30 だって気になるから




桜華と幸村が無事に合流し、デートをスタートさせたその一方。
二人の様子を陰からこそっと見ていた人影達が、彼等が行動するのに合わせて何やらごそごそと動き始めた。


「やっと桜華来た!……いよいよデートが始まるんだな!わーやっぱ幸村君ずりい……俺も桜華と……はあ……」

「おいブン太、あんまり大声出すなよ……ばれるだろ」

「うっせージャッカル!これが声を出さずにいられるかっての!」

「(心配だ……)」

「二人はどこに行くんかのお……参謀、データではどうなっとるんじゃ」

「そうだな。まずは映画を観に行き、その後カフェに行きお茶をする……と言うのが俺の見解だな」

「ほお……ならまずは映画じゃな。参謀のデータが外れる事ないしの」

「今は恋愛ものからアニメまで何でもやっていますしね……まあお二人が何を観るかは分かりませんが」


柳生が眼鏡をくいっと上げながら言う。
その言葉に、「精市の事だ、先日公開が始まった動物ものだろうな」と自信満々な柳。
するとそれを聞いていた、一歩後ろにいた真田が不安そうに声をかけた。


「……蓮二」

「何だ弦一郎」

「何故俺まで後を追わねばならんのだ……正直あまり興味がないんだが」

「いざ精市にばれた場合の予防線だ(まあこの調子だと確実に精市にはばれるだろうがな)」

「どういう意味だ……」

「そのままの意味だが?一度で把握してくれ」

「(俺に犠牲になれと言うのか蓮二……!)」


特に興味のない自分が呼ばれた理由を知り、がっくりと肩を落とす真田。
どうせそんな事だろうと踏んではいたものの、いざ面と向かって言われると結構ショックだったりするらしい。
何かあった際には、自分が犠牲にならなければならない……その事実に真田はぽつりと心の中で一言。


(何もない事を願う……)


そう呟いて、被っているキャップを深く被りなおした。




その頃桜華と幸村は、柳の予想通り映画館へと向かっていた。
ここは近所でも特に栄えている場所のため、シネコンやゲームセンター、ボーリング場など、娯楽施設が充実している若者のデートにはうってつけの場所なのだ。
その中でも幸村はゆっくり出来たらと思い映画を選んだ。
彼自身が現在公開されている映画の中に観たいものがあったと言うのも理由の一つであるが。


「映画なんて久しぶりだよ!今日は何を観るの?」

「最近公開されたばかりの動物ものの映画があって、それなんかどうかなって思ったんだけど……桜華はそれでもいいかな?」

「あ、それCM見た事あるよ!私も少し気になってたんだよね、絶対泣けるってテレビでも言ってたし……!」

「ふふ、そうなんだ?」

「うん!動物大好きだから見たいなって思ってたの。だからそれがいいかも!」

「よかった、そう言って貰えて。……あ、ここだね。ちょっと待ってて?」


そう言うと幸村は桜華を置いて少し離れた場所に行ってしまった。
暇なので売店のポップコーンを見て美味しそうだなあ……と思いながら彼が戻ってくるのを暫く待っていると、幸村が手に何かを持って戻ってきた。


「はいチケット。これから始る回のが取れたから、入ろう?」

「ありがとう!あ、お金払うね!映画っていくらだったっけ?」

「お金?そんなの良いよ、元々貰うつもりなんてないし」

「良くないよー!そんな安いものじゃないはずだし……」

「俺は桜華の彼氏でしょ?……こういう時くらい、彼氏らしい事させて……?」


幸村に顔を近付けられ真剣な目で言われると、桜華はそれ以上何も言えなくなった。
しかし黙っているのもまた違う気がして、彼女は照れながらありがとうと彼に笑顔を向けた。
桜華の可愛らしい笑顔に満足したのか同じ様に笑顔を湛えると、彼女の手を握り劇場の中へと入って行く幸村。
二人はそれだけでもこの上ない幸せを感じていた。


