4 いっぱい教えてもらったから




桜華達がテニス部に入部してから早くも一ヶ月以上が経った。
この間に桜華はようやく仕事にも慣れ、一覧表を見なくても粗方の仕事が出来る様になっていた。
幸村達も順調に練習をこなしており、近々始まる地区大会からはレギュラーとして試合に出してもらえるらしい。
一年生ではあるが、幸村、真田、柳の実力はやはり群を抜いており、この三人が試合に出る事に誰も異議を唱えようとはしなかった。
しかしその前に、彼らにとっても、そして桜華にとっても初めて体験する事となるある期間が近付いていた。


「桜華、丸井、仁王。そろそろ中間考査の時期だという事は知っているだろうな?」


昼休み。
いつの間にか屋上で八人でご飯を食べる事が当たり前になっていた頃。
この日は、柳のその一言から会話が始まった。
問いかけられた三人は、何故か皆そっぽを向き、まるで彼の言葉が聞こえなかったかの様に無言でご飯を食べ進めていた。


「そういえば、そろそろだよね。まあ、普段復習しているから大丈夫だと思うけど」

「無論だ。復習さえしていれば試験など造作もないわ」

「幸村君と真田君の言う通りですね。私も特に心配していることはありません」


見るからに優等生の幸村達は、試験に対して何も気にしていない様だった。
その会話を聞いていた、今まで口を噤んでいたブン太が咄嗟に作り笑いを浮かべたかと思えば、ははっと乾いた声を出して笑った。


「まあまあ、そんなこといーじゃんいーじゃん!折角の美味いご飯が不味くなっちまうぜ!」

「……そうじゃの。ほれ、おまんらもはよお食べんしゃい」

「そうだよ!蓮二も、変な事言わないのまったくー!」


ブン太に続いて、仁王と桜華も作り笑いを浮かべて慌てた様に言葉を発した。
しかし柳は全く引かずに、うっすらと開眼し三人に言及した。


「立海テニス部では、赤点を二つ以上取った者は一週間練習に参加出来ないらしい。勿論マネージャーも例外はない」

「なっ……本当かよ柳!」

「こんな事で嘘をついてどうする。寧ろ知らなかったのか」


柳の言葉に、ブン太は目を見開き勢いあまって立ち上がっていた。
普段通り飄々としている様に見えて実はとても驚いているのは仁王。
そして、誰よりも驚いていたのは桜華だった。
彼女は驚きのあまり声も出なかったらしい。


「……丸井や仁王の学力はほぼ勘だが、桜華、お前は相当危ないだろう」

「蓮二、湊さんってそんなに勉強出来ないのかい?そんな感じではなさそうだけど……」

「勉強はそこそこと言うところだ。……あと、桜華はあり得ないくらいに本番に弱い」


そう言うと、すっと視線を桜華に向けた。
それに耐えられないのか、彼女は少し俯いて何も話さない。


「桜華が正直、筆記試験重視の立海に入れたのも奇跡だ。よく試験をきちんと受けられたものだ」

「うう……受験の時は頑張ったんだよ!受かりたくて必死だったんだから!」

「ほお……」

「(う……蓮二が開眼してる!怖い……!)」


黙っていた桜華はようやく口を開いた。
どうやら、柳が言っている事は事実のようだ。
その事に反抗したところ、間近で柳の開眼を見てしまい少し怯える桜華。
それを聞いていた幸村は、「じゃあさ」と彼女に声をかけた。


「試験が始まる三日前からは部活も休みだし、俺が湊さんの勉強見てあげるよ」


そう言うと、幸村はにこっと笑いかけた。
しかし当の桜華は、頭にはてなマークを浮かべきょとんと首を傾げている。


「勉強はそこそこなんだったらそこをまずもっと出来るようにして、緊張で頭あんまり回らなくても答えられる位になればいいんだよ。だからとりあえず、テスト前の三日間は俺の家においで?一緒に勉強しよう」

