彼女は思っていたかったのだ。


(私はそれでも、幸村君が言ってくれる『好き』って言葉を勘違いしていたかったんだ)


「どうしよう……もう幸村君に合わせる顔ないよ……」


溢れる涙もそのままに、桜華は箸って家へと帰った。






あとがき

大体の予想がつくかと思いますが、ここまできました。
あとはクリスマスパーティにて一旦落ち着きます。
早く彼女達を幸せにしてあげたいです。