4 分からない
放課後。
幸村君に言われた通りに駅で彼を待っていた。
いつ来るのか何て分からないけど、来るまで待つしかない。
退屈を紛らわせるため、とりあえず携帯を弄る
「はあ……」
「携帯見て溜息つくなんてどうしたの?何かあった?」
「え?」
顔を上げると、知らないお兄さんが立っていて。
背は幸村君と変わらない位かな?顔は……何て、全部幸村君と比べてしまうあたり駄目だなあと思う。
それに比べた所で、幸村君以上何ていないのに。
そんなお兄さんは私の顔を見ながら続けた。
「お兄さんが話聞いてあげるよ?どう?気晴らしにはなると思うけど?君よりかは長く生きてるし」
「いや、大丈夫です……大した事じゃありませんから」
「いいじゃんいいじゃん!ね?聞いてあげるって言ってるんだからさ!」
「でも平気ですから。私、ここで人を待たなきゃいけないんで……」
そう言うもなおもしつこいお兄さん。
どうしたらいいものか。
この状況から助けてくれる人何か誰もいない。
私は面倒だなあと思いながら、適当に返事をしてやり過ごしていた。
「近くに美味しいケーキ置いてある所あるよ?奢ってあげるからさ〜」
「あそこのケーキなら親友と食べ尽くしたので大丈夫です(絶対ブン太といつも行くあそこだよね……この辺りで美味しいケーキって言えば)」
「えーじゃあ……」
「あの、彼女に何か用ですか?」
「!?」
お兄さんにばかり集中していたので気付かなかった。
幸村君はいきなり現れたかと思ったら、綺麗に微笑みながらお兄さんに近付きそう言った。
突然話しかけられたからか、お兄さんも少し驚いている。
「え?君誰……?」
「俺ですか?……桜華。俺は君の何だっけ?」
「えっ……?えっと、その……」
意地悪く聞いてくる幸村君。
何で今この状況でそんな事が聞けるのか。
それに私は何て答えればいいのか……知らないお兄さんにわざわざ、私はこの人と身体だけの関係、セフレです何て言えと言うのか。
そんな恥ずかしい事いくら何でも言える訳がない。
私が戸惑っていると、幸村君は痺れを切らしたのか溜息をついた。
そして何を思ったのか私の隣に来てあろう事か肩を抱き、言った。
「迷う事なんてないでしょ?俺は桜華の彼氏じゃないか」
「!?(何言ってるの幸村君……!)」
「は?なーんだ彼氏かよ……白けた」
お兄さんはつまらなさそうな顔をすると行ってしまった。
行ってくれたのはいいが、この状況での幸村君との二人きりは非常に気まずい。
ちらっと彼の方を見ると、ふっと笑っていてそれがまたムカつく位にかっこいい。
(何その楽しそうな顔……変なの)
私の視線に気付いたのか、肩を抱いたままの幸村君は次は悪い笑みを浮かべた。
ああ、もうこれはいつもの私が知っている方の幸村君だと思う。
「何ナンパされてるの」
「別に、幸村君を待ってたら声かけられただけで……」
「ふーん。桜華のくせに生意気だね」
「本当だよね、私みたいなブスに声かけるとか意味分からないよね。もっと可愛い子にすればいいのに」
「……」
私が投げやりに言ったその言葉が何か気に入らなかったのか、幸村君は黙ってしまった。
今日の幸村君は正直よく分からない。
だけどそんな事私が気にしたって仕方なくて。
それよりも、どうして今日はこう言う待ち合わせにしたのかの方が気になって彼に尋ねた。
「幸村君、何で今日……」
「……精市」
「え?」
「幸村君って呼ぶの、今は許さない」
「どうして……?だって名前で呼ぶのは……」
「そうだね、セックスの時だけだよね。……でも今は名前以外で呼ぶな。いいね」
「うん、分かった……(やっぱり変だ、幸村君)」
どうしてまたそんな事を言うのかも全く分からないし見当もつかない。
でも彼はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、早々に「行くよ」って無理矢理手を引っ張ってきた。