「参謀の読みは当たったの……流石じゃ」

「俺のデータを甘く見られては困るな」


仁王が自分を褒めた事に、柳は珍しい事もあるものだなと思いつつも得意げに相槌を打つ。
柳の的中ぶりに柳生も小さく拍手しながら褒めた。


「いえいえ、本当に見事な的中ぶりです。……もしかして私達も入るのですか?」

「何言ってんだよ比呂士!入るに決まってんだろぃ!俺も映画観る!」

「入るのはいいけどよ、ブン太お前金持ってんのかよ」

「……あ」

「はあ、やっぱりな」

「悪いジャッカル、貸してくれぃ」

「絶対返せよ」

「分かってるって!」


ブン太の後先考えない行動にジャッカルは頭を抱えた。
いつもの事だが、もう少ししっかりしろよと心の中で呟く。
そんな彼を放っておけない自分も自分だと思いつつであるが。
真田は「動物ものだと……?」と何かそわそわしており、その姿を見た柳に「気持ち悪いぞ弦一郎」とさらりと言われてしまい静かに一人落ち込むのだった。



「何か久し振りの映画だからどきどきしてきた!」

「どきどきしてきたの?可愛いね?」

「か、可愛くなんかないよ!(精市手が、手が……!)」

「可愛い可愛い。って、どうしたの?何か言いたげだけど……(桜華の言いたい事くらい分かってるけどね)」

「あの、映画観る間ずっと手を握ってるの……?」

「うん、俺は握ってたいな。だめかな?折角のデートなんだし、ずっと桜華に触れてたいんだけど」

「!(絶対映画に集中出来ない気がする……!)」

「(桜華の顔はすぐに赤くなるなあ……。まあそこも可愛いんだけど。……桜華は何をしていても可愛い、うん)」


席に座って映画が上演されるのを今かと待っている桜華と幸村。
ここに来る前に売店でポップコーンと飲み物を購入し、準備は万端だ。
ポップコーンに関しては、桜華があまりにも食べたそうに見ていたものだから、幸村が笑いながら購入したものだ。
恥ずかしさでわたわたと慌てた桜華であったが、「大きいのを買ったから、一緒に食べようね」と言われてしまうと照れながらもこくりと頷くしかなかった。
何だかんだ彼女も嬉しかったのだ。


その二人の後方……この劇場の中では一番後ろの席にあたる場所。
後を追って劇場に入った六人は彼等が売店に立ち寄った隙に先回りし、席に着いていた。
そこでこそこそと小声で話すメンバー達。
勿論、二人に気付かれないように細心の注意を払いながら。


「あー二人何してんだよ、ここからじゃ見えねえ……!って言うかポップコーンずりぃ……!」

「おいブン太座れよ、あぶねーだろ」

「……精市の事だ、確実に手を繋いでいるだろうな」

「なっ……!映画中にも繋いでる気かよ!」

「ほお、幸村らしいのお……。大方、『ずっと桜華に触れていたいんだ……』とか言うたんじゃろうな」

「仁王君、幸村君のまねがやけにお上手ですね。あと君もちゃんと座りなさい」

「ピヨ」


自由人二人が一番後ろの席だと言う事をいい事に立ち上がっている。
ジャッカルと柳生が座れと促すが、興奮しているブン太と楽しんでいる仁王はその言葉を軽くスルーしていた。
その様子に優等生真田がとうとう我慢出来なくなってきたらしく、わなわなと震え始めた。
それに気付くも、あえて何も言わない柳。
彼にとってはばれようがばれまいが正直どちらでも構わないのだ。


(ばれない訳がないしな、そもそもを見ても)


そして。


「お前ら座「シッー!!」むぐっ……!」

「静かにしろぃ!」

「あほなんか真田、おまんばれるじゃろ」


後ろが何やら騒がしい。
桜華は不思議に思って隣にいる彼に尋ねた。


「どうしたんだろうね?後ろの人大丈夫かな……?」

「楽しみでちょっと興奮してるんじゃないかな」

「そっかあ……余程動物が好きなんだねきっと!」

「きっとそうなんだと思うよ(いい度胸だね真田、それに皆もね)」


突如として叫び出した真田の口をブン太が必死に塞ぐ。
しかし当たり前の様に声は前の方にもしっかりと届いていたらしく、気になった桜華が振り返る。
六人は慌てて姿を隠す様に縮こまったが、姿を見せないだけではもう意味がなかった。
桜華にではなく、幸村にとっては。


