5 二人の違い
「あっ、あっ……ぁ、やっ……」
「桜華っ……桜華っ……」
「はあ、んっ……ぁぁっ……せーいちっ……」
「くっ……」
セックスの最中、今日はやたらと名前を呼んでくる気がする。
こんなにも名前を呼ばれながらのセックスは初めてかもしれない。
何もかもがおかしい今日の幸村君。
ここまでしててもやっぱり彼の事がまるで分らなくて。
結局答えなんか出ないまま、彼に抱かれて快楽で身体だけが満たされるだけ。
「せい、いち……」
「はっ……エロい顔。そんなによかったの?まああれだけ声出してよがってたんだから気持ち良くない訳ないか」
「っ……恥ずかしいからそう言う事言わないで……」
「桜華のお願いを聞く義理はないよ」
そう言いながらも事後処理をしてくれる幸村君。
抱くのは荒々しいし、凄く意地悪だけど、それでもこう言う所は律儀で。
それに絶対に避妊はしてくれるし、それだけでも嬉しくて。
ちゃんとしてくれる所に、やっぱり私は何をされても嫌いにはなれなくて……むしろ、ああ、優しいなあ何て思ってしまう。
恋は盲目なんて言うけれど、あまりにも当てはまり過ぎる。
(……そう言えば)
突然今日一日を振り返った時に沸いた疑問。
それは自分では解決出来なくて、思わず幸村君に尋ねた。
「ねえ、どうして彼女さん二人共精市の事名前で呼んでないの……?付き合ってるのに何か不思議な感じだね?名前で呼んでほしくないの……?」
「……別に付き合ってるからって名前で呼ばなきゃいけない決まりなんてないでしょ」
「そうだけど……。でも、今私には精市って呼べって言ってるから。私は幸村君の彼女じゃないし、言っちゃえばあの子よりも幸村君の中の身分何てずっと下でしょ?だから変だなあって」
私の言葉に黙ってしまう幸村君。
いけない事を聞いてしまったのかもしれない……セックスが終わった後でよかった。
「……そんな事どうだっていいだろ。今日はもう帰ってくれないかな」
「(やっぱりいけない事だったかな……)うん、分かった……ごめんなさい、変な事聞いちゃって」
「……」
その後も幸村君は黙ったままで、結局一言も話さなかった。
帰り道でも考えたけど、全然答え何か見つからない。
今日は沢山の事を考えて考えてってしたけど、一つもちゃんとした答えは出なかった。
(ちょっと考えすぎて頭パンクしそう……今日はもう考えるの止めよう。どっちにしたって分からないんだから……)
私は幸村君に関する思考回路を一度停止させるかの様にすると、次には別の事を考えて気を紛らわせた。
「でね、昨日は何故か駅から一緒に家に行ったんだ……それに自分の事は名前で呼べって……変だよね」
「ふーん。何なんだろうな幸村君もさ。彼女二人もいるくせに」
「あ、二人いるのは知ってるんだブン太も」
「そりゃ、毎日顔合わせてたら自然に分かるって。それに思い切り噂になってるし……。……にしても、本当よく分かんねー」
「だよねえ……」
次の日のお昼休み。
ブン太といつもみたいにお弁当を食べながら昨日の事を話してみた。
彼にはもうばれてしまっているし、何でも相談してって言われたのに甘えている。
ブン太もちゃんと聞いてくれるし、私も安心して話してしまう。
「あ、その彼女さんなんだけど……何故か昨日見た時幸村君の事名字で呼んでて。前に朝教室で会った方の彼女さんも名字で呼んでたよね?それが気になって聞いたら不機嫌になっちゃって」
「え?桜華には名前で呼ばせてるのに、二人の彼女は名字呼びなの?彼女がそう呼びたいとかじゃなくて?」
「うーん……でもやっぱり彼氏の事って名前で呼びたくない?」
「そんなものか……いやでも確かに、自分に彼女出来たとしても名前で呼んでほしいし、俺も名前で呼びたいか」
「でしょ?何かもうそう言うプレイなのかと思っちゃうよ……」
「何言ってんだよ桜華……ぷ、プレイって……ははっ!」
ブン太は何かがツボだったのかケラケラと笑っている。
つられて私も笑ってしまう。
ブン太といるとどんな時でも笑えちゃうなあ……それ位楽しくて。
いつまでもこうしてブン太と笑ってたいと思ったけれど、それは突然の来訪者にて叶わなくなった。
「ねえ、貴女ちょっといい?」
「はい……?(あ、この人幸村君の二番目さん……)……私に何の御用でしょうか」
「いいから来て!」
「わっ……!ブン太、ごめんまた後でっ……!」
「お、おう……!(大丈夫かあれ……心配だな)」
いきなり現れたかと思えば、私の手を掴んで引っ張る彼女さん。