痛いけど、外で彼に触れられてるのがどこか嬉しくて。
自然ににやけてしまうのもやっぱり私が幸村君への恋心拗らせが末期症状である証拠だ。
すぐにやって来た電車に乗ったはいいけど、この沈黙はどうしたらいいんだろう。
余裕で椅子にも座れたけど、幸村君は何も言わずただ俯いてて。
声をかけようと思っても、何だかかけちゃいけない様なそんな雰囲気。
(辛い……)
一緒にいられるだけ嬉しいのは嬉しいけど、やっぱりちょっと辛くて。
溜息をつきそうになったその時、肩に重さを感じた。
「え……って、ゆ……精市!?」
「……少し寝る。着いたら起こして」
「それはいいけど、これは……!誰かに見られたら大変だよ!?勘違いされちゃうよ、まずいよ……」
「大丈夫だから。桜華本当いちいち煩い。……俺は今こうして寝たいだけ。大人しく枕にされててよ」
「う……」
幸村君は私の方に頭を預けて、そしてあっという間に寝てしまった。
何この状況?さっきの沈黙の方がよっぽどましだった……。
でも、すうすうと聞こえる寝息が可愛くて思わずくすっと笑ってしまった。
(何でこんな普通の恋人みたいな事してるの私達……幸村君の考えがまるで分らないや)
幸せだけど苦しくて。
本当にどうしたらいいか分からないよ幸村君。
私が本当に望む景色を見せてどうするの?
ただ私を苛めたいだけなのかな。
幸村君の藍色の髪をそっと撫でながら考える。
(……それならそれでもういいけど)
そう、これは全部私が望んだ事だ。
身体だけの関係なのも、言う事を何でも聞いているのも全部。
どんな事でも逆らう事なんて考えた事はなかったから。
もうそろそろ幸村君の家の最寄り駅に着く。
着く前に彼を起こさないと……。
「精市、もうすぐ駅に着くよ。起きて」
「ん……もう着くの。早いなあ」
「気持ち良さそうに寝てたね」
「何、ずっと見てたの?」
「え、いやそう言う訳じゃないけど……寝息がすうすうって聞こえてきてたから」
「……そう。ほら、降りるよ」
「わ、待って……!」
起こした瞬間にパッと起きて、そして私より先に降りようとする幸村君。
肩の重さがなくなったのが少し寂しい。
私はそんな事を考えながら急いで彼の後を追った。
駅からそう遠くない場所に彼の家はある。
この数か月ですっかり通い慣れてしまったこの場所。
来る度にいつもどきどきして……今日の彼の機嫌はどうかなとか、何をされるのかなとか、一人でそんな事ばかり考えてる。
だけど今日は隣に幸村君がいて……違う意味でどきどきしてる。
(やっぱりかっこいいんだもんなあ、幸村君は。はあ……)
心の中で小さく溜息をついてる間に彼の家に到着。
そこからは変わらない。
彼の部屋に行って、ただただ抱かれるだけ。
「桜華……」
「せ、いち……?」
「……今日は優しく抱いてあげようか」
「突然どうしたの……?(本当におかしい……)」
「何、嫌なの」
「嫌とかじゃないけど……でも、いいよ。いつもみたいに、してくれたら……」
「ふーん。桜華って何?マゾなの?」
「違うよ、違うけど……優しくなんかされたらきっと泣いちゃうからいい。だって優しくするのは恋人さんにだけでいいんだから……。私は幸村君の恋人じゃないから……」
「……」
そう私が言うと、何故か幸村君は辛そうな顔をして。
何で彼が辛そうにするんだろうって思ったけど、すぐに荒々しいキスをされたのでそんな事考える余裕がなくなっちゃった。
でも頭の片隅であの表情が忘れられなくて、抱かれながら悶々と考えていた。
(幸村君の考えてる事が全部分かれば楽なのになあ……)
叶いっこないそんな願いを、抱かれている間ずっと想っていた。
あとがき
ちょっとどうしようか迷いながらになってしまいました。
粗方決まってても、中間の話はだれそうになります……。
そろそろ話を進めたいところ。