8 恋してる

「幸村君、今日は本当にありがとう!」

「こちらこそ、湊さんと遊べてよかったよ。付き合ってくれてありがとう」

「ううん!私の方こそ幸村君と遊べてよかったよ!あ、その……また遊んでほしいって言ったら……?」

「ふふ、勿論。言われなくてもまた誘うつもりだったよ」

「えへへ、嬉しい!次も楽しみだなあ」

「俺もだよ。またどこに行くか考えておくね?」

「うん!」


また遊んでほしいって言ってくれる湊さん……嬉し過ぎる。
言われなくてもまた誘う気満々だったし、だけど彼女から言ってくれるのって少なくとも俺に好意を持ってくれてるからだよね。
それが俺の好きとはまだ違ったとしても。


(湊さんも絶対に俺と同じ好きにしてみせるけどね)


「あ、じゃあもう家すぐそこだから……」

「ここで大丈夫?家の前まで送るよ?」

「ううん、幸村君の帰りも遅くなっちゃうから平気!ありがとう」

「そう?じゃあ気を付けて帰ってね……?また明日、学校で会おうね」

「うん!じゃあね幸村君!」


湊さんはたまに俺の方を振り返りながら家の方へ歩いて行った。
姿が見えなくなった瞬間、寂しさが襲う。
もう少し一緒にいたかったなあ……とか、もっと色んな事したかったなあとか考えだしたらきりがなくて。


「……でも今日は本当に遊べてよかった」


思わず一人呟く。
口に出てしまう程、俺の中で今日と言う日は特別だった。
だって、初めて人に恋してるって自覚出来た日なんだから。


(このマスコットも大切にしなきゃ)


俺はポケットに入れている彼女とお揃いのマスコットをぎゅっと握ると、そのまま歩き出した。

家に帰ったらまず湊さんにメールをしよう。
今日のお礼と、一緒に撮った写真も送らなきゃ。
ああどうしよう?この写真待ち受けにしてもいいかな?

見る度ににやけてしまう写真……浜辺にいた時に撮ったものだ。
湊さんは凄く恥ずかしがっていたけど、とても可愛く写っている。
いやまあ、湊さんはどんな表情でも可愛いんだけど。
だめだ、好きだって自覚したらこんなになってしまうんだな俺……。


(それでもいいか、だって湊さんを好きって言うだけでこんなにも幸せな気持ちになるんだから)






「あ、幸村君おはよう!」

「湊さん、おはよう。昨日の疲れは平気?」

「昨日は沢山眠れたし、元気元気だよ!」

「それはよかった」


今日は朝練が休みだったから一人でのんびり登校して来たら、たまたま朝廊下で湊さんとすれ違った。
昨日一日一緒にいたのに、こうして会えるとやっぱり嬉しくて。
思わず緩みそうになる頬に慌てて力を入れ表情を保つ。


「幸村君は疲れ大丈夫……?」

「俺?有難い事に体力は人一倍あるんだよね」

「テニスやってるもんね!って私もだ!」

「湊さんも体力はある方だと思うよ、あれだけはしゃいでたのに元気だしね」

「私も体力だけは人一倍あるのかも!」

「じゃあ俺といっしょだ」

「そうだね!」


にこっと笑いながらどこか嬉しそうに返事をする湊さんがやっぱり可愛い。
湊さんへの感想がもう可愛いとか好きとかしか出てこない……。
馬鹿なのかもしれないけれど、それくらい湊さんの事が好きって事なんだと思うとただ嬉しい。


「桜華、精市」

「あ、蓮二!おはよう」

「おはよう蓮二」

「ああ、おはよう」


蓮二に声をかけられた。
どこか楽しげに見えるのは気のせいだろうか……?
今にもデータを取りたいと言いたげな表情だ。


(まさか俺バレてしまう様な顔してたのかな……!?)


普段と何ら変わらない風を装いながら心の中で慌てていると、俺の隣にいた湊さんは嬉しそうに蓮二の元へ行ってしまった。
結構寂しいな……こればかりは仕方ないんだろうけど。
彼女の中ではまだまだ蓮二の方が大きい存在なのは分かっているから。


「ねえねえ蓮二聞いて聞いて!」

「どうした、やけに興奮しているようだが」

「あのね、昨日幸村君と水族館に行ってきたんだ!」

「ほお……(精市の奴気付いたのか?先程の表情と言い……興味深いな)」

「すっごく楽しかった!可愛いマスコットがもらえるご飯食べたり、イルカのショー見たり!」

「それはよかったな」

「うんっ!あ、でねでね、マスコットが幸村君と色違いだったんだー!すごいでしょ!」

「桜華は嬉しかったのか?」

「え?勿論!だってお揃いだよ?それだけで嬉しいに決まってる!」

「(可愛い可愛い可愛い)」


湊さんが蓮二に話す一つ一つが可愛い。
俺とお揃いってだけで嬉しいだって……ちょっと可愛過ぎないかな?
流石に我慢出来なくて、思わず口元を手で覆って顔を背ける。



「どうした精市(俺の予想は当たっているだろうな……面白い事になって来た)」

「幸村君……?」

「あ、いやその……今はそっとしておいてくれると嬉しいな。特に蓮二」

「ねえ蓮二、幸村君大丈夫かな……?」

「色んな意味では平気ではないだろうが、まあ心配いらないだろう(桜華が原因だとは口が裂けても言えないからな)」

「そっか……だったらいいんだけど……」


ちらっと横目で見ると、俺を心配そうに見つめる湊さん。
今日何回目だろう……可愛い。


(こんなに可愛い湊さんを独り占めできない今がもどかしいな)







あとがき

幸村君が大変な事に。
自覚したらこんな感じの幸村君がここの幸村君です。