「ば、ばれたでしょうか……?」

「大丈夫じゃろ、多分……桜華の事じゃし」

「……(精市には既にばれていたみたいだがな)」

「はふぁふぇ……っ!(離せ……!)」

「うっせえ真田!あーやべえ焦ったあ」

「はあ……(もう帰りてえ……)」


柳の言う通り、最初の時点で幸村は既に彼等の行動に気付いていた。
あれだけの大人数で追ってくるのだ、気付かない方がおかしいだろうというのはこの際無視する事にする。
しかしどこまで着いてくるか少し気になったので、あえて泳がしておく事にしたのだ。
だが、桜華との楽しいデートを邪魔される事は彼にとって不愉快以外の何物でもなく、幸村は頭の中で彼等をテニスでぎたぎたに負かすと言う恐ろしい事を考えていた。


(とにかく桜華には絶対にばれないようにしたいな……)


幸村はにこっと笑って桜華を見つめる。
彼女は彼のその表情に一瞬きょとんとするが、笑いかけられるのは嬉しく、それに返事をする様に笑い返した。

そうしている内に辺りが暗くなり、映画が始まった。
始めほのぼのとしたシーンから始まり暫くそのまま進んでいったが、終盤にはやはり動物物の定番であろう感動するシーンがあり観客の涙を誘った。
幸村は隣から聞こえてくる小さな嗚咽にチラっと顔を横に向ける。


「(やっぱり泣いてる……暗いのが残念だな。泣いてる桜華も可愛いのにちゃんと見られないなんて)」

「っ、ぅ……」


涙を流しながらスクリーンで繰り広げられている感動のシーンに釘付けになっている桜華。
そんな彼女の様子を見て、本当に可愛いなあ……と幸村は声を漏らさないように一人微笑むと、繋いでいた手をゆっくりと放し、その手を彼女の頭に回して軽く自分に引き寄せた。
いきなりの事に驚いた桜華だったが、幸村の肩に頭を乗せていると何だか安心してしまい、結局は拒む事はせずにそのまま映画を見続けた。

そんな中後ろから聞こえてくる知った声での嗚咽に、幸村は彼女の頭を撫でながら眉間に皺を寄せた。


(あいつら、全く……)




「あーもうすっごくよかったね映画!いっぱい感動しちゃった……!」

「ふふ、最後の方桜華ずっと泣きっぱなしだったもんね?」

「だ、だってあそこであの展開はずるいよ……!分かってても泣いちゃう……!」

「ちゃんとは見られなかったけど、泣いてる桜華の顔俺は好きだよ。ああ、悲しいとか辛いとかで泣いてるのは別だけどね」

「!」


恥ずかしいからと言う桜華は頬をほのかに赤く染めていた。
いつまで経っても甘い言葉に慣れない彼女に、幸村はますます可愛いと思った。
そんな二人の微笑ましい光景を見ていた大学生位のカップルが指を差し「あの子達可愛いね」と言っているのに、桜華は更に顔を赤くして恥ずかしがっていたのだった。


「ほら桜華、そんな顔してると食べちゃうよ?」

「食べちゃう……?」

「そう。桜華が可愛い顔ばっかりしてると俺が食べちゃうから」

「あ……お、美味しくないから駄目!」

「(本当に食べると思ってるのかな?)それはどうかな?俺には凄く美味しそうに見えるんだけど」

「い、痛くしちゃやだよ……」

「!?」


桜華の一言が衝撃的で幸村の動きが止まる。
顔を真っ赤に染めながら潤んだ目で自然になってしまう上目遣い……それがプラスされてますます意味を履き違えてしまいそうになる。
痛くしないで、このタイミングでのその言葉の意味を分かって言っているのか?いやそんなはずはないな……と、幸村は必死に考えを巡らせていた。
そんな彼の予想は当たり、勿論桜華は変な意味を含ませ言ったのではなく、食べる=噛みちぎられるという連想で言ったまでだ。
しかしどうしても衝撃が強過ぎたようで、幸村は顔を赤くした。


(この間の赤ちゃんの話といい、桜華のそういう所での天然って本当に危ない)


