14 初恋をありがとう

「俺がこの気持ちに気付いたのはね、桜華と二人で水族館に行った時なんだ」

「うん」

「手を繋いだ時に、桜華の楽しそうな笑顔を見る度にどきどきした。可愛いって思った」

「……」


桜華は静かに、だけどちゃんと俺の目を見ながら聞いてくれる。
その顔はどこまでも赤くなっていくけれど。
それさえも、可愛くて堪らない。


(こんな可愛い桜華に俺の気持ちを伝えられるんだから……今の俺はきっと最高に幸せだよね)


「お揃いのマスコットの運命の人かもって言葉も凄く嬉しくて……でもその時は何でそんなに嬉しく思うのか分からなかった」

「そうなの……?」

「うん。それでもね、桜華との運命があるならそれもいいやって思えたんだよ」


そう言って微笑んで見せる。
桜華も嬉しそうにしてる……ああ、その顔可愛いなあ。
今すぐ抱き締めたい。


「あと最後に海に行ったでしょ?……その時にね、きらきら輝く海よりも桜華の方が輝いて見えたんだ」

「それは……恥ずかしいなあ」

「でも本当の事。それで気付いたんだ……ああ、俺がずっと感じてたこの感情は……」

「……」


一度言葉を切って、そして桜華の手をゆっくりと取る。
その俺の一つ一つの行動に反応する桜華は、もうきっと分かっているんだよね。


(俺の気持ち、喜んでくれたらいいな)


「恋なんだなって」

「!」

「俺はね、桜華の事が大好きなんだって……そう気付いたんだよ」

「幸村君……」


桜華は今まで見た中で一番顔を真っ赤にしていて、目も今にも涙が溢れそうな程潤んでいる。
そんな顔、俺以外には見せないでほしいな。


(……早く桜華の気持ちが聞きたい)


逸る気持ちを見せない様に、俺は彼女に尋ねる。
もう、限界だから。


「桜華は……?桜華の気持ちも、聞かせて……?」

「私は……」

「うん……」

「幸村君の事が、好き……」

「その好きは……?」

「……幸村君の好きと同じだよ。私も幸村君に恋してる」

「ん……嬉しい。ありがとう桜華」


我慢しなくてもいいよね?
桜華の気持ちを知れたんだから……もっと触れてもいいよね?


(こんなに溢れる気持ちを抑える術を俺はこれしか知らないから)


俺はぎゅうっと桜華を抱き締める。
強く優しく……愛おしいと言う想いを目いっぱいに込めて。


「わっ……」

「桜華、俺……本当に嬉しい」

「私も嬉しいよ……幸村君に好きって言ってもらえて……」

「好きな人と気持ちが通じ合うってこんなに幸せなんだね」

「初めて、なの……?」

「え?……ふふ、そうだね。桜華は俺の初恋だから」

「幸村君の初恋!?」


驚いた表情で俺を見る桜華。
そんなに意外なのかな?俺が初恋なのって。
恋なんてする暇もなく、テニスばっかりやってたからね。
今もそれは変わらないけど……だけど桜華は特別。


(テニスと同じくらい……いやそれ以上にこんなにも大切にしたいと思える人は桜華だけだから)


「……初恋、なんだ」

「うん。そんなに意外かな……?」

「だって幸村君もてるのに」

「それは一方的な感情に過ぎないからね?俺から誰かを好きになった事はなかったよ」

「そっかあ……ふふふ」

「?」

「私も初恋だから……一緒だね、私達また」

「え……」


俺も桜華と同じ様に驚いた顔をしてしまった。
でもすぐににやけてしまう。
だって桜華も初恋だなんて……余りにも嬉しくて。


「ねえ、俺もう駄目かも……」

「?」

「桜華が初恋だって知って……俺以外に桜華が好きになった人がいないって分かって……幸せ過ぎて死んじゃいそう」

「だ、駄目だよ死んじゃっ……!」

「ふふ、本当には死なないよ。だって折角桜華を彼女に出来たのに」

「びっくりしたあ……」

「……桜華」

「?」

「……この初恋を、俺は絶対に一生かけて守るからね」

「……ありがとう、幸村君」


桜華はとても幸せそうに笑ってくれた。
その表情を見られただけでも俺はこの世で一番の幸せ者なんじゃないかと思ってしまう。


「……あ、そうだ」

「ん?」

「幸村君は、男になれたのかな……?」

「ああ、うん……そうだね。桜華にちゃんと気持ちを伝えられて、俺は男になれたと思うよ」


そう言うと桜華は少しもじもじとして恥ずかしそうにした。
可愛いんだけど、突然どうしたんだろう?


(何か言ってたっけ……?)


「……せ、いち」

「あ……(そうだ、そう言えば)」

「せいいち、くん」

「くんはだーめ。……精市、ね?」

「……精市」

「ふふ、合格」


自分で言ったのにすっかり忘れていた。
そうだった……男になれたら桜華で呼んでほしいって言ったんだった。
その事をちゃんと覚えていてくれた桜華がやっぱり好きだし、呼んでくれて凄く嬉しい。
俺は今の気持ちを素直に伝える。


「桜華、覚えていてくれてありがとう。……凄く凄く嬉しい、名前で呼んでもらえて」

「約束だったから……ちょっと恥ずかしいけど」

「仁王達の事は普通に呼べるのに?」

「……だってせ、精市は特別だから……」

「……桜華、可愛過ぎるから」


特別だって言葉がこんなにも沁みるなんて。
自分でも馬鹿だなと思うけど、きっと桜華から言われること全てが愛おしく感じてしまうんだと思う。
これはただの、桜華馬鹿。


(だけどそれだけ桜華の事が好きで、俺の中でも特別なんだって事だから……この馬鹿さはずっと持っていたいな)


「桜華はずっと俺に恋しててね」

「うん」

「俺以外の男に目を向ける暇なんて与えないから」

「か、覚悟してますっ……!」

「勿論俺も桜華以外見ないから安心してね」

「うん……えへへ、私って幸せ者だなあ」

「それは俺の台詞だよ」


そう言って俺達は笑い合った。
こんなにも幸せで、こんなにも嬉しかった事は今までなかったかもしれない。
だから俺はこの幸せを……この気持ちをずっと感じていくために絶対に桜華を大切にするんだ。
彼女にも俺と同じ気持ちを永遠に感じていてほしいから。


(俺の事を好きになってくれてありがとう。……桜華、大好きだよ)






あとがき

一応はこれでもしものお話は完結です。
こんな風に幸せな恋がしてみたかったです。
幸村君ならきっと本当にずっと大切にしてくれるのではないかと思います。

あと一話だけ続きます。