「(ゆゆゆ、幸村くんと勉強……!?)」

「嫌かな……?」

「(そんな目で見られたら断れない!)わ、わかった!幸村君がそう言うなら、三日間よろしくね……?」

「うん、こちらこそよろしくね。湊さんの力になれる様に頑張るから(ふふ、やっぱり面白いな湊さん)」

「(果たして大丈夫だろうか……)」


幸村の突然の誘いに動揺する桜華。
その反応を見て面白がる幸村。
不安を感じる柳。

それぞれの反応がありつつ、楽しいお昼休みが過ぎて行くのだった。




そして時は過ぎ、試験三日前となった。
今日からは強制的に全部活活動停止なので、いつもは部活へ直行する人達も図書館へ行ったり、教室で友達と勉強したりと、それぞれ試験前らしい時間を過ごしていた。


「桜華、今日私の家で勉強しない?」


先生が教室を出て行った後理央はすっと立ち上がり、振り向いてそう言った。
桜華は少し困った様な、申し訳なさそうな顔をしてその問いに答える。


「理央、ごめん!今日から三日間、幸村君の家で勉強教えてもらう事になってるんだ」

「幸村と!?ちょっとそれどういう事!」

「悠樹さん落ち着いて。ただ一緒に勉強するだけだよ」

「……桜華に何かするつもりじゃないでしょうね?」

「何かって?ふふ、悠樹さん、変な事考えてない?」

「考えたくもなるわよ!可愛い桜華を一人、男の家に放りこむなんて……!しかもよりによって幸村の家だなんて……!」

「(変な事って!?)理央、大丈夫だから、ね?」


桜華は興奮している理央をまあまあと落ち着かせたが、理央は相変わらず納得のいかない顔をしている。
そんな理央を見ながら、幸村は微笑みを湛えつつ立ち上がった。


「そう言う訳だから、ごめんね悠樹さん。行こうか湊さん」

「う、うん!理央、また今度一緒に勉強しようね!今日はごめんね……!」

「分かったよー……。……幸村、桜華に何かしたら絶対ぜーったい、許さないからね!」

「そんな怖い顔してちゃ、折角の可愛い顔が台無しだよ?」

「はぐらかすなー!」


怒りと興奮を露わにしている理央を尻目に、幸村と桜華は教室を後にした。
そのまま二人は他愛もない話をしながら、一路幸村の家へと向かう。
電車に揺られ、着いた先はこの近所では有名な高級住宅街。
その中でも比較的新しめな、センスの良い白い家が幸村の自宅だった。
庭には色とりどりの花が咲き誇り、良い香りが漂ってくる。
レンガで出来た花壇の中はとても綺麗に整えられており、雑草一つ見当たらない。


「綺麗なお庭だね!お母さんがガーデニングされるの……?」

「それは俺がしてるんだよ。実はね、ガーデニングが趣味なんだ」

「幸村君が!?」

「うん。……やっぱりこういうの、男がするのって変かな?」


幸村は少し苦笑して尋ねた。
この容姿もあってか、幸村がガーデニングをしているという事を話すと大抵の人には「似合ってる」とか「幸村君らしいね」と言われてきた。
だがその言葉の裏には、男がガーデニングなんて、と言う少しの偏見とからかいがある事に幸村はずっと前から気付いていた。

桜華の事をどう思っているかと言えば、彼の認識上では今はまだ友達の域を出ていない。
彼女を信じていない訳ではないが、どうせ今までの奴らと同じ裏のある言葉を返してくるだろう。
幸村はそう思った。

しかし桜華は、ぶんぶんと音が聞こえてきそうな程首を振り、花が咲きそうな程の満面の笑みを幸村に向けた。
その笑顔にはっとする。
こんな反応は彼にとって初めてだった。


「そんな事ないよ!すっごく素敵だと思うよ!男とか女とか関係ないよ!だって、こんな綺麗な花を咲かせられるんだよ?本当にすごいよ……!尊敬する!」

「(湊さん……)」


思わぬ反応に幸村が戸惑っている中、桜華は続けた。


「ここに咲いてるお花を見てたら、幸村君の優しさとか、花が好きな気持ちとかがガーデニングをした事ない私なんかでもすごく分かるよ!お手入れも綺麗にされてて……こんなに大切にされて、お花さんは幸せだね、きっと!」