彼が突然何も言わなくなった事を不思議に思った桜華は、首を傾げながら声をかける。


「精市……?」

「え?ああ、ごめんね黙っちゃって。大丈夫、何でもないよ。……あ、そうだケーキでも食べに行こうか?」

「(本当に大丈夫なのかな?)うん!ケーキ食べに行こう!」


一瞬幸村の表情に不思議に思ったものの、ケーキと言う言葉に反応し桜華は嬉しそうに頷いた。
幸村もあまり詮索されなかった事にほっとしたのか、何とか平常心を取り戻して「行こう?」と彼女の手を引いた。


一方その頃。


「おい今からケーキだってよ!俺達も行こうぜぃ!」

「ブン太はまーた太りに行くんか」

「ケーキくらいテニスで消費するから問題ねーの!」

「っ……」

「……弦一郎、いい加減気持ち悪いのでその涙を拭いてくれないか……ふっ(いけない笑いが抑えられない)」

「っ、感動したのだ……」

「はは……(まさか真田が動物映画で泣くなんてな……)」

「真田君、良ければ私のハンカチをどうぞ」

「すまない柳生……」


同じく映画館から出た一行。
片や桜華と幸村の次の目的地について話したり、片やまさかの涙を流す真田の相手をしたりと様々。
柳に至っては、どうしても真田が動物ものに弱いと言うのがツボだったらしく、厳しくツッコミを入れながらも吹き出すのを抑えられない様子。
ジャッカルは真田の涙に動揺しつつも、もうどうにでもなれと諦めの笑いを漏らしていた。

傍から見るとかなり怪しいこの一行。
幼さは残るが、この場にいる誰よりも整った顔をしているこの集まりはやはり目立つらしい。
周りの人達もちらちらと彼等を見ては何かを話している様子だ。
そんな事とは露知らず、ブン太は「ケーキケーキ!」と一人はしゃいでいたのだった。





「ケーキ美味しいね!前のタルトも美味しかったけど、このガトーショコラも美味しい!」

「ここのケーキも美味しいって評判だったから来てみたかったんだ。桜華の口に合ってよかったよ」

「精市って何でも知ってるよね、すごいなあ」

「ふふ、そんな事ないよ(この日のために調べたって言うのは内緒だけどね)」


二人は映画館からさほど遠くないカフェに来ていた。
窓側の席に向かい合わせに座り、桜華はガトーショコラを、幸村は少しお腹が空いていたためとりあえず軽食にとサンドイッチを頼んだ。
バレンタインの時もそうだったが、幸村は彼女の満足そうな表情を見て、やっぱり食べている時すっごく幸せそうだな……と小さく微笑んだ。

そんな中、桜華はケーキを小さく切りすっとフォークに差した。
そのまま自分の口に運ぶのかと思いきや、幸村の予想は外れた。


「はい、精市……あーん」

「え、桜華?それは俺にくれるって事?」

「……いらない?」

「そ、そんな事ないよ!と言うか、いらない訳ないじゃないか!むしろ嬉しくて仕方ないよ!」

「本当?えへへ、よかった!じゃあ、はいどうぞ」

「うん……(どうしよう何かもう幸せで死んじゃいそうってこういう事だよねきっと)」


幸村は内心照れながらもケーキを口に含むと、ちょっぴり苦みを含んだチョコの味と目の前にある桜華の笑顔にすっと癒されるのを感じた。
何で彼女はこんなに可愛くて俺を惹きつけて離さないんだろうか……幸村は心底思った。
その時は後ろからつけてきていた仲間たちの事を忘れそうになったが、入口の方から聞こえる声にあっという間に現実に引き戻される。


「ケーキ!」

「……あれ?この声ブン「そんな訳ないじゃないか桜華。気のせいだよ」……そうかなあ?」


明らかに特徴的なブン太の声だが、幸村は軽く平静を装って否定した。
その、人の考えを断ち切らせるかの様な答えに、桜華は頭に?を浮かべたが特別気にするような事ではないと思いそれ以上は何も考えない事にした。
幸村は、桜華を入口の見えない場所に座らせておいてよかった……と思うと同時に、ブン太覚悟してなよと本人が聞いたら震え上がってしまうであろう制裁を考えていた。
それは勿論の事、テニスでの話。
その瞬間、今まで意気揚々としていたブン太の背筋にあり得ないほどの寒気が走ったとか。


