3 寂しいのはいや
はあはあと、三人の息遣いしか聞こえない空間。
その中で最初に口を開いたのは幸村だった。
「桜華、大丈夫……?」
「うん、へいき……」
「俺、今までにないくらい興奮したかもしれない」
「せーいち、激しかったもんね……?」
桜華は嬉しそうにそう言うと、「だから私もすっごく気持ち良かった……」と続けた。
その言葉一つとっても、再び彼を煽るのだが、流石にぐっと我慢する。
そして次に彼は一人精を吐き出したブン太に声をかける。
「ブン太、君も大丈夫かい?」
「え……あ、ああ、平気だよ幸村君(色々と平気ではないけど……)」
「桜華を生でオカズに出来て良かったね?」
「(言い方に棘があるから!)」
彼のその言葉は余りにも突き刺さるものがあった。
自慰行為の先にあるのはただただ虚無感。
しかも、大好きな二人がセックスしているのを見て興奮して、それで抜いたなんて……その時は快楽で満たされたとしても、終わってしまえば何て事をしてしまったんだろうと言う後悔の念に苛まれる。
それも結局は後の祭りなのだが。
「……桜華、ごめん」
「どうして謝るの……?」
「だって、その……桜華のエロい姿見て興奮して、オカズにしてって……最低じゃん俺。いくらいいって言われてもさ……」
「ブン太……」
桜華は彼の反省しきった表情に、少し眉を下げながら笑う。
そして何を思ったのか服が乱れたままブン太に近付いた。
胸はさらけ出され、セックス中に幸村につけられたであろうキスマークを堂々と見せながら目の前に立つ彼女に、思わず目を見張る。
「な、桜華……急にどうしたんだよ……(そんな近くに来られたら……!胸、触れる距離……!)」
「一人でするのって寂しいんだよね……?」
「え……?」
「前に精市が言ってた……終わった後が寂しいんだって……人肌が恋しくなるって」
「ま、まあそう言う気持ちは湧くかもな……?」
「そっかあ……」
次に彼女から発せられるそれは余りにもブン太にとって衝撃的な一言だった。
勿論、様子を見ていた幸村にとっても。
だが発言した当の本人は、とても楽しそうだ。
「ブン太、えっちしよ……?」
「はっ!?」
「!?」
子供っぽく、それでいていやらしさを含んだ笑みを浮かべる桜華。
彼女の言った事がまるで分からず、言葉と言う言葉が出ないブン太。
余りにも突然過ぎるその発言は、幸村でさえも言葉を失ってしまう程。
彼女が普段とは違う事は分かってはいたが、まさかこんな事まで言い始めるとは……と、思考回路が追い付かない。
この長いようで一瞬の静寂を切り裂いたのはブン太だった。
「桜華、何言ってんだよ!意味分かって言ってんのかよ!?」
「うん、分かってるよ……?私と、ブン太が、えっちするって言う意味だよ……?」
「いやいや、だからそれ!おかしいだろぃ!?桜華は幸村君の彼女なのに……!」
「……だって、ブン太が寂しそうにしてるの嫌なんだもん」
「!」
しゅん……と言う効果音がつきそうな表情を浮かべた桜華に、ブン太は戸惑う。
だが流石にここで幸村も口を出す……傍観しているだけでは埒が明かないと察したのだ。
「桜華、落ち着いて?……桜華はブン太とえっちな事したいの?」
「んー……ブン太とえっちしたい」
「へえ……(ああもう本当におかしい。未だに俺とセックスするのだって恥ずかしがるくせに)」
「(幸村君怖え……!目が笑ってない……!)」
彼の表情は全く持って笑っていないのだが、桜華はそんな事に気付いてもいない様で。
幸村は何故彼女がこんな風になってしまったのかを考えるも、すぐに答えは出なかった。
だが代わりに、一つの気持ちが湧いて出てきた。
(……桜華が俺以外の男に抱かれるのなんて絶対に嫌だって思うけど、だけど何だろうな……今すっごく見てみたいって気持ちがあるのは)
俺もおかしくなってるのかもしれないな……と、そう思う幸村は、すっと視線をブン太に向けた。
自分の冷たい瞳で見つめられ強張る彼に、自嘲気味に笑う。
「そんな緊張しなくてもいいよ……ねえ、ブン太は桜華とシたいって思うかい?」
「えっ!?」
「いいよ、正直に答えて。……まあ答え何て分かり切っているけどね」
「う……(嘘ついったばれるよな……って言うかもう分り切ってるって言われてるし)……したくない訳ないじゃん。桜華の事、その……好きだし」
「うん、だよね」
幸村はにっこりと笑うと、次にこう言った。
「いいよ、桜華とシても」
「幸村君!?」
「何だろうね……自分でも変だって思うんだけど、桜華が他の男に抱かれてる所見て見たくなったんだよね」
「本当にそれでいいのかよ!?」
「元はと言えば桜華が望んだことだし、ね……?桜華はシたいんでしょ?ブン太と」
