23 好きって気持ち
暫くして二人が元いた部屋に戻ると、そこにいる全員が桜華の事を心配していた。
しかし先程よりずっと元気そうな姿を見て安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす。
「全く、こんなに寒いのに何をしていた。早く暖まらんか」
「ごめんね弦一郎、心配かけちゃったかな……?」
「当たり前だ」
「桜華桜華!俺も心配してたからっ……!大丈夫かよ」
「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんねブン太……ありがとう!」
「へへっ」
「……って、あれ?ケーキまだ食べてなかったの?」
「桜華が帰ってくるまで待ってたんじゃよ。ブン太は涎垂らして危なかったけどのお」
「何言ってんだよ仁王!そ、そんな事ねえし!」
「ごめんねブン太、待たせちゃって……!でも私もケーキ早く食べたいなあ」
「まあまあ。それでは桜華と幸村君も帰ってきた事ですし、早速ケーキを頂くとしましょうか」
柳生の一言で全員がケーキを囲む。
柳が一つ一つ綺麗に、寸分の狂いもないかの様な完璧なカッティングをしたケーキを皿に乗せた。
ブン太は自分で作ったものであるが、それでもきらきらした目で皿の上のケーキを凝視する。
相当待ちくたびれていたようだ。
幸村も自分の皿の上に乗ったケーキをじーっと見ていた。
白い生クリームに柔らかそうなスポンジ。
その上に乗る真っ赤ないちご。
(何だか桜華みたいだな……って、何これ、ちょっと俺変態みたいな考えしてる?)
なんて一人心の中で呟いていた。
ちらっと桜華の方を見ると、「ん?」と可愛らしく首を傾げ自分を見るそれも可愛らしくて。
幸村はまあ変態でもいっかと自分で自分を納得させていた。
「どうしたの精市?」
「ああ、いやちょっとケーキ見てたら思う所があって……ふふ」
「面白い事……?」
「……このケーキ、桜華みたいだなって」
「え?」
「ほら、この真っ赤ないちごとか桜華の唇の色と一緒だし」
指をさしながら彼がそう言うと、桜華はそれはもういちごの様に真っ赤になって幸村を見つめた。
「精市の馬鹿!恥ずかしいっ……」
「だってそう思ったんだ、仕方ないでしょ?あ、ちなみに生クリームの白は桜華の肌の色だよ。桜華は白いよね、それも可愛い」
「もうっ……!(精市はどうしちゃったの……!?)」
桜華はぷいっと顔を背ける。
しかし赤くなった耳は隠し切れておらず、幸村は再び可愛いと呟き、そしてくすっと笑った。
(なんじゃあの二人……雰囲気が、いつもと違う気がするんじゃが……。……まさか)
最初に二人の雰囲気が少しいつもと違う事に気付いたのは、メンバーの中でも一、二を争う勘の良さを持つ仁王だった。
しかし勘の良さだけではなく、彼自身が桜華を好きであるからこそより敏感に感じ取ったのだろう。
柳はもうとっくに分かっていたらしく、何も言わなかった。
「桜華、お前幸村の事名前呼びじゃったか?」
「え?……あーえっと、その……!」
「何で詰まるんじゃ」
「仁王、桜華の事虐めちゃだめだよ」
「別に虐めてるわけじゃなか。……気になっただけじゃ」
仁王は訝しげに幸村と桜華を交互に見やる。
桜華は恥ずかしいのか、幸村の服を軽く握って助けを求めていた。
幸村はそんな彼女の行動に「分かった分かった」と言って彼女の頭を軽く撫でると、仁王に微笑み言った。
それは思ってこそいれど、彼にとって一番聞きたくなかった言葉。
「俺と桜華、付き合う事になったんだ」
「は……?」
「やはりな……その確率は99%だった。桜華が精市を名前で呼んでいる点でほぼ確定していたのだが」
「やっぱり蓮二は気付いてたんだね」
「見くびられては困るな。……それに、甘ったるい雰囲気が駄々漏れだ」
「えっ!蓮二気付いてたの……!?」
「見ていたらすぐ分かる」
柳の微笑みにまた顔が赤くなる桜華。
こちらから言う前に気付かれているのは何とも恥ずかしいと、彼女は思わず幸村の背中に隠れる。