痛いなあと思いつつ、ブン太に声をかけておく。
凄く心配そうな顔して私の事見てる彼に心配かけてごめんねと心の中で謝る。
この事が終わってから改めてブン太には謝らならきゃいけないと考えながら。
連れて来られたのは人気のない校舎裏。
もしかして誰か連れが待ってるかも……?と、少し不安だったものの、どうやら彼女一人だけらしい。
一対一ならまだ何とかなりそうな気がした。
「……で、ここまで連れてきたのは一体?」
「よくもそんなしらばっくれた態度。昨日幸村君と帰ったって本当?」
「ああ……」
やっぱりその事だよね。
分かってはいたけど、こんなすぐばれるなんて。
だから言ったのになあ幸村君……絶対ばれるよって。
しかもその矛先は私に来るんだから嫌になる。
「帰ったよ。でもそれは幸村君に言われて……」
「何普通に言ってるの!?そもそも貴女と幸村君はどういう関係!?私が知ってるのは、自分が二番目って事だけっ……それ以外は聞いた事ないし知らないっ」
「(自分が二番って言うのは知ってて付き合ってるんだ……彼女も幸村君の事好きなんだなあ)」
「ちょっと、何黙ってるのよ!質問の答えは!?」
「えっと……何て言えばいいのかな……(身体だけの関係って素直に言えばいいのかな……?)」
少し迷っているうちに、目の前の彼女は泣きそうな顔をしていた。
どうしよう……泣かれたらまた大変だ。
この状況もし人にでも見られたらどう考えても私が泣かせたみたいになる。
いや、間違ってはいないのかもしれないけれど。
「っ、貴女幸村君の家に行ったんでしょ……?」
「あ、うん……」
「どうして貴女が!?まさか貴女も幸村君と付き合ってるの……!?」
「いや、ちょっと違うかな……私は彼女とかではないよ」
「じゃあどうして!?彼女の私は幸村君の家になんか行った事ないのに!一緒に帰ったりもした事ないのに!」
「え……?」
驚いた。
まさか彼女が幸村君の家に言った事がなかったなんて。
それに、一緒に帰ったこともなかったなんて。
付き合ってるのにそれは流石に可哀想だなと思わず同情してしまう。
「何なの貴女……!告白してOKしてもらえて嬉しくて……二番目だって言われても、それでも幸村君の事が好きだから了承して……なのに何これ。彼女でもない人に私負けてるの……?」
「勝ち負けとかそんな……彼女と私のポジションは全然違うよ……」
「……それに、聞いたんだけど」
「?」
「幸村君の事名前で呼んでたって……」
「それは、うん……そうだね」
「名前で呼んで怒られないの……」
「怒られるも何も、幸村君に名前で呼べって言われたからね」
「!」
彼女は驚いた表情で私を見ていた。
何、やっぱり名字で呼んでたのには何か意味があったの?
私は彼女が何か言ってくれないかなあと少し待ってみる事にした。
すると、ぽつりと小さな声で呟いた。
「私が名前で……精市って呼ぼうとしたら凄く嫌そうな顔してやめてくれないかなって言われたのに……」
「……」
「付き合ってるのにどうしてって聞いたけど、ちゃんとした答え返してくれなくて……。でも名前で呼べない位どうでもいいやって割り切る事にしたのに……。私の事だって、名前では呼んでくれないのに」
「(何それ……幸村君本当に何考えてるの?)」
「手も繋いでくれないし、セックスだって……私は幸村君の彼女なのかな……」
「……幸村君とシた事ないの?」
次は私が驚いてしまった。
彼女なのに、そういう事がなかったなんて。
何これ、益々混乱してきた。
彼の性欲の捌け口として抱かれていたけれど、まさか彼女とセックスしてなかったなんて。
彼女とセックスしない分を私としてたって事?
でもそれってどう言う……?私はてっきり彼女達と都合が合わなくてでも……って言う時に呼ばれているのかと思ってたのに。
まあそれにしてはやけに回数は多いなって思っていたけど。
「自信なくなってきたな……彼女って言う……」
「……」
彼女の顔が悲痛なものに変わるのを何だか見ていられなくて。
自分の存在がもしかしたら彼女を傷つけているんじゃないかって。
いや、もしかしなくてもきっと傷つけてるんだろうけど。
この居た堪れない空気をどうしようかと考えてみるけれど、答えは見つからない。
「じゃあさ、別れようか俺達」
「!?」
「ゆ、幸村君……!?(どうしてここに……!?)」
そこに突然現れたのは、今この場に一番来てはいけない彼でした。
あとがき
また幸村君との絡みが少ないですね。
あと半分くらいかな?と言う感じです。