7 初めて抱く感情


「わーすごいっ……!」


湊さんが目を輝かせながら目の前で行われているショーを見ている。
その横顔が可愛い。
ずっと声を出しながら楽しんでいる彼女を見ているだけで楽しくなる。


「幸村君?」

「え?」

「どうしたの……?イルカショー楽しくない……?」

「あ、いやそうじゃないよ……ごめんね。そう見えちゃったかな?(また湊さんばかり見ちゃった……)」

「わっ、私もごめんね……!何だかぼーっとしてるみたいだから気になっちゃって……!幸村君が楽しいならいいんだっ!」

「ふふ、うん……すっごく楽しいよ?特にショーを見てる湊さんを見るのが」

「ええ!?」


驚いた表情と照れた表情が入り交じった様な表情を見せる湊さん。
それもただ可愛いだけで、俺はくすくすと笑ってしまう。
その反応に「ちゃんとショー見て……!」って恥ずかしそうに言ってくる湊さんに胸の高鳴りが止まらなくなって。


(ああもう、何でこんなに可愛いんだろう?)


結局、終始ショーよりも湊さんの事ばかり見てしまった。
その事に「幸村君、イルカより私の事見てたでしょ……」ってむすっとしちゃう彼女の頭を撫でながら謝る。


「湊さんがショーを見て楽しそうにしてるのを見るだけで本当に俺も楽しかったんだ」

「幸村君……だから恥ずかしいってば」

「ふふ、照れてる湊さんも可愛いよ?すっごくね……?またずっと見ていたくなるな」

「もっ……だめ、幸村君の顔見れなくなる……」

「俺はずっと見ていてほしいけど?」

「!(ずるいずるい幸村君っ……!)」


ぷいっと顔を背ける湊さん。
でも耳まで真っ赤なのが丸見えで、ああ駄目だ……彼女といると本当に笑いが絶えないと言うか、胸がきゅんっとすると言うか……。

その後、思った以上に恥ずかしかったのか暫く湊さんは俺に顔を見せてくれなかったけど、たまにちらっと俺の方を見てはぷいっと顔を逸らす仕草は可愛くて。
顔は逸らしてるけど、手はちゃんと繋いでくれるし嫌がらない所を見ると本当に怒ってる訳ではなさそうだ。


(そういう所も本当……だめだ、顔がにやける)






ショーも観終わり、施設内は堪能した様に思ったので俺はそろそろこの場所からの移動を提案する事にした。
この頃にはすっかり湊さんの機嫌も直っていた。


「ねえ湊さん、イルカのショーも観たしそろそろここから出る?」

「あ……うん、そうだね!」

「そこに浜辺があるから、そこにって思ったんだけど……どうかな?」

「いいよ!」

「よかった、じゃあ行こう」


湊さんからの快諾を得られたので移動する事にした。
海なんていつも通学する時に見てるし珍しい物じゃないけど、でも湊さんと一緒に今見たくて。
ゆっくりと、彼女とそこで過ごしたいって思った。


水族館から出て、目の前に広がる浜辺に到着。
天気が良いから、海は青く光り輝いている……とても綺麗だ。
浜辺では家族連れやカップルが楽し気に過ごしている様子が見られ賑やかだ。


「わあ……今日は一段と綺麗だなあ……」

「そうだね?天気がすごく良いからかな?海がより青く見えるよね」

「うんっ!」


湊さんは楽しそうに笑うと、ぱっとつないでいた手を離した。
……あ、ちょっと寂しい。
でもそんな事気付かない彼女は、気付けば靴下までちゃんと脱いで波打ち際にいた。


(ああ、遊びたくなっちゃったのか)


「ねえねえ幸村君、すっごく気持ちいい……!」

「ふふ、はしゃぎ過ぎて服を濡らさないようにね?」

「はーい!」


にこにこしながら手を上げて返事をする湊さん……可愛い。
俺の頬も自然と緩んでしまう。
きっとこんなゆるゆるな顔、湊さんの前でしか出来ないんだろうなあ。


(でも……だからどうして湊さんの前では出来るんだろう……?)


早くこの答えが知りたい。
そう思ったその瞬間、「あ、そうだ!」……そう言いながら、湊さんは俺の方へ振り向いた。
何かあったのかな……?


「幸村君!」

「ん……?」

「今日は誘ってくれてありがとう!……幸村君とこうして遊べて……私、すっごく楽しいよ!こんなに楽しいの、初めて!」

「!」


きらきらと光る海に負けない程、きらきらと輝く湊さん。
どきどきする、止まらない。
胸が苦しい……ああでも全然嫌じゃない。
むしろ嬉しくて、幸せな苦しさ。

何となくずっと感じていたこの気持ち……やっとその正体が分かった。
どうして今まで分からなかったんだろう?
そう思ってしまう程、俺の中のこの感情は大きく揺るぎない物なのに。


(……そうか、俺は誰かにこの感情を抱くのはきっと初めてなんだ)


「幸村君……?」

「え……?」

「どうしたの?ぼーっとしてる」

「あ、ごめんね……大丈夫だよ」

「本当?それならいいんだけど……あっ!ねえ折角だから幸村君も遊ぼうっ!」

「わっ……」



湊さんは少し悪戯に笑いながら近寄ってくると、俺の手を引いた。
それにまたどきどきする。
今こういう事されると……なんて思うけど、でもやっぱり嬉しいからされるがままになる自分。


(……だってこんなにも湊さんが好きなんだから)





あとがき

やっと自覚しました。
これでも本編よりかは早いですね。