その行動にくすくすと笑う幸村。
三人の会話を聞いていた仁王は、ぐっと手を握った。
まさかと思って聞いた質問が、自分の思っていた最悪の答えで返ってきたのがかなり堪えているらしい。
その向こうでブン太のケーキを食べる手も止まっている。
彼にもばっちりと聞こえていたらしく、あまりのショックでケーキどころではなくなってしまったのだ。
危うくフォークが落ちる所を寸でのところでジャッカルがキャッチした事にさえブン太は気付いていない。
それ程までの衝撃。
暫く動きが停止していたが、ようやく我に返ったブン太は「ちょっと待って!」と幸村に詰め寄る。
「どどどど、どういう事だよ幸村君!」
「どういう事って、そのままの意味だよ。さっき桜華に好きって言われてね。俺も桜華の事ずっと好きだったから、その想いを伝えただけだよ」
「本当なのか桜華!?」
「え!?……うん、本当だよ?さっきそういう事になって……その……(恥ずかしいっ……)」
「!」
「そう言う事だから……ブン太、もう桜華に手を出しちゃだめだよ?」
「(出せる訳ねえ……けど諦められねえ……!ああ、ショック過ぎる……)」
「そこで固まってる仁王も、ね……?」
「……それは、約束出来んのお?俺かて負けんよ幸村。覚悟しときんしゃい」
「雅治……?」
「へえ……まあ、桜華の事は絶対に渡さないけどね。桜華は俺だけの彼女だから」
「(この争いは何!?)」
幸村の自信に満ちた笑みに少し怯むも、仁王はふっと笑い返した。
見えない火花が彼等の間で散っている。
桜華は争いが起こっている事に気付きこそすれど、まるで考えは追いついていない。
何気に真田や柳生もショックを受けているらしく、それぞれがそれぞれの態度でその感情を表していた。
その後時間はあっという間に過ぎ、ぱっと時計を見ると時計は十九時。
時間が遅い事と、そろそろ真田の家族が帰ってくるとの連絡があったとの事で、このクリスマスパーティは幕を閉じようとしていた。
「そう言えば真田、桜華のプレゼントって何だったの?」
「む?……そう言えばまだ開けてなかったな」
「いいよ弦一郎!後で開けてくれたら!」
「真田、見せてくれるよね?」
「桜華、開けてもいいか?幸村も見たいと言っているのだが……」
「うう……仕方ないなあ」
桜華は渋々了承すると、真田はこくりと頷いてゆっくりと包みを開いた。
中から出てきたのは、彼女が理央と頑張って選んだプレゼント。
「へえ、水筒か……」
「そんなものでごめんね弦一郎……あ、でも気に入ってくれると嬉しいな……!」
「何を言うか。丁度欲しいと思っていたところだ。感謝するぞ桜華」
「本当に!?えへへ、よかったあ……理央とね、頑張って選んだんだ!だからそう言ってもらえて嬉しい!理央にも伝えなきゃ!」
「そうか」
ふにゃっと表情を緩めた桜華に、真田は返事をしながらも顔を赤らめる。
それを見ていた幸村はごく自然の流れの様に彼女に声をかけた。
「今度、俺にも水筒選んでほしいな」
「え?精市も水筒欲しかったの?」
「(鈍感だなあ)ふふ、そうだね。だから今度一緒に買いに行ってくれるかな?デートついでに、ね?」
「デートっ……!(そっか、デートになるんだ……!)……うん、行こうねっ」
桜華はデートと言う響きに照れながらも、可愛らしく笑って答えた。
本当に鈍感だな……と幸村は改めて思いながら、それでも可愛いからいいかと思う。
それ程までに彼女の事が好きで、どんな桜華でも良くて。
その気持ちを込めて、彼女を優しく撫でた。
解散時は玄関まで真田の見送りがあり、各々帰路についた。
幸村は桜華を家まで送る事にし、二人は手を繋いでゆっくりと彼女の家に向かっていた。
帰り道が同じ方向の柳であったが、二人の邪魔をしないようにと「寄る所がある」と言って遠回りをしていくことにした。
勿論幸村は彼の気遣いに感づいており、心の中で感謝していた。
「あっ!」
「どうしたの突然?」
「精市にプレゼント渡さなきゃ……!うっかりしてた」
「ああ、そういえばあるって言ってたね」