桜華の言葉には全く濁りがなく澄み切っていた。
彼自身聞いていて、とても偏見やからかいの気持ちがあるようには思えず。
彼女の心の底からの言葉だと、幸村は素直に感じていた。


(花が幸せだなんて、初めて言われたな……)


そして、その瞬間に抱いた小さな感情。


(俺は今……。……いや、気のせいか)


ゆっくりと小さく深呼吸をし平常心に戻った幸村は、花に見惚れている桜華に声をかけた。
もう少し花を見たそうにしていたが、今日の目的を忘れてはならない。
勉強をしに来たのだ。
「花はまた明日も明後日も見れるから」と、桜華を説得し、二人は幸村家に着いてから早三十分……ようやく家に入った。





「まずは何から始めようか?」

「幸村君は何でも得意そうだよね……!」

「得意って程ではないけど、とりあえず苦手な教科はないよ」

「(やっぱりすごい……!)えっと……じゃあ、数学からお願いします!理数系はどうも苦手で。本番じゃ公式とか出てこない事も多くて」

「分かった。じゃあ、数学から。……まずはこれを解いてみて?蓮二に貰ったんだけど、大体のテスト予想らしいよ」

「流石蓮二……!が、頑張ってみるね!」

「分からないところがあればすぐ聞いて?一緒に解いてみようね」

「ありがとう!」


桜華はにこっと幸村に笑いかけると、すぐにペンを取り問題に取り掛かった。
だが、その勢いはすぐになくなり、替わりに「うーん……」と唸り声が聞こえてきた。
どうやら、早速つまずいたらしい。
それに気付いた幸村はくすっと笑うと、何故か彼女の背後に回りそこから声をかける。


「湊さん、そこはyに5を代入して……」

「ひゃっ…幸村君!?(どうして後ろに!?)」

「ん?どうかした?」

「(みみみ、耳元……!息が……!)え、えっと……教えてくれてありがとう!」

「ふふ、唸る前にちゃんと聞いてね?」


幸村はまたくすっと笑うと、ずっと桜華の後ろから手元を見ていた。
かなり密着した態勢のため、桜華はなかなか勉強に集中出来ず顔を真っ赤にしてふるふると震えていた。
それに気付いた幸村は、それが可愛く見えて仕方なくて。


「(あ、震えてる。何か仔犬みたいで可愛いな……)」

「(どうしよう集中出来ない……!)ゆ、幸村君……?」

「何?」

「(あああ、やっぱり耳元……!)そのね、そこにいられるとちょっと集中出来ないかなーなんて……」

「ここが一番見やすいから離れる訳にはいかないかな?」


そう言う幸村はわざと耳元に口を近付けた。
その事により耳と顔を真っ赤にする桜華。
もはや勉強どころではない。
段々と恥ずかしさがピークになってきた桜華は、ここはちゃんと幸村の顔を見て言おうと思い、意を決して後ろを振り返った。


「幸村君!も、恥ずかしいからっ……っ!?」

「!?」


顔をわざと近付けていた幸村に向かって思い切り振りむいたため、その瞬間桜華と幸村の顔の距離は0になった。


「!?ゆゆゆ、ゆき、幸村君……!ごめんなさいわざとじゃなくてっ……!あのっ……!!」

「………湊さん、意外と大胆だね?流石にびっくりしたよ(柔らかかった……湊さんの唇。あれ?俺変態みたいかな)」 

「事故、事故だから幸村君っ……!(穴があったら入りたい……!)」

「そんなに否定しなくても……傷ついちゃうな、俺ファーストキスだったんだけど」

「え?あっ……ごめんなさい!……って、私もだ……」


あれ?何で謝ってるんだろうと疑問に思いながらも、桜華は先程より更に顔を真っ赤にして俯いた。
事故とは言えキスをしてしまった……しかもファーストキス。
これはもう勉強なんて出来る状態ではない。
中々上を向かない桜華に、幸村はゆっくりと彼女の頬に手を添え顔を上げさせた。  
恥ずかしさと気まずさからか、彼女の目はこれ程かという位潤んでいて、とても愛らしかった。