「うん、ブン太が寂しいの嫌だし……それに、ブン太とえっちするのどんなだろってどきどきして……ね、ブン太、いや……?」
潤ませた瞳で熱っぽく見つめ問いかけてくる桜華に、もう彼の理性も限界だった。
立ち上がり、彼女の身体をぎゅうっと抱き締める。
それだけでもすべてを理解した桜華は、嬉しそうに微笑む。
「桜華、っ……抱かせて、ほしい……」
「ん、いいよ……えっちしようね……?」
「うん……」
「あ、ねえシてもいいんだけど一つ言ってもいいかな?」
「?」
水を差す様に幸村が会話を遮る。
ブン太は何を言われるのだろうと内心冷や冷やとしている……一方の桜華は全く気にしていない様だが。
彼が言いたかったのは、いくつかの条件だった。
「ブン太に条件ね。一つは、キスは禁止。キスマーク付けるのも禁止」
「分かった」
「二つ、触っていいのは下半身のみ」
「え、何で?」
「何でも。桜華の胸は俺だけのものなの。勿論本当は全部俺だけのだけど……今日は目を瞑るから」
「(胸触りたかったな……まあ仕方ないか……)……了解」
「その約束を守って、桜華を愉しませてあげてね?」
「(何かすげープレッシャー……!童貞なんだけど俺!?)」
二人の会話を聞いていた桜華は、少しむっとした表情をしていた。
それに先に気付いたのは幸村で、どうしたのかと声をかける。
「どうしてそんな顔してるの?」
「だって……早くしたいのに……」
「ああ、そう言う事か……ごめんね?でも俺とブン太にとって大切な事だったから」
「そっかあ……じゃあ仕方ないけど……もういい……?」
「うん、いいよ。沢山ブン太に可愛がってもらいな?」
「はあい」
「(ああやばい、本当に桜華とすんの俺?……満足させられるのか!?)」
いざ本当にするとなったら緊張して堪らなくなったブン太。
そんな彼の気持ちなんて知る由のない桜華は、うっとりとした表情で誘う。
それは童貞であり彼女を好きである彼にとってはあまりにも甘美。
「はっ……っ、桜華」
「あ……ぶんたぁ……」
「……本当に触ってもいいの……?」
「うん、いっぱい触ってほしいよ……?」
「っ……」
そんな事を言われてしまっては緊張していようが何だろうが我慢出来ない。
ブン太は幸村に言われた条件を破らない様に、胸には触らずまずはお腹から腰に掛けて手を這わせてみる。
くすぐったいのか、彼女は小さく声を出す。
「ゃっ、ぶんた、んっ……」
「くすぐったいの……?」
「うんっ……ぁ」
「そっか……じゃあここは……?」
次に彼は足の付け根辺りに触れる。
びくっと震える桜華の姿に興奮を隠せない。
ブン太が足を撫でる度、彼女の声も大きくなる。
「あっ、ぁ、んっ……ひぁっ、ぶんたっ……」
「足も好きなんだ……?」
「うんっ、すき……」
「桜華本当エロ過ぎじゃね……やばい……」
「もっと、ぁ……ぶんた、触って……」
彼女からのおねだりにより昂るブン太は、足を撫でていた手を前触れなく秘部に移す。
そこを軽く撫でるだけでも、桜華は可愛らしく声を上げる。
その姿がまた彼を煽って仕方ない。
「あぁ、んっ……ゃっ、ぶんた、そこっ……」
「んー……?ここ、好きなんでしょ……?幸村君に触られてる時も気持ち良さそうにしてたじゃん」
「うん、すきっ……きもちいい、だからもっと……」
「そういう事?全く……桜華本当えっち……」
ブン太はくちゅくちゅと彼女のそこを何度も撫でる。
たまに敏感な部分を外して触れる彼にねだる様に足をくねらせる桜華は、ただただいやらしいだけで。
彼は余裕のない所ばかりを見られたくなくて、何とか冷静に、自分はまだ余裕なんだぞと言った態度で彼女を攻め続ける。
「ぁぁっ、あっ、ぶんたぁっ……ふぁっ……」
「……いつもそんなにやらしいの桜華って……幸村君も大変だね?」
「いつもはもっと恥ずかしがるんだよ?何となくわかるでしょ?……今日は本当におかしいんだよね……多分何かあったんだろうけど」
「そっか……まあ、そうだよな(あの桜華がこんな風になるなんてまずおかしいし……俺としてはラッキーだった訳だけど)」
幸村の言葉を聞いてどこか納得するブン太。
そう、とてもいつもの彼女からは考えられない程の乱れっぷり。
勿論、セックスの時に性格が変わる……何て事も考えこそしたが、どうやらそうでもないらしい。
流石の幸村君も最初は動揺したんだろうなあ……なんて考えながら、ブン太は目の前でずっと嬌声を上げ続けている桜華に目をやり、そして心の中で小さく呟く。
(ああもう本当に可愛い……どうしても好きなんだよなあ俺、意味のない片想いだって分かってても)
あとがき
いつもの事ですが思ったより長くなりそうです。
次回はブン太との本番有になると思います、注意です。