13 今すぐ君に

「桜華?」

「え?……あ、ああ、ごめんなさいっ」


今日の桜華は変だ。
テニスの練習をしてても全然身が入っていないみたいで。
まるで俺の声が聞こえていないかの様に、ぼーっとしている。


(熱でもあるのかな……)


「今日はどうしたの……?もしかして体調悪い……?」

「ううん、そういう事じゃないんだ!ごめんね練習付き合ってくれてるのに」

「桜華に何もなければいいんだよ。……続けようか」

「うんっ!」


少し顔を赤らめながら元気を取り繕った様に明るく返事をした桜華だけど、何故かあまり俺と目を合わせてくれない。
それに、指導のためにいつもみたいに身体に触れるとその度に小さく震える。
こんな事は今までなかったのに。


(期待しちゃうな、こんなの……)


「ほら桜華、こういう時はもう少し腕を……」

「っ……」

「(ほらまただ……ああもうどうしよう、変な気持ちになっちゃいそうだ)」


いちいち反応する桜華。
それに俺だって反応してしまう……はっきり言って可愛過ぎる。欲情する。
このまま抱き締めてキスをして……と、脳内ではそんな妄想を繰り広げてしまう。
勿論、キス以上の事だって考える。
桜華が知ったら何て思うかな。


(でも俺だって男だから……好きな子にこんな風に反応されて何も思わない訳ないじゃないか)


その後も何度も桜華に触れた。
それはただ純粋に指導の一環として……だけれど、どうしても自分自身も緊張してしまって。
触れる手が熱くなる……触れた桜華の身体も熱いのが分かる。
触れる度もっと触れたくなって止まらなくなりそうな自分がいるのも怖い。


「はあ……」

「幸村君……?」

「あ、ごめんね溜息なんか……何でもないよ」

「……ううん、平気」


桜華は小さく笑うけど、やっぱり視線は俺に向かない。
その後は、彼女がラケットを振る音だけがその場に響いた。




結局二人ともぎこちないまま練習が終わった。
桜華は終始俺とは目を合わせなくて……だけど表情を見るとずっと顔を赤らめていて、瞳は潤んでいる。
それはまるで俺を誘っているようにも見えて、思わず喉を小さく鳴らしてしまう。

そんな帰り道。
今まであまり話さなかった桜華が口を開いた。


「……幸村君」

「何?」

「あの、ね……」

「?」


もじもじと何かを言いたげにしている桜華。
焦らされている感じがもどかしいけれど、彼女のペースに合わせる様にしてあげる。
じっと待っていると、やっと次の言葉が出てきた。
それは俺がずっと待っていた言葉。


「自分の気持ち、気付いたよ」

「!」

「やっとね、分かったんだ……私が幸村君の事どう思っているか」

「桜華……」


そう言って俺を見つめた桜華は、あまりにも綺麗で。
照れながら微笑んでいる表情は可愛らしいけれど、その瞳はただただ綺麗に澄んでいる。


(ああ、そういう事か……よかった。……じゃあ俺も言ってもいいんだよね)


雰囲気も何にもないただの帰り道だけど、もうそんな事どうでもよかった。
ただ今すぐに、自分の気持ちを桜華に伝えたい……それだけだった。


「……桜華、聞いてくれる?」

「ん……?」

「俺の気持ち」

「!」

「言ってもいい?今すぐここで……もう我慢出来ないんだ」

「うん……いいよ。私も幸村君の気持ち聞きたい」

「ん、ありがとう桜華」


そして伝える、俺の想いを。
大好きな大好きな、桜華に。


(溢れるくらいの想いを、こぼさず全部受け取ってね)




あとがき

短めになってしまいましたが次の話できっとラスト!
やっと完結させます。