「ブン太、ばれるじゃろ。さっきの真田と同じじゃよやっとる事」

「んーんっ!」

「……既にばれているとは思うがな」

「……ですよね。こんな目立っている中であの幸村君が気付いていない訳ありませんよ」

「そうなのか……!そうか、幸村にはばれているのか……」

「むしろあの幸村にばれてないとでも思ってたのかよ真田」


柳生と柳の呆れた溜め息に、何故だか一番どっと疲れている真田もつられて溜め息をついた。
現時点でばれているとしても後には引けないというブン太の強がりで、とりあえず一行は桜華からは死角となっているであろう席に着いた。
座って早々ブン太は店員を呼び、先程大きな声を出した事を反省したのか「ショートケーキとフルーツケーキ、あとはこのタルトもシクヨロ」と小声で注文していた。
その量に、隣に座ったジャッカルが「お前金……」と言いかけやめた。
どうせ自分が払わなければいけないのだという諦めを見せたジャッカルに、柳生が「半分出します」とそっと肩を叩いたのだった。


一行がそんなやり取りをしているうちに、桜華と幸村はゆったりとしたカフェでのひと時を終え、店を出ようとしていた。
幸村は当たり前の様にこの場も払うと言ったが、「さっきも払ってもらったもん!」と彼女も払うと聞かなかったため、諦めた幸村は「じゃあこれだけ」と言って彼女の手の平から百円玉を手に取った。


「百円だけって……そんな、やっぱり申し訳ないよ」

「彼氏らしい事させてほしいんだ、初めてのちゃんとしたデートだしね?」

「でも……」

「お金の事は気にしなくていいから、ね……?そんな事よりも、桜華が満足してくれていれば俺はそれでいいんだから。そっちの方が嬉しいよ?」

「満足してない訳ないよ!……ありがとう、精市。ご馳走様です」

「ふふ、どういたしまして」


代金も払い終えた二人は再び手を繋ぎ直し、店を出ようとする。
その事態にブン太が運ばれてきたケーキを凄い勢いで食べていると、一行の周りの空気が急に冷えたのが分かった。
原因は勿論一つ。


「「「(幸村……!)」」」


桜華に気付かれない様に彼等のいる方を向き、冷たい笑みを湛えている幸村。
その微笑みに全員は息をするのを一瞬忘れた。
柳は「やはりばれていたか……」と何かをメモしており、柳生は「後が怖いですね……」とこの後に起こる幸村からの制裁に恐怖していた。
真田は小刻みに震えており、流石のブン太さえもケーキを食べる手を止めていた。

各々の様子を見た幸村は、静かに口を開く。
口パクで声には出していないが、彼の一言はその場にいた一人を恐怖のどん底に落とすには十分だった。


「さ な だ か く ご し て て ね」


声に出されるより数段怖いと、真田は尋常じゃない程の冷や汗をかいたとか。


「精市?どうしたの?」

「ううんなんでもないよ。さ、次行こうか(本当に覚えてなよ……)」

「うん!」


桜華に声をかけられ、幸村は仲間達に向けていた冷たい笑みから優しい笑みへと一瞬で変化させた。
そして「ちょっとお店でも見て回ろうか」と言いながら店を出た。

二人のデートはまだまだ続きます。



(れ、蓮二俺はどうしたら……!)
(短い付き合いだったな)
(見捨てるのか!元はと言えばお前達が……!)
(おいブン太、何喉詰まらせてんだよ!)
(おま、大丈夫か!水飲みんしゃい!)
(むっ、むぐぐ……!)
(これから私達はどうなるのでしょうか……はあ、全く私達は何をしているのでしょうか)

(精市、さっきからたまに後ろ振り返ってるけど何かあるの?)
(何にもないよ?まあ、周りには気をつけなきゃね、色々と)
(流石精市だね!頼りになるなあ)
((まだ追ってくるだろうな……まあいいか))






あとがき

真田が動物もの映画で泣く姿あまり想像出来ませんが、一年生の頃ならまだありかなと。
ブン太は最初ケーキを食べ過ぎだったので、少し減らしました。
次でデートは終わりです。