「えっと……どこにあるかなあ」
繋いだ手を一度離してもらい、鞄の中を探る。
暗くて手元がよく見えないが、手に触れたその感覚に確信を持ちすっと取り出す。
綺麗にラッピングされたそれは、小さな小さな箱の様なもの。
何が入っているのだろうと幸村も気になって仕方ない様子だ。
「はい!」
「ふふ、ありがとう。凄く嬉しいよ……桜華からこうしてプレゼントを貰えるなんてね」
「あのね、びっくりしたんだけど……」
「?」
「私も、ネックレスなんだ中身……被っちゃったけど」
「本当?俺達思考が似てるんだねきっと」
「精市、そういうのつけるか分からないからどうしようかと思ったんだけど……理央もまあいいんじゃないって言ってくれて決めてみたの。……どう、かな……?」
「桜華から貰ったものを着けない訳ないでしょ?ああでも着けるのも勿体ないな。でも着けないのも勿体ないし……」
「そ、そんな勿体ないものではないよ!安物だし……!」
「値段の問題じゃないんだよ。……じゃあそうだな、桜華とデートする時とか皆で遊ぶ時に着けようかな」
そう言って嬉しそうにプレゼントを見つめる幸村。
早速包みを開けようとしたら桜華に「お、お家に帰ってから……!」と手を止められてしまった。
目の前で見られるのは少し恥ずかしいらしい。
その様子に幸村はくすっと笑う。
「分かった分かった、家に帰ってからゆっくり見させてもらうね?」
「気に入らなかったらごめんね……?」
「そんな事絶対にないから大丈夫だよ。だって俺の為に一生懸命選んでくれたんでしょ?」
「うん、それは勿論っ……!」
一生懸命選んだ自信はあるのか、勢いよく返事をする桜華が面白くて愛らしくて、幸村はそんな彼女の頭を軽く撫でてあげる。
すると、それに安心したのか頬の力を抜いて桜華は笑った。
「私も精市からも貰ったネックレス、デートの時とかは絶対に着けるっ!」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「えへへ」
「……本当に可愛過ぎるよ桜華は」
「え……?」
ちゅっ
周りに人がいない事を確認してから、幸村は桜華の薄く開いた唇にキスをする。
その行動に一気に彼女の表情が硬くなるのが分かって、幸村は苦笑した。
桜華は顔を赤くし目を見開いたまま、真っ直ぐに幸村を見るしかなかった。
「キス、嫌い……?」
「きっ、嫌いじゃないけど……!」
「けど?」
「慣れないから、その……どきどきして止まらなくて……っ」
「(俺も凄く緊張してるんだけどね)そういう表情されると、もう一回したくなっちゃうな」
「だ、駄目だよ!ここ道端だもん誰かに見られたらっ……!」
「ふふ、人に見られなかったらいいの?」
「もう!お外は禁止!」
「はいはい」
ぷくっと頬を膨らましている彼女の手を再び取って指を絡める。
未だにキスの件に関して照れながら怒っている桜華も、彼のその手の温かさに段々と落ち着きを取り戻した。
そのまままた彼女の家へと向かって歩き出す。
明日の部活の話、少し先のお正月の話。
他愛のない話でも、二人にとっては楽しくて仕方なかった。
「そういえば」
「ん?」
「昨日、蓮二が家に来てくれたんだけど……」
「ああ、そう言えばお見舞いに行くって言ってたね。その時何かあったの?」
「蓮二が、精市は最近嬉しそうに桜華の事ばかり俺に話してくるぞって言ってて……それ本当?」
「蓮二がそんな事を?そうだな……うん、間違ってはないよ。」
「そうだったんだ……何か恥ずかしいなあ。……でも、それを聞いて何だか嬉しくて元気出たんだ!」
「桜華が元気になれたならよかった。蓮二にお礼を言わないとね」
一瞬「蓮二の奴何恥ずかしい事言ってんの」と、後でこの件を問い詰めてやろうかと思ったが、桜華の可愛い笑顔を見たらそんな事はどうでもよくなって。
幸村は彼女の元気が出たならそれでいい、むしろ良くやったと逆に柳を褒めてやりたい気持ちになった。
そんな事を思っているうちに、目と鼻の先に彼女の家が見えた。
