6 運命の人?


「どきどきするなあ……」

「ふふ、何が出るかな?」


湊さんはゆっくりと、少し緊張した面持ちで袋を開けた。
中を覗き、そしてそれを取り出す。
彼女が右手に持っていたのは、ピンクのイルカのマスコットだった。


「わあ、ピンクのイルカ可愛い……!」

「本当だ、凄く可愛いのが当たってよかったね?」

「うんっ!イルカ大好きだから嬉しいなあ……実は一番欲しいなって思ったのがイルカだったんだ」

「ああ、それじゃより嬉しいね。湊さんが欲しいものが当たってよかったよ、じゃあ次は俺が開けてみようかな……?」

「そうだ!幸村君も開けて開けて!」


期待の眼差しで俺の開封を見守る湊さん。
その顔も凄く可愛くて、でもどこかおかしくて俺は小さく笑う。
湊さんはそんな事気にならないくらい俺が開けるのに興味津々みたいだけど。


「じゃあ開けるね?」

「うん!何が出るかなあ……」


袋を破るように開けると、中から見覚えのあるものが出てきた。


「あれ?これって……」

「イルカだね?わあ……私のと一緒だ!凄い偶然」

「まさかの色違いだったね?」

「えへへ、何だか嬉しいなあ」


俺が開けた袋から出てきたのは、水色のイルカのマスコット。
何種類かあったと思うのに、湊さんと被るなんて思わなかった。
でも色が違うだけまた別物と言えばそうなのかもしれない。


「あ、そう言えばマスコットに意味があるって言ってなかったっけ……?」

「そうだった!確か紙が入ってるって……」


湊さんが自分の袋の中に入っている紙を取り出す。
折りたたまれたそれを開いて目を通すと、何故か少し赤くなる顔。


(そんな刺激的な事が書いてあるのかな……?)


気になって、自分でも確認してみる。


「イルカは……ああ、これか」


色ごとにもまた意味が違うらしく、思っていたよりも細かく書かれていた。
湊さんが引いたピンクのイルカは恋愛運が好調。
俺の水色は、健康運……だって。


(それにしても、湊さんが顔を赤らめたのは何で……?)


その答えがまだ見つからなくて、もう少し細かく見てみる。
すると、一番下の方にご丁寧にハートマークを付けて一つの文章が書かれてあった。


「同じマスコットのピンクと水色は恋愛の相性ばっちり……運命の人かも……?」

「す、すごい事が書いてあるよね……!」

「これって、俺達が正に……って事?」

「あ、えっと……そう言う事なのかな……?わわ……っ」


照れながら返事をする湊さん、可愛い。
にしても、運命の人だって……どうしよう、素直に嬉しい。
別に付き合ったりしてる訳でもないのに……。


(湊さんとの運命があるのならそれはそれでいいなって思えるんだよね)


ただの占いだけど、それでも凄く嬉しくて。
俺はさっきよりも数段愛着の湧いたイルカのマスコットを見つめる。
こいつのお陰で可愛らしい湊さんの反応も見れたし、感謝しなくちゃね。




マスコットを確認してからは、いよいよ食事に手を付ける。
目の前の湊さんはそれはもう美味しそうに食べていて、見ているだけでも癒される。
俺も彼女を見ながら一口ずつ口に運ぶ……うん、中々美味しい。


「幸村君、美味しいねっ!」

「うん、見た目も可愛いし美味しいし、選んでよかったね」

「幸村君と同じものを食べて、こうして一緒に美味しいねって言えるの嬉しい」

「ふふ、俺もそう思うよ(そう言ってる湊さんを見れる事がもっと嬉しいけど)」

「幸村君とご飯って初めてなのに、びっくりするくらい楽しい!」

「本当?そう言ってもらえると嬉しいな……俺も、湊さんとご飯食べてる今凄く幸せだなって感じるよ」

「それは何だか恥ずかしいなあ……!(幸せなんて……どきどきするよ幸村君っ)」

「でも本当の事だよ」

「えへへ……そっかあ、ありがとう!そう言ってくれて、私も幸せ」

「(ダメ、可愛過ぎる)」


余りにも可愛らしい湊さんと暫く話しながらご飯を食べて、大体同じタイミングで完食。
デザートまでぺろりと平らげた湊さん……その細い身体のどこに入るのか凄く気になる。
にしても、湊さんは本当に美味しそうに食べるから、きっと彼女とご飯を食べるとどんなものでも美味しくなっちゃうんだろうなって思った。


(またこうして湊さんとご飯食べたりしたいな……学校でも、外でも……だって絶対に楽しいって分かるから)


考え事をしながらふと腕時計に目を落とすと、その針が指している時間に少し驚く。
まだ少しの余裕はあるとは分かっていても、俺は思わず声を出していた。


「あ」

「幸村君?」

「そろそろイルカのショーが始まる時間だ、湊さんが大丈夫なら向かおうか」

「わ、もうそんな時間なんだ!私はもう大丈夫だよ、遅れないように行こう!」

「じゃあ行こうか、場所は分かってるから今からなら十分間に合うよ」

「よかったあ」


再び彼女の手を握る。
触れているだけで満たされる心……不思議と熱くなる気持ち。
手を繋ぐ度に頬を桃色に染める湊さんは可愛いなんてものじゃない。


(ずっと繋いでいたいな……離すのが勿体ないよ)




あとがき

幸村君、まだ好きと自覚していないのに激甘ですね。
ませているようで、まだまだ気持ちが分からない辺りは子供です。