12 誰とも違うこの気持ち

「はあ……」


ある時から、溜息が増えた。
その理由は幸村君。
いきなり名前で呼ばれたあの日……どきどきして止まらなくて、だけど嬉しくて仕方なかった。
そして言われた、「早く気付いて」って言葉。


(私の幸村君への気持ちって……)


その事を考えては溜息が出る。
幸村君といるのは楽しくて、笑いが絶えない。
だけど、一人になると溜息。


(何でなんだろうなあ……)


「桜華、また溜息?」

「理央……」

「最近溜息ばっかりね?私といてもつまらないのかしら?」

「違うっ……そうじゃないの、ごめんねっ……!(どうしよう怒らせちゃったかな……!?)」

「ふふふ、冗談よ」


理央はそう言って笑ってくれた。
だけど、大切な友達に少しでもそう思わせてしまってたのかと思うと自分が情けなくて。
理央といる時は溜息を極力つかないようにしないと心に誓う。


「それで、その溜息の原因は?」

「えっと……」

「話してみなさいよ、抱え込んでたってしんどいだけだから」

「そう、だよね……」


理央に促されて話す事を決めた。
でも喋り出しが分からなくてもごもごとしてしまう。
そんな私の様子を見かねたのか、理央が困り顔で尋ねてきた。


「……幸村の事じゃないの?」

「!」

「図星ね?……ねえ、桜華はどうしてそんなに幸村の事で悩むんだろうって思ってるんでしょ?」

「どうしてそこまで分かるの……?」

「女の勘ってやつよ。……すっごく癪なんだけどね、これに関しては」


理央が小さな声で言った言葉の意味はよく分からなかったけれど、でも流石理央だと思う。
全部お見通しだったなんて……恥ずかしいような、ほっとしたような。


(言わなくても分かってくれる人がいるって幸せだなあ……)


「で、桜華」

「?」

「……桜華は恋した事ある?」

「恋……」


そう聞かれて戸惑う。
そう言えば私自身、恋と言うものをした事がないかもしれない。
女の子も男の子も、みんな同じ様に仲良くしたくて……だから誰か一人に対して特別な感情を抱いた事はなかった。
みんな友達で、みんな大好きな人。


「じゃあ例えば、桜華の中の柳って?」

「蓮二?蓮二は……お兄ちゃんみたいな存在かなあ。優しくていつも頼らせてくれて、だけど厳しくもあって……全部ひっくるめて大好き」

「その好きは、友達として?」

「そうだね。あ、でもどこか家族愛に近い所もあるかも……?」

「成程ね。……じゃあ、同じ要領で幸村の事を考えてみて」

「幸村君……」


蓮二の事はあんなにすぐ考えられたのに、幸村君の事となると全然言葉に出来なくて。
それは嫌いとかじゃなくて、もっと別の……それこそ、言いたい事があり過ぎて言えないみたいなそんな感じ。


「桜華?」

「あ、えっと……幸村君も優しくて、テニスも教えてくれるし……それから……」

「それから?」

「一緒に遊んでくれたり、その時に繋いだ手は温かくて安心出来て……幸村君に可愛いって言われると嬉しいしどきどきして止まらなくなって……」

「(そこまで分かってるのにまだ気付かないなんて全く……)」

「だけど、知らない女の子と一緒にいるところを見た時は苦しくなって……もやもやして……幸村君の顔を見るのも辛かった」

「うん」

「でもそれでも、やっぱり幸村君に会いたいって思うし……喋ったり、また一緒にどこかに遊びに行きたいって気持ちになる。……どんな事があっても、私幸村君の事が……」


ここまで言ってはっとする。
蓮二の時と明らかに違う気持ち……この正体は……?


「好き、なんでしょ?一人の男の子として」

「え……?」

「桜華はね、幸村に恋してるんだよ。……恋愛感情での好きって事」

「幸村君に、恋……」


理央は綺麗に笑って見せた。
彼女から紡がれる一つ一つの言葉にすぐには考えが追い付かなくて。
だけど、徐々に理解し始める思考……赤くなる顔。

自覚した、気持ち。


「私、私っ……」

「今まで気付かなかったのが不思議なくらいだけど、それも桜華らしいと言うか」

「幸村君の事が、好き……」

「桜華はずっと前から幸村の事好きだったと思うけどね?自覚してなかっただけで」

「そうだったんだ……(理央には本当に全部お見通しだったんだね)」


頭をぽんぽんと撫でられる。
それさえも今は恥ずかしくて、照れてしまう。
理央はきっと分かってやってるんだろうけど。


(……あ、そう言えば)


この間幸村君に言われた言葉。
理央にも伝えておこう。


「ねえ理央」

「ん?」

「……この間ね、幸村君に言われたんだ。私自身の気持ちに早く気付いてって」

「そう……じゃあ、それは今気付けたじゃない」

「幸村君が好きって気持ちの事……?」

「うん。……幸村は気付いてほしかったんじゃないかな、桜華に早く。それできっと……」


理央はそれ以上は言わなかった。
何を言いたかったのかは分からなかったけれど、それでいいと思った。
その代わりに、私は幸村君に直接聞けばいいのだから。


(幸村君が私に言いたかった事……それと、気付いてほしいって言われてた私自身の気持ちをちゃんと伝えるから)





あとがき

終盤です。
桜華さんも理央ちゃんのお陰で気付く事が出来ました。
残りもお付き合いください。