「(あ、すごく可愛い……)湊さんのファーストキス、もらっちゃったね?」

「あ……えと、その……私も幸村君の……」


幸村は柄にもなくドキドキしている自分に驚き、きっと自分の顔も赤いんだろうな……なんて呑気に考えていた。
顔を真っ赤にして、目を思い切り潤ませて、恥ずかしくてキスという単語すら言えなくなっている、そんな彼女が可愛すぎて食べてしまいたいなんて。


(中学一年生の考える事じゃないかな……)


結局この日は桜華がずっと真っ赤な顔でそわそわとしていて、勉強はほとんど出来なかった。
残りの二日も少し気まずかったが、何とか初日よりは平常心を取り戻し試験勉強に励んだ。
なんたって赤点二つで部活に一週間も出られないなんて、男子テニス部唯一のマネージャーがいなくなっては大変だ。
幸村もキスの事は一先ず置いておいて、桜華に勉強を教える事に集中した。
ただ、終始桜華の顔が真っ赤だったのは少し面白く、幸村はたまにくすくすと笑うのだった。


そして、いよいよ彼らにとって初めての中間考査当日を迎える。





「最初から数学なんてついてないなー」

「でも苦手な教科が最初に終われば、後が楽でしょ?湊さんにとっては最初が最大の山場だね」

「そうだよね……!うん、幸村君にも教えてもらったし、部活に出られないなんて事にならないように頑張らなきゃ!」

「うん、その意気だよ」


試験が始まる前の休み時間。
二人は試験勉強の最終チェックのために集まった。
理央にも声をかけたが、「本当にやばいから!」と言いながら一人黙々と勉強していたのでそっとしておく事にした。
彼女は一人の方が集中出来るのだろう。
二人は公式の復習や、柳に作ってもらった予想問題等を見直していた。
桜華も、幸村に丁寧に教えてもらったおかげで大分と理解出来ている様だった。
後は本番で緊張してもその実力を出せるかどうかだ。


「お、真面目に勉強してんな桜華!」

「幸村との勉強会どうじゃった?効果はあったんかのお?」

「ブン太に雅治!……って、二人とも勉強しなくていいの?あと10分で始まるよ?」

「俺たちは大丈夫だぜぃ!な、仁王」

「桜華が緊張して胃でも痛めてるんじゃないかと思って見に来たぜよ。大丈夫そうで何よりじゃ」


どこからその自信が湧いてくるのかが不思議でしかたなかったが、桜華は試験の直前に二人に会えてよかったと思った。
ブン太は底抜けの明るさがあり、試験前でもそれは変わらない。
仁王は不思議な所もあるが、本音はとても優しい。
ここに来る事を言いだしたのもきっと仁王だ。
それがどれほど桜華の励みになるか、きっと本人達が知る事はない。
桜華は頬を緩め二人に笑いかけた。


「ありがとうブン太、雅治。二人と話せてよかった!緊張も飛んでっちゃったよ」

「そうか?桜華の役に立てたなら何より!テスト、頑張れよな!」

「また終わったら来るきに、頑張りんしゃい。解答欄間違えるんじゃなかよ?」

「そんな事しないよ!ブン太と雅治も、頑張って!」

「おう!サンキュー。じゃあまたな!」

「……(俺は蚊帳の外?何か気に入らないな……)」


その様子を黙って見つめていた幸村は、心の中にもやもやとしたものが充満していくのを感じていた。
これが何なのかやはり分からない。
何が原因なのかも分からない。
でも、いいものでないことは確かで……初めて感じるこの感覚に幸村は正直戸惑っていた。
しかし二人が帰った後、自分だけに微笑みかけてくれる桜華を見るとその感覚も消えていく。
幸村はほっとした。


(今はまだわからなくていいや)


その後も少し勉強してから、予令のチャイムと共に自分の席に着いた。
桜華は、ブン太と仁王のおかげで先程の緊張が嘘のようになくなっていた。
ペンを持つ手も震えておらず、しっかりしている。
彼女は机の下でよしっと小さくガッツポーズをすると、ゆっくり深呼吸をした。


(幸村君に教えてもらったんだもん、いい点取らなきゃ!)