桜華が「ここで大丈夫だよ」と言ったが、幸村は「すぐそこでも何があるか分からないからね」と言って結局は門の前まで送った……彼女の事となると心配性なのだ。
「ここまでありがとう!ごめんね、精市の帰りが遅くなっちゃった……」
「大丈夫だよ、俺は男だし気にしないで?桜華の彼氏として当然の事をしたまでだよ」
「改めて精市に彼氏って言われると少し照れくさいなあ」
「ふふ、これからよろしくね……?ずっと、一緒にいようね」
「うん……こちらこそ、よろしくお願いします」
「来年のクリスマスイブも一緒に過ごそう?まだまだ先の話だけど、この先の桜華のクリスマスイブは俺が予約しておくからね」
「じゃあ、精市の事も私が予約しておく……!」
「桜華に予約されたらもう絶対に予定は入れられないな。入れるつもりもないけど。何たって俺達の記念日だからね」
幸村は愛しさを込めて桜華の頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
それを見て、同じように目を細めて笑う幸村。
真冬の空の下、そこだけがふんわりと温かい雰囲気を醸し出していた。
時間的にはほんの少しだったのかもしれない。
だけれど彼等にはとても長く感じられた甘い甘いこの瞬間。
ずっと堪能していたい気持ちも勿論あったが、この冬の寒さは容赦なく体温を奪っていく。
このままでは風邪をひいてしまうと思い、幸村は優しく、そっと桜華を促した。
「……ほら桜華、身体冷えるからそろそろ中に入った方がいいよ」
「あ、そうだね。精市も早く帰らなきゃだしね……!」
「明日は部活があるからね、風邪はひいてられないし」
「うん!明日からも頑張ろうね!」
「お風呂に入ってゆっくり温まるんだよ?それで、明日も元気で会おうね。おやすみ桜華。……好きだよ」
「おやすみ精市……私も、好き……」
桜華の返事を聞いた後、幸村はそっと彼女の額にキスをした。
それにまたぽっと顔を赤くするのを見ると、幸村は今日何度目か分からない笑みを浮かべた。
「じゃあね、桜華」
「うん!帰り道気をつけてね!」
「ふふ、ありがとう」
「ばいばい!」
幸村が歩き出すと、桜華は彼の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
幸村もたまに振り返り手を振り返す。
別れる時まで甘い雰囲気で、彼女はこれ以上ない幸せと、これ以上ない恥ずかしさで心を満たしていた。
(本当に幸村君……じゃなかった精市と付き合ってるんだ。どうしよう今更だけどかなり恥ずかしいっ……!)
一人できゃーっと言いながら、桜華はようやくと慌ただしく家の中に入って行った。
一方家に帰った幸村は、待ちわびたかの様に桜華から貰ったプレゼントの包装を開けていた。
中に入っていたのは、シルバーの小さなリングが通っているシンプルなネックレス。
普段つけていても全然邪魔にならないような、本当にシンプルなものだった。
「桜華が俺の為に一生懸命選んでくれたんだよね……」
幸村はそれを持ちながらベッドに寝転がると、愛おしそうに見つめた。
片手でリングを弄ったり色んな角度から見て見たりと、一通り堪能すると再び起き上がりネックレスを身に着けた。
着けた感じはどんなものかと、鏡を使って確かめてみる。
「うん、なかなかいいんじゃないかな。シンプルだし何でも合いそうだ」
我ながら似合っているなんて彼は思いながら、頭の中では桜華の事を想い浮かべていた。
「桜華……」
そうして愛しい彼女の名前を呼びながら、ネックレスについているリングにそっと軽く口付けた。
彼女への愛を込めて。
(これからもずっと大好きだよ桜華)
(精市から貰ったネックレス……早くデートの時に着けてみたいなあ)
あとがき
修正点がいくつかあったので、元とは違う話の流れになった部分もあります。
やっと付き合う事が出来て、一緒に手を繋いで帰る。
どれだけ幸せかと思いますよね。青春っていいなという気持ちです。
幸村君の選んだネックレスすごいセンス良さそうだなと。