意気込んだ瞬間に本令のチャイムが鳴り、一斉に教室中が鉛筆独特の筆記音に満たされる。
桜華も気後れせずに丁寧に問題を解いていく。
たまに躓いて首を傾げている桜華の後姿を、完璧に試験問題を解いた幸村が見て微笑んでいるのには本人は全く気付いていない。


(頑張れ湊さん)


そして初日が終わり、二日目三日目と試験が進んでいき、あっという間に試験期間は終了した。
最後の試験終了のチャイムがなった瞬間、桜華は気が抜けたのかふにゃっと力を無くし机に突っ伏した。
試験が終わり周りが帰っていく中、桜華はすぐには顔を上げず突っ伏したままだった。


「湊さんお疲れ様。……どうだった?」

「幸村君、私……」

「?」


静かに言う桜華に、幸村は少しの不安を抱いた。
試験中はあえて聞かなかったが、もしかして駄目だったのかな……と彼女の出来を心配する。
そんな心配の中、彼女はゆっくりと顔を上げると幸村に向かって柔らかく微笑みかけた。
突然のその表情に、幸村はドキッとし、少し顔を赤らめる。


「出来たの!全教科!自分でも驚く位解けちゃって……!緊張も大丈夫だった!幸村君に教えてもらった所とか沢山出て、すっごく楽に出来たよ!幸村君なしじゃこんなの無理だった……本当にありがとう!」

「そっか、よかった。でも、たまに首を傾げている姿、すごく可愛かったよ?」

「えっ!見てたの幸村君!」

「うん、早く終わって暇だったから観察してたんだ」

「は、恥ずかしい……!(私を見てる余裕があるなんて流石だ……!)」


やっと試験が終わり、いつも通りの会話が出来るようになった事に幸村は些細な喜びを感じていた。
何故こんなにも桜華と話すのが楽しいのか、構いたくなるのか…試験が始まる前は知らなくていいと思っていたけれど、今は知りたいと思う気持ちが彼の中で強くなっていた。
そしてあのもやもやとしたものの正体も。
幸村が桜華に微笑みかけながらそんな事を考えていると、教室の外から良く知った賑やかな声が聞こえてきた。


「おーい!幸村君も桜華もテストお疲れさん!今日は部活もねえし、みんなで何か食いにいかね?勿論、ジャッカルの奢りで!」

「俺かよ!そんな金もってねーよ!」

「ジャッカル、遠慮せんでもよか」

「遠慮以前の問題だ!」

「まあまあ、皆さん落ち着いて」

「廊下で騒ぐな!たるんどる!」

「……そう言う弦一郎が一番煩いと思われている確立100%だ」

「みんな!わあわあ、食べに行くー!私ケーキがいいな!」

「おっ!乗った!桜華とは気が合うな!」


テニス部の仲間達が来た事が嬉しくて、桜華は笑顔になる。
試験期間中はあまり会えなかった事もあり、いつも以上にテンションが上がってしまう。
そして、楽し気に幸村に「行こう!」と言って笑いかけ、彼の腕を引いた。
その行動に先程同様ドキドキし、また顔を赤らめる幸村。


「(湊さんはこれが無意識だから怖いな……)」

「ん?幸村君……?」

「ああ、ごめんね、行こうか(だけどそんな所も湊さんらしくていいんだけどね)」

「うん!」


試験後に待っているのは素敵なデザート。




(幸村君は、どんなケーキが好き?)
(うーん、甘さはちょっと控えめな方がいいんだけど……)
(じゃあ、私も今日は甘さ控えめのにしようっと!)
(え?どうして?)
(だって私も甘さ控えめのケーキ頼めば、幸村君は二つのケーキが食べられるでしょ?)
(それって……)
(幸村君と一緒に食べたら、もっと美味しい気がするから!だから幸村君に私のケーキあげるんだ!)
((ああもう、何これ可愛い……。ケーキどころじゃないんだけど))



あとがき

この話はかなり修正しました。
ずっとずっと引っかかっていたお話です。
設定も少し変えました。